NNAカンパサール

アジア経済を視る May, 2017, No.28

【アジアに行くならこれを読め!】

『あとは野となれ大和撫子』

「それで、しょうがないから、国家をやることにしようかなと」――。両親を紛争で失い、後宮で教育を受ける日系二世の少女ナツキは、リーダー格の少女に決意を告げられる。そしてナツキは、中央アジアの崩壊寸前の小国で突如、国防相を務めることになる。

後宮の少女たちが率いることになったのは、架空の小国「アラルスタン」。カザフスタンとウズベキスタンの間に位置する砂漠の中の国で、現実の世界では、環境破壊によってほぼ消滅した塩湖、アラル海があった地域だ。ソ連が崩壊に向かう1990年に建国され、ウイグルやチェチェンといった周辺の紛争地帯から新天地を求めた人々が集まって住んでいるという設定で、多民族や資源、環境破壊など、現代の中央アジアのさまざまな問題が題材となっている。そして、大人たちからの反発や過激派組織との内戦、周辺国の脅威など山積みの課題が、主人公たちに降りかかっていく。

著者の宮内氏は本書の執筆に当たり、ウズベキスタンなどを訪れている。ロシア語を共通語とした会話や、スペインのファストファッションブランド『ZARA』が人気であることなど、現地取材が中央アジアのリアルな描写に生きている。困難に立ち向かう少女たちに励まされながら、中央アジアの空気感も味わえる一冊だ。


『あとは野となれ大和撫子』

宮内悠介 KADOKAWA
2017年4月発行 1,600円+税

次なる自分を生まないために。あまねく生者のために。(本書より)

<目次 のぞき見>
  • ・塩の都
  • ・水上の後宮
  • ・船の墓場
  • ・あまねく生者のために
  • ・レインメーカー

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)

1979年、東京生まれ。SF作家。早稲田大学第一文学部卒業。高校生から小説を書き始め、大学ではワセダミステリクラブに入る。2010年に囲碁を題材とした『盤上の夜』で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞、12年に同作収録の『盤上の夜』で単行本デビュー。その後も人種や紛争など幅広い題材を扱った作品を刊行し、13年には『ヨハネスブルグの天使たち』が直木賞に、16年には『カブールの園』が芥川賞にそれぞれノミネートされた。

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