カンパサール

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【アジアで発見 ロングセラー】バナナケチャップ(フィリピン)

戦中に生まれた調味料のスタンダード

大手ファストフード「ジョリビー」では、ディップソースとして、バナナケチャップを提供。国民的な調味料は米国をはじめ、海外にいる出稼ぎフィリピン人コミュニティー向けにも、輸出されている。ブランドによってはスパイシー味もあり、食生活に欠かせない

フィリピンでケチャップというと、バナナを原料にした「バナナケチャップ」を指す。かつての米国統治の影響が色濃く残るこの国では、甘いもの好き、洋食好きの国民の嗜好(しこう)とも合って、自然と定着した調味料だ。

価格はトマトケチャップの半額

バナナケチャップの誕生は、第二次世界大戦時にトマトケチャップが入手困難となる中、フィリピンではトマトより多くとれるバナナを代用したことが始まりとされる。1950年代には製品として、量産化されたようだ。

見た目はトマトケチャップと同じく真っ赤で味も近いが、とても甘い。原材料は、バナナのほか、酢、砂糖、水などだが、トマトは使われていない。合成着色料・甘味料を加えて、“トマトケチャップ風”にしているのだ。

「なぜ赤くしたのかが分からない」「バナナの味がしない」と言いつつも、「トマトケチャップよりも甘くておいしい」と、フィリピン人は愛用する。フライドチキン、フライドポテト、ピザなど何にでもかける。

安さも人気の理由だ。例えば、ケチャップ業界最大手ニュートリアジアの「UFC」ブランドは320グラム入りで20ペソ(約55円)。同社傘下のデルモンテのトマトケチャップは35ペソと、価格差は大きい。

ブランド別では、UFCがベストセラーとされ、このほか「ジュフラン」、「パパ」などがある。いずれも90年代以降の企業買収により巨大化したニュートリアジアが販売している。

外食産業も味付けの手本に

現地の人に聞くと、家庭にバナナケチャップを常備している人が多い。一方、トマトケチャップは自宅でスパゲティを作る時に、バナナケチャップと混ぜて使う程度で、買い置きをしていない人がほとんどだという。

「バナナケチャップは、フィリピン人にとって味のスタンダード」。ある外資系外食企業の関係者は言い切る。

この会社では、フィリピン料理を開発する時は、国民的なファストフードチェーン「ジョリビー」のメニューのような、バナナケチャップで味付けられた甘さを念頭にレシピを考えている。

一方でフィリピンの所得水準の向上とともに、健康的で本格的なものが良いという人も増えている。「所得が上がれば、甘さから本物へと嗜好は変化する」と前述の関係者は語る。

それでも、懐に優しく甘いバナナチャップは、人口が1億人を超え、増え続けるフィリピン人の庶民の味として、これからも親しまれていくだろう。(文・遠藤堂太)

【製品DATA】
名称  :バナナケチャップ
製造企業:ニュートリアジア
ブランド:UFC、ジュフラン、パパなど
店頭価格:320gの瓶詰めで20ペソ(UFC)など
展開国 :米国、中東諸国など(フィリピン人コミュニティー向け)

カンパサール本紙を読む(2015年7月号より抜粋)

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