NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2017, No.28

【アジア取材ノート】

人材生かす斬新な働く場づくり
マレーシアPKTロジ、3つの企業文化

マレーシア

アジアに進出する日系企業にとって、社員が活躍できる職場環境を作り出すことは必要不可欠。マレーシアの運送業者PKTロジスティクスは人材を生かすために3つの企業文化を基にしたユニークな経営方針を打ち出し、斬新な働く場づくりを行っている。日系企業にも興味深いヒントを提供してくれそうだ。(齋藤眞美=文・写真)

階段代わりのスライダーから下りるPKTロジスティクスのマイケル・ティオCEO

カフェには専属の料理人がいる

自動車、食品・飲料分野で日系企業とのビジネスを強化するPKT。倉庫面積約5万5,000平方メートルの物流センターに併設する15階建ての本社を「ライトハウス(灯台)」と名付け、マイケル・ティオ最高経営責任者(CEO)が打ち立てた3つの企業文化「幸せに働く」「正直に働く」「健康に働く」に沿った斬新な工夫を社内の至る所に凝らす。「マレーシアの物流業界を世界水準に引き上げるためには従業員も変わらなければならない。そのために必要なことを考えた」と話す。

幸せに、健康に、正直に

「幸せに働く」で力点が置かれるのは食事場所の環境だ。まるで街中にいるかのようなしゃれたカウンターを備えたカフェ、社員食堂を兼ねたビストロがあり、毎週月曜日は全社員がここで専属シェフの手による朝食をとってその週をスタートする。

社内のカフェでミーティングする社員

サファリをイメージしたパントリー。社員のアイデアを取り入れ趣向を凝らしたパントリーを各階に設けた

各階のパントリーはアラスカや北海道、カナダ、ロンドンなど世界の都市をイメージし、デスク環境とは異空間のインテリアだ。サファリをイメージしたパントリーではランプの下がるテントにアウトドア型のテーブルがあり、今にも動き出きだしそうな野生動物の壁画が描かれる。各パントリーのデザインには社員のアイデアも取り入れた。

「健康に働く」ためにフィットネスジムも設ける。社員が無料でトレーニングするだけでなく、半年ごとにコンペティションを行い、目標通りのダイエットに成功した最優秀者に海外旅行をプレゼントする。「コンペを始めてから、ジム参加率は約6割増えた」(ティオCEO)。また、ジムにひと月12回以上通うと、翌月使用できる有給休暇が取得できる特典もある。

「正直に働く」の実践として、スナック菓子や身の回り品を売る社内のミニショップに売り子を置いていない。購入した物品を社員がその場の帳面に自己申告し、キャッシュボックスに現金を入れる。ティオCEOによると、最初の2年の「正直率(支払われた現金と売れた品物の価格が一致する割合)」は70%だったが、今はほぼ100%に達した。「疑わしい人がいても糾弾するのではなく教育する」のが肝要だという。

社内に設けられた無人のミニショップ。「正直さは人間の基本的価値」とのメッセージが

社内には階段代わりに使用する遊具のようなスライダーやゲームセンターもある。「社員に型にはまらない発想を大事にしてほしい」との思いが込められている。「わが社の社員1人当たりのパフォーマンスは同業他社と比較して2.5倍程度ある」とティオCEO。約500人の現在の社員の年間離職率は約2%、そして離職者の半数が復職してくるという。

世界レベルの物流ビジネスを

ティオCEOは1996年、留学先の英国でマレーシアへの中古車輸出ビジネスを手掛けた。当時のマレーシアの物流業界を「とんでもなく遅れた、未成熟な状態だった」と振り返る。欧米系外資大手に国内市場を牛耳られる祖国で世界レベルの物流ビジネスを育てたいと、2008年にアジアからの参入者である日本、韓国との企業との合弁ビジネスに舵を切ったという。以降、特に自動車分野の物流に注力し、一定の成果を挙げるようになった。

日系と関係強化

PKTは昨年、ダイセーエブリー二十四(愛知県一宮市)との合弁会社「PKTエブリー二十四」を設立。今年3月には商船三井から20.9%の出資を受け入れた。

日系企業との関係を深めているのは、強みとしてきた自動車関連の物流に加えて、食品・飲料分野の物流ビジネスを拡大するためだ。同社は現在9割余りを自動車関連を中心とする非食品物流で占める事業構成を、自動車関連60%、飲料・食品関連40%とする目標を掲げる。昨年には約650平方メートルの冷蔵・冷凍品専用倉庫を設置した。

マレーシア市場参入が進む日系飲食業へのサービス提供、20年に開催される東京五輪に向けたハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)商品の輸出を含め、同年までに冷蔵・冷凍品事業で7,600万リンギ(約18億8,200万円)の売り上げを目標に掲げたところだ。

ティオCEOは「五輪に向けてムスリムに市場を開いた日本とのビジネスは拡大すると考えている。日本の潜在性は大きい」と話す。

自動車、電気・電子分野向けとして現在、ペナン州バトゥカワン工業団地に28ヘクタールの土地を確保し、大規模物流センターを建設している。同センターは今後、旗艦施設となり、第一弾となる最新鋭の倉庫施設(倉庫面積:約6万平方メートル)が間もなく竣工(しゅんこう)する計画だ。

「3つの文化」を背景にマレーシア人によるマレーシアの物流ビジネスを発展させようとするティオCEO。これから日系企業とのどんな相乗効果が生まれるのか、新たな展開に期待が高まる。


<PKTロジスティックス>

PKTロジスティクスは1974年に華人系マレーシア人・ティオ家のファミリービジネスとして始まった。ティオCEOは先ごろ、売上高10億リンギを達成した時点でマレーシア証券取引所(ブルサ・マレーシア)に上場する意向を発表。早ければ18年にも達成できる見通しだとしている。ライトハウスは、希望者を対象に食事付きのガイドツアーを1人25リンギで行っている。

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