カンパサール

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日本の技 新しき真珠ジュエリー

惑星とクモをモチーフとした作品。ジュエリー製作には半年以上を費やす。価格は数万円から上は1,000万円の品も 蒔絵真珠(特許出願・意匠登録済)

あしらったトンボが印象的。真珠は日本伝統の蒔絵を施し、豊かな色味を出した 蒔絵真珠(特許出願・意匠登録済)

2016年、主要国首脳会議(サミット)が三重県志摩市で開催されることが決まった。志摩半島は古くから漁業資源に恵まれてきた。特産物の一つとして有名なのが真珠で、日本有数の産地として国内外に広く知られる。大手宝飾メーカーのミキモトが世界で初めて真珠養殖に成功したのも同地である。

その志摩市に隣接する南伊勢町。ここで3代続く上村真珠養殖の上村栄司代表は、パールデザイナーとして自ら製作した斬新なデザインのアクセサリーを手に、各国を駆け回る日々を送る。

「今や真珠のマーケットといえば海外。中でもアジアは活発」と上村氏。中間層の所得向上により購買客が増加し、相場も長期的に上がる傾向にある。フィリピン、インドネシア、ミャンマー、タヒチなど自然豊かな産地がある中、品質に優れる日本ブランドが人気という。

一般に流通する真珠貝はアコヤ貝、シロチョウ貝、クロチョウ貝、イケチョウ貝など4~5種類。日本では、真珠が9~10ミリほどになるアコヤ貝が主流だ。さらに大型のシロチョウは温かい海、淡水種のイケチョウは湖で採れるなど水質や水温によって適した貝が異なる。

低水温で育つアコヤ貝の特徴は、真珠のきめの細かさだ。「熱帯の樹木と同じように熱帯の真珠は大味に育つ。水温が低いほど締まって美しさが増す」と上村氏は説明する。

上村氏がジュエリーに取り組み始めたのは20歳過ぎの頃。現在は養殖をほぼ行わずデザインに集中している。

作品の特徴は、漆や蒔絵(まきえ)といった日本の伝統技法を駆使しながらも宇宙や惑星など未来的なモチーフを取り入れ、個性を出していることだ。中でもクモ、トンボをデザインした作品は海外でも反響が大きかったという。

「古典的な物なら僕でなくともいい。10年前は「こういう物はいらない」と否定されたけど、日本で無理と言われたことも世界では反応があった」(上村氏)

アジアでのターゲットは「目の肥えた上の層」に絞り、自身のデザインが受け入れられるか挑戦している。中国、台湾、マレーシア、インドネシア、ミャンマー、遠くは中東レバノンやアゼルバイジャンの展示会や見本市、さらに現地の店にも飛び込みで営業を進める。

上村氏は業界の常識にとらわれず、色々なチャレンジをしたいと夢を語る。

「例えばアコヤ貝にLEDを入れてみたり違う貝をかけ合わせたり、農産物でもあるように。あるいは養殖の行われていない地中海で真珠を作るとか。国内の業界は長い間変化がないまま、市況が厳しくなり事業者も減ってきた。若い人に目を向けてもらうためにもチャレンジが絶対必要だと思う」(上村氏)

作品を手に熱を込める上村氏。その瞳が真珠のようにきらりと輝いて見えた。(文・岡下貴寛)

【プロフィール】
上村真珠養殖
本社:三重県度会郡南伊勢町
創業:1929年
事業:真珠の養殖、加工、真珠宝飾品の製造販売ほか

カンパサール本紙を読む(2015年7月号より抜粋)

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