カンパサール

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その時、日系企業は

各国・地域のさまざまな祝祭、記念日を日系企業は商戦としてどうとらえているのか。伝統的なテト(旧正月)やクリスマス、新たに盛り上がる「シングルデー」と、目立つ「戦果」を挙げる3社の取り組みを紹介する。

注目の新記念日 中国「シングルデー」

5万組が完売したレヴールのシャンプー(左)とトリートメント(ジャパンゲートウェイ提供)

キリン堂の売り上げは2.4倍

祝祭や記念日は数あれど、最近のもので一番の注目株は何といっても11月11日の中国「シングルデー(双十一)だろろう。数字の1が並ぶことから「独身の日」と呼ばれ、企業が販促に力を入れる。

中国の電子商取引(EC)最大手、アリババが運営する「天猫国際」に出店するドラッグストアのキリン堂(大阪市淀川区)は2015年のシングルデーで、前年同期の2.4倍に当たる4億5,000万円を売り上げた。中国ではなじみの薄かったノンシリコンシャンプーなど4つの柱が当たった。

4つの柱とは◆ノンシリコンシャンプー、トリートメント「レヴール」(ジャパンゲートウェイ)◆オイルシャンプー「オレオドール」(コーセーコスモポート)◆「めぐリズム」「ロリエ」製品(花王)◆「馬油スキンクリーム(コスメテックスローランド)だ。

特にレヴールは売れた。2014年3月に天猫国際に出店したキリン堂。新規事業開発部通販ネットビジネス部の伊藤雄喜部長によると、当時の中国では髪にやさしいノンシリコンシャンプーはほぼ存在しなかったが、レヴールの良さを訴えて市場を作り出し、14年のシングルデーキャンペーンではシャンプー5万本、トリートメント2万5,000本を販売した。この時は1本売りだけだったが、15年はシャンプー本体、トリートメント本体、シャンプー詰め替えのほか、メルサボンのハンドソープ・クレンジングシート(プレゼント商品)のセット(128元=約2,500円)を5万組用意し、ほぼ完売した。

伊藤部長によると、中国の消費者は「いろいろな香りを試したい」との気持ちが強く、詰め替え品よりも本体をどんどん買い替える傾向にあるという。だがエコ文化はやがて定着するとみており、「こういう方法もある」と提案したかったと、詰め替え品を打ち出した理由を話した。いち早くリピーターをつかまえておきたいとの考えだ。

シンガポールで売れるサンタ帽

靴下やサンタ帽など定番商品が並ぶ(ダイソー提供)

クリスマス用品はダイソーで

ダイソーにとって、クリスマスは年間を通じて最大の販促シーズンとなる。アジアではシンガポールの関連商品の売り上げが最も大きいという(日本を除く)。

大創産業の常務取締役兼アジア事業部長の大原貴光氏によると、シンガポールで最も売れるクリスマス関連のアイテムはサンタクロースの帽子だ。アパレルなどの小売店、飲食店などが店内デコレーションのため、10月頃からクリスマス用品をダイソーでそろえることが定着しているという。

特にサンタ帽は、手軽に着用できてクリスマス気分を盛り上げられるため数が出る。大きな靴下やクリスマスリースも定番商品だ。また、最近は明るいLEDを仕込んだ置物やデコレーションライトもよく売れている。どの商品も2シンガポールドル(約175円)だ。

日本の場合、商品が自販機の缶コーヒーよりも安く買えるというコストパフォーマンスの高さがあるが、これは約3,000店(2015年3月)を展開するスケールメリットがあるからこそ。店舗数が日本より少ない各国、特にシンガポールでは安さ以外のポイントが求められる。それは何か。「安心と安全、つまり日本の品質ということです」と大原部長は言う。商品やパッケージなど全て日本と同じ状態で販売していることに、現地消費者は信頼を寄せているようだ。

クリスマスシーズンには、シンガポールの店舗ではフロアの大部分をクリスマス商品が占めるなど、大がかりな売り場展開をしている。シンガポールでの事業開始から13年。クリスマス商品の売れ行きは好調なので大きく仕掛ける、大きく仕掛けるからよく売れる、よく売れるからさらに大きく仕掛ける……という好循環にある(大原部長)。

テトが最大の書き入れ時

(左から)330ml瓶、330ml缶、650ml缶(サッポロ・ベトナム提供)

消費者つかむサッポロ・ベトナム

ベトナムのビール業界では2月8日のテト(旧正月)シーズンが最大の書き入れ時だ。サッポロ・ベトナムの正脇幹生社長によると、ベトナム人は何かにつけて集まってビールを飲み、前年の11月後半からパーティーをする人も増える。同社はこれに合わせてプロモーションを行い、本番の1月下旬から2月にも消費者をがっちりつかみたい考えだ。

サッポロ・ベトナムは2015年11月に刷新した主力商品「サッポロプレミアムビール」で攻めている。消費者向けは330ミリリットルの缶(アルコール度数5.0%)と瓶(同)、650ミリ缶(同5.2%)が中心。テトの贈答用としてシルバーと赤を基調とする特別カートンを用意した。シルバーはサッポロビールが世界的に商品で使っている色であり、赤は日の丸をイメージしたものだ。

飲食店にはプロモーションガール、スーパーマーケットなどの小売店には販売員を派遣し、販促に力を入れている。テトシーズンには、スーパーマーケットなどの店頭では特別に景品を付けたり、ビアクラブ(後述)と呼ばれる若者が多い飲食店では、瓶ビールを6本注文すると1本プレゼントする「バケットオファー」というプロモーションを展開中だ。

15年11月の商品刷新以前から「JAPAN’S PROMISE」とうたい、ベトナム参入当初から打ち出す「JAPAN’S OLDEST BRAND」と併せ、確かな「日本品質」であることを訴求した。同社は日本のビールメーカーとして初めて現地工場を設けており、「日本で培った品質と味をベトナムで実現したビール」とアピール。日本に親近感を持つ人が多いベトナムで受けているようだ。 ビアクラブは日本のかつてのディスコのような業態だ。200~300席ほどの大型店で、若者が集まって大音量の音楽を聴きながらビールを楽しむ。ここでは2.5~3リットルほどの「ビアタワー」を注文し、みんなで一緒に飲むのが定番スタイルだ。 若者は女性を連れて行くので、見えを張って地場製より高いプレミアムビールを注文するとのこと。テト商戦真っただ中の今夜も、ホーチミン市のビアクラブではサッポロのタワーが空になっていることだろう。

カンパサール本紙を読む(2016年1月号より抜粋)

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