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【トップは語る】ダイドードリンコ代表取締役社長:髙松富也

自販機のダイドー アジアで歩むユニークな道

全国28万台、自動販売機の保有台数は国内3位。自販機での売り上げ比率は業界平均の約3倍にも上る「自販機のダイドー」。ユニークさを信条に大手にない個性豊かなドリンクを繰り出す。実はロシア、トルコなど日系の飲料企業が少ない新興市場も早くから目を向け、独自のアプローチを試みている。

Photo by Mayumi TAKAHASHI

国内の飲料事業は売り上げの6割近くを占める主力の缶コーヒーが伸びており堅調です。今年は新商品「うまみブレンド」を発売したほか、ボトル缶のシリーズ「世界一のバリスタ」も好調。天候が良かった今夏は水やお茶なども売り上げに貢献しています。

通期の売り上げについては気候など変動要因も大きいことから、保守的に見た「据え置き」の予想ですが、下期も順調なら増収増益で着地できる見通しです。

今年4月からは新たに提携したキリンビバレッジの自販機にもコーヒーを出荷し、売り上げ増につながりました。当社の自販機ではキリン「午後の紅茶」2品を販売。ブランド力がある商品で自販機全体の売り上げ増にも貢献しています。これから秋や冬のホットドリンクの時期も含めて1年ほど続けてみて効果を検証し、次の展開を検討していきたい。

最近はコンビニ各社のカウンターコーヒーが発売されて缶コーヒーも影響を受けたんですけれども、それまで消費量が横ばいだったコーヒー市場は上向きました。お客様がカウンターコーヒーから缶コーヒーに回帰する動きも見られます。新しくコーヒーを飲むようになったお客様の選択肢の一つとして、缶コーヒーを選んで頂けるような提案をしていかなければいけないと思っています。

例えば、新商品のうまみブレンドは、従来は缶コーヒーを飲まなかった若者向けの商品です。このように、カフェやコンビニを利用している若い方にも缶コーヒーを手に取ってもらえるように、取り組んでいます。

イスラム圏がターゲット

今年、トルコ食品大手ユルドゥズから飲料子会社3社を買収。マレーシアでも食品大手マミーの飲料部門に出資し、合弁会社化した。2009年にはロシア極東のウラジオストク市で試験的に自販機を設置し、13年にはロシア現地法人を設立してモスクワにも進出。その進出先は他の日系大手とは一線を画す

今後、国内市場では飛躍的な成長はなかなか見込めず、海外にどんどん目を向けなければいけないと日本の多くの飲料メーカーは認識しています。ただ、海外に出ると今度はコカ・コーラ、ペプシなど知名度があるグローバルブランドと対決することになる。特にアジアでは現地のブランドもたくさんあるので、その中でどのようなポジションを取っていくかが一番の課題になります。

当社は後発なので、今からグローバルブランドのコカ・コーラやペプシと真っ向から勝負しようとは全く考えていません。ダイドーがアジアに進出する上では、大手にないユニークな商品やクオリティーを志向した商品開発、ブランド展開をしていく。そういうポジショニングが目指す方向性かなと考えます。

進出先としては14年度から進めてきた中期経営計画で中国、ロシア、イスラム圏という3つのターゲットエリアを定めています。イスラム圏ではトルコとマレーシアに参入したところで、両国の事業は8月末に発表した第2四半期決算での増収に大きく寄与しました。来期からは利益面でも良い影響が現れるはずです。

なぜ、イスラム圏に出るのか。イスラム教徒の数は世界の人口の3分の1近くに上ります。彼らはハラル食品(イスラム教の戒律で許された食品)が必要で、アルコールも禁じられているためソフトドリンクの市場にはポテンシャルがあると見ています。これもグローバル大手といかに違うところをターゲットにするかという視点に基づきます。

例えばトルコの飲料市場の場合は炭酸飲料、フルーツジュースがそれぞれ数品ほどしかなく、最近ようやく紅茶の商品が出てきた程度。まだ限られたアイテムしか展開されていない状況です。トルコ人は食に関して非常に保守的でこだわりが強い。でも、逆に若い世代からは新しい物を求める風潮も生まれています。トルコになかったカテゴリの商品を展開することでボリュームを伸ばせると思います。

トルコでは147億円(今年2月3日時点)規模の現地企業を買収しました。その既存ブランドのコーラ「コーラトゥルカ」、透明な炭酸飲料「チャムリジャ」はそれぞれのカテゴリで高い知名度を有しています。いきなりゼロから新製品を投入するわけではなく、まずは既存ブランドを活用して成長を図る。そして、次のステップではコーヒーなどを展開し、高品質なイメージのダイドーブランドを浸透させていきたい。

将来的には日系企業に身近で人気のある東南アジアのシンガポール、インドネシア、ベトナム、フィリピンなどにも拡大したいと考えています。まずは拠点となるマレーシアで地盤を固め、インドネシアやフィリピンなど人口が多くて成長性が高い国に展開するためのハブにしていくつもりです。

ロシアは固定費をペイしやすい

ダイドードリンコの商品。コーヒー果肉を取り入れたコーヒー、ゼリー入り炭酸など個性的なアイテムを頻繁にリリースする。右側のペットボトルはトルコ、マレーシアの子会社が展開する商品

自販機の海外展開は、まず中国でトライしました。現地オペレーターに出資して自前で1,000台ほど展開しましたが、なかなか採算化しなかったので譲渡しました。機材にコストがかかる自販機は一定の売り上げがないとペイできないビジネスですが、中国では商品単価が低かった。ちなみに、その後は中国の自販機も独自に進化して市場も伸びているようです。

一方、ロシアには日本から自販機と製品を輸出して販売しています。いま販売機は五百数十台ほどで、台数と設置場所は着実に増えています。もともと物価が高いロシアは販売価格を高く設定でき、自販機の固定費をペイしやすい。

ロシアは公共施設の入札案件が中心で、なかなか予定通りに実施されないことも多く難しい面もありますが、モスクワがうまくいけば一つのモデルケースとして他の都市にも広げられます。発展途上国では自販機は難しいし、逆に先進国過ぎても伸びる余地が小さいので、その中間に当たるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)くらいの国や都市ならターゲットにできるかもしれません。

「飲料一本足」を脱する

モスクワの鉄道駅ホームに設置されたダイドーの自販機。ほかに空港、バス停、地下道、百貨店、オフィスにも設置している。市内に自販機は少なく競合はコカ・コーラとイタリア製のカップ式販売機がある程度だ。ダイドー製品は全て日本製で表記も日本語。売れ筋はフルーツテイストの清涼飲料で容量500ミリリットルの大きなものが人気(同社提供)

第2四半期の業績を見る限り、16年度は連結売上高の通期予想1,710億円に達する可能性が高い。だが、中期経営計画では18年度に2,000億円の目標を掲げる。その高みに昇るにはもう一段階、増収のためのエンジンが欠かせない

今後、飲料事業は海外でさらに拡大したいと考えています。それはコカ・コーラやペプシを目指すわけではなく、ダイドーならではのユニークな製品やブランドを世界に広めるため。大手が本腰を入れないユニークなカテゴリに注力し、缶コーヒーやペットボトルの飲料であっても徹底的にこだわった本物志向の商品をつくる。そういうことをダイドーのグローバルスタンダードとして展開したい。

当面は先ほど挙げた3つのターゲットエリアを中心に事業を進めます。特にアジア、イスラム圏ではトルコやマレーシアという拠点ができたので、ここから周辺国に波及させるのが次なるステップ。自前で取り組んできた中国やロシアの事業も軌道に乗せていきたい。

海外進出で肝心なM&A(合弁・買収)は、基本的に主導権をとる形でなければ意味がないと思っています。マイノリティーで入って徐々にというのではやる意味がない。トルコの場合は一定規模の事業を売却することが明確で、買うか買わないかだったので買いました。マレーシアは約50%ずつの合弁ですが。JV(合弁)の場合など先方との相性は特に大事です。お互い波長が合うというか、信頼関係があって長く一緒に成長していけるという思いが通じることが必要です。

中期経営計画の目標2,000億円に向けては、今期はトルコ、マレーシアの事業が加わって1,500億から1,700億円まで届きそうなので、残り300億をいかに上積みするかが課題です。その分は国内、特にヘルスケアの領域で新事業をM&Aすることで確保しようとしています。

子会社の大同薬品工業は栄養ドリンクや美容ドリンクなどドリンク剤のOEM(相手先ブランドによる受託製造)を行っており、既存のヘルスケア事業との関連領域で事業を拡大する方針です。

これまでは「飲料一本足」という感じでしたが、食品やヘルスケアの領域でも2本目、3本目の柱を立てたい。ゆくゆくは飲料事業に匹敵する規模にしていきたいというのが長期的な目標です。(聞き手・岡下貴寛)

オフの横顔

富士山頂のダイドー自販機と髙松社長(同社提供)

今年40歳なんですけれども、急激に体質が変わってきたこともあり、健康管理を強く意識しています。そこで最近はランニングを始めました。去年はハーフマラソンの大会に出場し、今年は10月にフルマラソンを走ります。 さらに、ただ街を走るだけでは面白くないので、トレイルランニングといって山を走っています。今年は8月に仲間たちと富士山に行きました。

【プロフィール】
髙松富也(たかまつ・とみや)
1976年生まれ、40歳。2001年、京都大学経済学部卒業後に三洋電機入社。04年4月、ダイドードリンコ入社。08年、取締役。常務取締役、専務取締役、取締役副社長を経て14年4月より現職。祖業である大同薬品工業の創業者、髙松富男氏を祖父に持つ。経営者としてのタイプを自己分析すると「ワンマン型ではなく社内プロセスを重視し、組織として決断する。優しい方だと思います」とのこと

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