カンパサール

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食料事情を改善する種子

一見変哲のない野菜や花も、実はその国・土地に合わせて開発された物であることが多い。その種子の市場で大きなシェアを持つのがサカタのタネだ。

成長するアジアで強み発揮

パキスタンのカリフラワー産地で(サカタのタネ提供)

朝のサラダに入っているトマト、ランチの弁当に添えられたブロッコリー、晩ごはんの野菜炒めのニンジン――。それらはサカタのタネ(以下「サカタ」)の種子から育ったものかもしれない。

例えばブロッコリーの種子の場合、サカタは世界で65%のシェアを持つ(同社推計)。その種子を世界各地の生産農家が購入し、野菜として育てて市場に供給し、われわれ消費者の食卓に上る。もちろん花も同様だ。

サカタが作る品種は「F1品種」と呼ばれる。優れた特性が発揮されるのはその種子一代限りだが、それぞれの土地で伝統的に栽培されてきた「固定種」よりも形質(味や形など)が優れ、病気に強く、収量も多い。

清水俊英広報宣伝部長によると、中国ではブロッコリーの出荷が「10年ほど前から急速に伸びている」。具体的な数値は明かせないが、コールドチェーンが整備され始めたのと軌を一にしている。

ただ、伸びた理由はそれだけではない。ブロッコリーに求められる形質は世界的にほぼ同じだが、気候や土壌など生産環境は各地で異なる。つまり中国の環境に合った品種を作り、それが生産者に受け入れられているということだ。

その土地に合ったさまざまな野菜や花の品種を生み出すため、アジアでは韓国、タイ、インドなどに研究開発拠点を置いている。

インドでは収量が多いトマトを開発した。一概に「何倍多い」とは言えないが、清水部長によれば「たくさん採れることは、特に新興国では非常に重要。ものすごくおいしい物が少量採れるということよりも大事」と語気を強める。耐病性があり、暑くても寒くても、雨が多くても少なくても育つ。そんな品種が必要とされている。

開発した品種は、販売するためにその種子を生産しなくてはならない。サカタは世界19カ国で「種子採り」をしている。その種子を1カ所で採るのではなく、リスクヘッジのために北半球と南半球の数カ所ずつで採る。採った後も消毒、精選などの「加工」が必要だ。ちゃんと発芽するか、目的とした野菜や花が育つかなども確認する。品種を開発する「育種」、種子を採取する「生産」、そして加工と品質管理、一つもおろそかにできない。「アジア市場はこれからまだまだ成長する」(清水部長)。中国にしろインドにしろ、これまでは固定種の時代だったが、1960~70年代の日本がそうだったように、これからF1品種に急速にシフトするとみる。

安定的に、たくさん収穫できるF1品種は現地の食料事情を改善すると期待される。「F1品種を中心に作っているメーカーとしての強みを発揮したい」と清水部長は胸を張った。

【プロフィール】
株式会社サカタのタネ
本社:神奈川県横浜市
創業:1913年
事業:種子、苗木などの生産・販売、育種・研究・委託採種技術指導など

カンパサール本紙を読む(2016年1月号より抜粋)

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