カンパサール

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NEXTアジア 識者が語る〜アジアのフロンティアに挑む〜

安積敏政(あさかとしまさ)甲南大学経営学部教授

1971年に東北大学経済学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。同社アジア大洋州地域統括会社の副社長などを経て2007年から現職。12年から14年の2年間、日本の中堅・中小企業のアジア進出の実態を調査するためアジア20カ国・地域100社超の現地法人を直接訪問し、インタビューする実証研究を実施。その結果を『実態調査で見た中堅・中小企業のアジア進出戦略「光と陰」』(日刊工業新聞社)と題して14年に上梓した。

既存三極とNEXTアジア

2010年代後半に入り、20年代の新たなアジアのフロンティアへの本格進出が検討される時代を迎えている。アジアはかつて、東アジアの中国、東南アジアのASEAN10カ国、南アジアのインドが主たる投資先、貿易相手先であったが、これら既存の三極にさらにその先となるNEXTアジア諸国をどのように組み込むのか、または相乗効果を生み出すのかが模索され始めている。

具体的には、東アジアのモンゴルや東南アジアの東ティモール、南アジアのパキスタン、バングラデシュ、中央アジアのカザフスタンなど。しかも、これらの新興国国内だけに留まることなく、日本本国や周辺国・地域との国際分業を意識したオペレーションも魅力だ。

中小企業こそフロンティアへの挑戦者

1970年代から90年代までは、製造業の大手企業の進出した後を中小企業が“現地サポートインダストリー”の一翼を担って海外進出するというパターンが圧倒的に多かった。当時、中小企業にとっては、大企業の国際化の動きが先行指標であった。

しかしながら2000年代初頭に入ると、中小企業の中には自らの意思でアジア進出を図る動きが見られ、そうした企業の中から成功事例が多く出てきたことが指摘できる。大企業の下請けとして受動的に現地進出するのではなく、世界の変化を読みこんで、自らの国際競争力を認識し、能動的にスピード感を持ってビジネスチャンスに臨む中小企業が現れた。大企業にとり逆に先行指標となる兆しが出てきた。

例えば、徳島県鳴門市に本社を置くアパレルメーカー、丸久のバングラデシュ進出である。同社は09年、首都ダッカ市郊外にあるアダムジー輸出加工区に、原材料調達から製品までの一貫生産を手掛ける従業員2,000人の現地法人、丸久パシフィックを100%出資で設立している。

同地への進出背景には、廉価な人件費を生かした労働集約的なアパレル生産により先進国の特恵関税を活用できることがある。この制度のもとでは日本がバングラデシュ製のニット製品を輸入する際に関税が免除される。また、急速な経済発展を遂げる中国の「人件費の上昇」と「中国政府のチャイナリスク」を同時に分散・回避することにもつながる。

一方では失敗事例も多数みられる。中小企業の海外進出への素早い意思決定には“光と陰”の両面があり、大企業では決してこのような間違いはしないだろうという稚拙な進出検討も目立つ。中小企業の持つ「スピード」「小回り」「フットワーク」といった強みを生かすためには、“やって見なければわからない”ではなく、海外進出検討時、現地操業、現地事業の縮小・撤退という3段階における基本チェックリストをもって確認するといった堅実な経営が求められる。

NEXTアジアを歩いて

筆者はアジア20カ国の主要都市を訪問し、ショッピングセンターや伝統的な地元市場、計97カ所を歩いた。アジアで急増する中間層の消費動向を体感するのが目的だった。その一部を紹介する。

急成長するモンゴルと拡大する消費

ウランバートルの百貨店「ノミンデパート」(NNA撮影)

ダイナミックな成長を遂げるモンゴルへの日本の進出企業数は、筆者訪問時点で400社弱であり、その内訳は完全出資の現地法人119社、合弁企業254社、駐在員事務所25社である。

これらの大半は中小企業であり、鉱物資源をてこにした高度経済成長への期待、日本の円借款による新ウランバートル国際空港建設プロジェクトの稼働、市内に25階以上の高層建築が多数見込めるビジネスチャンス、新たな製造拠点の設立模索などが背景にある。これらの進出に伴い、日本の中小の証券会社、法律事務所、歯科医院、レストラン、カラオケバー、ラウンジ、サウナ、ビューティーサロン、旅行会社などのサービス産業の進出も積極的である。

首都ウランバートル市(人口134万人)では、ショッピングセンターの「ナランモール」、百貨店の「ノミンデパート」「スカイデパート」の3カ所を訪問した。

ナランモールではアディダス、セイコー、ソニー、サムスンなどの有名ブランドが入居テナントだ。地元の大手電機店ノミンが昔の国営百貨店を買収してできたモンゴル最大の百貨店、ノミンデパートでは、日用品、食料品、電気製品、家具、書籍、民族衣装に加えてヤマハの楽器コーナーやフィットネスクラブが設けてある。またチンギスハンホテルの裏手建物にある韓国資本のスカイデパートはモンゴル初のエスカレーターが設置されたことで有名であり、食料品、アパレル、化粧品、韓国製品などの品ぞろえが豊富である。いずれの場所でもモンゴルの消費の高まりと広がりが実感でき同国のイメージが大きく変わる。

大きく変貌する東ティモールマーケット

「ティモールプラザ」の内装(NNA撮影)

東ティモールへの進出企業および可能性のある企業は、日本、韓国、中国、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、米国、ポルトガルなどの企業である。その進出動機は、資源確保、海洋権益、ASEAN加盟の可能性、国連の投票権、地政学上の近接さ、旧宗主国、言語的優位性、製造業やサービス業にとっての将来のビジネスチャンス、NPO(非営利組織)、BOP(ベース・オブ・ピラミッド)、ODA(政府開発援助)、フェアトレードなど様々である。

首都ディリには、インドネシア・ジャワ島第2の都市スラバヤの華商系インドネシア人が大型電器店の「ヒーローインターナショナル」と「ブラボーインターナショナル」などを構えている。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、扇風機、炊飯器の家電からソーラーパネルまであらゆる電機製品を販売している。同時に店内にキリスト教関連の花輪やマリア像の額が売られているのを見ると、かつてこの国がカトリック教のポルトガル領だったことを思い出す。

また、市中を歩くと「スカイネット」、「ダイナミックネット」といった看板を掲げるインターネット・カフェが複数あり、その料金と通信容量に興味が湧く。近代的なショッピングセンターの「ティモールプラザ」では冷凍食品や観賞用熱帯魚が売られ、ヘアサロンやフードコートがオープンしている。「Demekin$7」、「Tosakin$10」と書かれた金魚を扱う熱帯魚売り場ではフィリピンから出稼ぎに来ている笑顔の女性店員が英語で応対してくれた。

モダンなSCが出現したバングラデシュ

バングラデシュのショッピングセンター「ボシュンドラシティ」(筆者提供)

バングラデシュは人口1億5,000万人のイスラム教徒国である。人口1,500万人の首都ダッカ市内では同国の消費レベルを見るため、代表的なショッピングセンターの「ニューマーケット」「ボシュンドラシティ」「バナニショッピングセンター」「アゴラスーパーマーケット」を訪れた。

名前通りかつて最先端をいった「ニューマーケット」は、生鮮品などの食材から陶器、アパレル、書籍に至るあらゆる日常生活品の伝統市場であり、ピザ屋などの店も構える。庶民的な価格のため多くの市民で賑わっている。このほか、アパレル品を中心に文房具から大学生のコピーサービスまで扱うバナニショッピングセンターや、羊肉・牛肉から野菜、穀類、香辛料そしてオムツや電球まで扱うアゴラスーパーマーケットがある。

一方、同国の最先端の消費をけん引しているボシュンドラシティは2004年8月にオープンした巨大な複合ビルで、モール部分は円形の吹き抜けの8階建てのショッピングセンターである。ランバン、ZARAといった有名ブランドが多数テナントとして店を構える。4階には高級品のサリーや同国の伝統的な衣装のサロワカミーズを扱う売り場がある。最上階の8階にはフードコートと複数の映画館があり、新しい生活スタイルの提案がなされている印象である。

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