カンパサール

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知られざるアジア防虫の世界

虫は必ずしも多くはない 大発生は水が原因

防虫・総合衛生管理コンサルタント 今野禎彦

──暖かいアジアは虫が多い?

製造施設の場合、日本と比べて熱帯アジアを含む海外で必ずしも昆虫類の発生数が極端に多いわけではない。

熱帯では温度と湿度、大気中の酸素濃度も高くなるため、大きな虫が生存することができる。大きい虫は目立つが、製造現場で気にするのはむしろ体長数ミリ程度の小さな虫。これらは湿度があると発生する一方、乾燥には弱い。肝心なのは水の有無だ。

大量発生しやすい環境とは、水辺や人工的に常に散水されている所。特に乾燥した所に湿気が入ると、水を待っていた虫が一斉に現れる。

──日本人との感覚の違いは?

アジアでも衛生規則を設けて守る傾向は出てきた。例えば、タイやシンガポールも政府による飲食店などの衛生評価が行われている。実際はハエが多くいたりして「これでBランクか」と思うこともあるが、現地では法律や規格をクリアすればよいという考え方。

日本人の食品衛生に対する感覚とは異なる。日本人は「虫がいてはいけない」。実害の有無を問うなら科学的で良いが、いるか・いないかが問題で極端に定性的なのが日本人だ。

インドネシアの食品工場での経験では、製品を日本、韓国、フィリピンに出荷している中で、日本だけが事故報告、つまり虫が入っていたという報告が多かった。日本の消費者が異物混入に対して敏感であることの象徴だろう。

──駐在員は何を心がければいい?

アジアは日本と違い、それなりに自然がある。環境整備をしても虫が出る所は出る。貴重な体験とポジティブに考え、心安らかに過ごすのがベスト。駐在員には外国の虫を忌避せず、楽しんで下さいとよく言っている。「奥さん、こんな虫は日本では見られないですよ」と。すると「そうですね。それでどうすればいいですか?」と(笑)

今、日本人駐在員がいる所で致命的な伝染病を媒介するのは蚊のマラリアくらいだろう。都市部にマラリアは少ないが、蚊は注意した方がいい。日本の蚊取り線香や殺虫剤は非常に優秀だから、ぜひ活用してほしい。

(解説=今野禎彦)

そこにいる!アジア身近な害虫BIG 3

■ゴキブリ

「消化器系の伝染病を媒介する。自然界にいる野ゴキブリはそれほど害はない。日系駐在員の家族の方など、アジアはゴキブリが多いのではと心配だと思うが、飛んで入ってくる成虫はスリッパでひっぱたいておけばいい。それよりも問題は幼虫が大量に発生する場合。どこかに発生源がある。マンションの雨どいから登ってくるとか、何らかの進入経路があったり、その近くで繁殖しているということ。幼虫に注意することが大切」

■蚊

「アジアで多いイメージがあるが、日本と比べて必ずしも多くはない。数だけなら日本の代々木公園の方が多いかもしれない。ゴルフ場やホテルの庭などは要注意。逆に、川沿いでも自然のバランスがよく魚が豊富にいる場所では幼虫が食べられてしまうため蚊が大量にいることもない。チャオプラヤー川沿いの水上レストランも沢山あるが、自分はあの辺りで刺されたことはない」

■アリ

「駐在員の奥さんたちに何が困りますかと尋ねると『台所にアリがたかる』という声をよく聞く。アジアでは小さいヒメアリの仲間が多い。住宅の壁のひびや家具の中など、身近な場所に巣を作る。これは雑食性で特に動物食を好むため、ツナ缶の食べ残しに入ってくるなど台所で非常に多い。祭壇のお供え物にもたかる。日本では外来種として来て定着した帰化動物。世界に分布している」

■【番外】ヤモリ

「インパクトは抜群。気持ち悪いだけで害はない。捕食性だから害虫を食べてくれるが、奥さんたちには嫌われる」

【プロフィール】
今野禎彦
防虫・総合衛生管理コンサルタント
1952年生まれ。東京農業大学で昆虫学を専攻後、害虫駆除会社で研究職・技術職として勤務。国内外の食品・医薬品・医療機具製造施設の防虫管理、総合衛生管理に関わる業務を担当。2011年に独立し、コンサルタントとして活躍中

カンパサール本紙を読む(2015年7月号より抜粋)

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