カンパサール

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心で守る「本物の味」

オークラ プレステージバンコク 和食堂「山里」

山里会席のスターターセット。「オーセンティック(本物の、真正な)会席」をうたう、日本本来のオーソドックスで伝統的なスタイル。バンコクでは日本料理も増えてきたが「本当の会席料理を出すところはまだ少ない」(萩原氏)という中、本格派としての違いを打ち出す。4500バーツ

バンコクは巨大な「アジアの食都」だ。和洋中、ファストフード、ローカルフード、そのバラエティは世界中のあらゆる料理から広く深く限りなく、今や最新鋭のレストランがひしめく一大グルメシティとなった。

その地で、2012年に開業した「オークラ プレステージバンコク」は日本人の心ともいえる和食の飲食事業をリードする。ホテルオークラの旗艦ホテルであるホテルオークラ東京は言わずと知れた日本のホテル御三家の一つ。1962年の開業時より、和食料理店「山里」をはじめとするレストラン・バーの運営を直営で行い、「食のオークラ」としての地位を築きあげてきた。また、九州・沖縄サミットやAPEC首脳晩餐会などでの料理とサービスも担当し、伝統を受け継ぐ料理と極上のおもてなしで日本のみならず海外からの国賓や政府要人などを迎えてきた。近年、ホテルオークラは積極的なアジア進出で知られる。山里が守る和食の味は海外でも「本物」と評判だ。

バンコクで物理的な品質に優れる「上物」が豊富といっても、そこに本物があるかは別の問題である。本物とは、その料理の味が秘める歴史や文化、精神性などを踏まえながら、さらに興味や驚き、感動などの心理的な満足感を与えてくれるものだ。ホテルオークラが目指す価値は、その高みにある。

ぶれない七割、合わせる三割

飲食業の海外展開は難しい。味の統一が難しいことに加え、同じ味が受けるとも限らないからだ。ホテルオークラ東京の山里で5代目の総料理長を務め、国内外で展開する10カ所の山里を統括する澤内恭氏(61)は、伝統の味は守りつつ、現地の方に受け入れられるよう変化を加えることは織り込み済みだと語る。

「よく味の統一をと言いますが、そのままでは現地の方たちには受けいれられないこともあります。そこで私がよく言うのは心、ということです。ホテルオークラ東京では7割の人においしいと言っていただける決まった味があり、残りはお客さまに味のお好みをお聞きし、それに合わせて提供するのが基本です。だから、味が変わっていくのは当然の話なのです」(澤内氏)

同じ味を出すのではなく、お客に合わせて3割を変えると明言する。味とは相手により変えるもので、相手に合わせる心が大切だというのだ。「ですので、海外にはホテルオークラ東京で経験を積み、山里のハートを持った者を派遣するのです」(同)

高い技術で7割の確かな味を備え、残りはお客に寄り添う心で完成させる。それが山里が揺るぎなく守る味の秘密なのである。(文・岡下貴寛)

バンコクの萩原料理長(同社提供)

和食を提供する上でバンコクは素晴らしい都市

18歳でホテルオークラ東京の山里に入社して以来、30年以上にわたり和食一本のエキスパート。グアム、上海など海外での経験も豊富。日本の澤内総料理長いわく「海外向きの人材」と信任は厚い

─バンコク赴任の経緯は

総料理長から「お前しかいない」といわれ赴任しました。タイは初めてでしたが、海外勤務の希望もありましたので抵抗はありませんでした。 タイでも日本のホテルオークラの味を守るため、東京と同じメニューを基本的に提供しています。味はわずかに濃いめにしています。暑い国で汗をかくため、濃い味が好まれる傾向にあります。 また、盛り付けや添えるものといった見せ方ではアジアのテイストを意識して行うこともあります。

Photo by Tetsuya Tanabe

─和食店にとってバンコクの環境は

ブームもあり、全体のレベルは高い。日本人が現地生産する良質な野菜やしょうゆもあり、食材や調味料の調達は十分できます。フグ、フカヒレ、スッポン、豚肉など動物系の食材は一部規制されていますが、あとは大体輸入できます。和食を提供する上で非常に仕事がしやすく、これほど素晴らしい都市はありません。

─今後、山里で実現させたいことは

今後、カッパドキア、マニラ、プノンペンと海外の事業展開が進み、山里の海外出店が増える中、一番大切なのは人材の育成です。海外に自信を持って輩出できる料理人の育成に携わりたいと思っています。

オークラ プレステージバンコク
和食道「山里」料理長 萩原 繁(54)


【オークラ プレステージバンコク】

日本ほか各国の大使館が並ぶビジネスの中心地に立地し、周辺はグランドハイアット、インターコンチネンタルなど、欧米系の有名ホテルも多い激戦区。「日本のきめ細やかなサービスとタイのホスピタリティーが融合したサービスを目指す」(小田文雄・副総支配人)という方針の下、日系の質の高いサービスには定評がある。レストランや宴会は地元タイ人客の利用が多く、山里も現地客や駐在員に広く利用されている。春の桜、冬の雪などをテーマに日本の四季を打ち出したプロモーションや料理が好評だ。

カンパサール本紙を読む(2016年4月号より抜粋)

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