NNAカンパサール

アジア経済を視る November, 2021, No.82

【プロの眼】ゲームビジネスのプロ 佐藤翔

第7回 海外交流に異業種参入
    国際展示会の最新事情

日本のゲーム業界を代表するイベント「東京ゲームショウ」が9月30日~10月3日の4日間、千葉市の幕張メッセで開催されました。昨年は新型コロナウイルス禍のためオンライン開催となりましたが、今年は会場参加者をプレス関係者とインフルエンサーに絞った上で、オフラインとオンラインのハイブリッド形式で実施されました。今回は、ゲームとは一見関係がなさそうな業種の新たなビジネスや国同士の経済文化交流にも利用されるなどシーンを広げる国際展示会の最新事情を紹介します。

東京ゲームショウ2021の会場(ルーディムス・古里卓巳撮影)

東京ゲームショウ2021の会場(ルーディムス・古里卓巳撮影)

世界のゲームイベントとしては米国の「E3」や欧州の「gamescom」などが有名ですが、東京ゲームショウは、中国の「ChinaJoy」や韓国の「G-STAR」などと並ぶアジア最大級のイベントであり、それに合わせてさまざまなゲームタイトルのマーケティングプランが設定されています。日本の有力なゲームメーカーが出展の中心になっていますが、海外からも日本市場や周辺のアジア市場への展開を見込んで、さまざまな国のゲーム関連企業が訪れます。

今回は、私が訪れた今年の東京ゲームショウについて、アジアのゲームイベントという観点から、アジア企業・団体の出展やイベント内容を現地会場でのオフラインの催しを中心に紹介していきたいと思います。

【動画】オフライン会場(ルーディムス・古里卓巳撮影)

目を引くマレーシア
イケアは椅子で参入

まずは出展状況について。今回の東京ゲームショウには、合計351社の企業・団体が参加しました。うち160社が日本企業、残る過半数が海外企業となります。アジア企業は多い順に、韓国が32社、台湾19社、中国17社と東アジアの企業の出展が目立っていました。

中国からは、大手の騰訊控股(テンセント)や『Rise of Kingdoms』(※)で知られるLilith Games(上海莉莉絲網絡科技)などがオンラインで出展していたほか、WhisperGames(軽宇互動〈厦門〉科技)など数社がオフラインでの出展を行っていました。もっとも中国企業の2020年の出展は22社で、昨今の中国国内市場の目まぐるしい情勢変化と中国企業の海外市場への関心の強さ、そして彼らの日本市場における成功の度合いから考えると、もっと出展があってもおかしくないのでは、というのが正直なところでした。
※自軍の天下統治を目指し、他プレイヤーの軍隊と戦うモバイル向け戦略ゲーム

コロナ下ということもあり、オフラインの展示会場においては海外企業の出展は少なめでしたが、その中ではマレーシア貿易開発公社(MATRADE)の展示ブースが比較的、目立っていました。

マレーシアというと以前は3次元立体(3D)アートなどを制作する企業が出展し、日本の大きなゲーム会社がそれらの企業と商談を行うケースが多かったのですが、最近はマレーシアのゲーム業界においてオリジナルIP(※1)制作の支援体制が整ってきたこともあり、優れたインディー(非大手の)ゲームが出てきています。今回の東京ゲームショウのブースでは、Magnus Games Studioが開発した『Re:Legend』(※2)など、マレーシア発のさまざまなインディーゲームが展示の中心となっていました。
※1 知的財産。ゲーム作品やそこに含まれるグラフィックデザイン、音楽、名称などの著作物
※2 架空の農村を舞台に冒険アクションと農村暮らしが楽しめる作品

【動画】マレーシアの展示ブース(ルーディムス・古里卓巳撮影)

マレーシアのインディー作品『Re:Legend』(筆者提供)

マレーシアのインディー作品『Re:Legend』(筆者提供)

ゲーム企業以外で興味深い出展をしていたのがイケアです。スウェーデン発の家具量販店大手として知られていますが、今年4月にパソコン世界大手の台湾・華碩電脳(ASUS)のゲーミング(ゲーム用)PCブランド「Republic of Gamer」と協力して、さまざまなゲーム関連の家具を発表し、ファンの注目を集めていました。

今回の東京ゲームショウでも大きめのブースを出展し、実際の利用シーンに合わせた各種商品の展示を行っていました。従来のゲーミングチェアにありがちな、自動車向けレーシングチェアの発想から離れたエルゴノミック(人間工学的)デザインの背もたれや、肘を上げずにスマートフォンを両手で持てる可変式のひじ掛けなど、随所に工夫(※)が見られました。
※従来はレースカーの座席のように後ろに寄りかかるタイプが多かったが、ゲームをしやすいよう背もたれが調整できるなど
 の工夫を取り入れた。肘置きも好みの位置に調整しやすくした

イケアはゲーミング家具では後発ということもあり、しっかりしたユーザー調査を事前に行っていたのではないかと思われます。展示の担当者によると、これらの商品は10月から東南アジア各国でも発売していく予定とのことでした。コロナ禍で在宅時間が増える中、新興国でも家具などの内装にお金を掛けるユーザーは増えているので、取り込むチャンスは十分ありそうです。

イケアのゲーミングチェア(筆者提供)

イケアのゲーミングチェア(筆者提供)

インディー作品大賞
イスラエル製が台頭

東京ゲームショウで毎年開催される催しの1つに「センス・オブ・ワンダーナイト」があります。世界各国から応募されたインディーゲームに賞を与えるイベントで、今年は「選考出展」として応募してきたチームたちの中からさらに選抜を行う、という形式でした。選考には国内外のさまざまな開発チームが応募し、昨年はインドネシアの作品が大賞となりました。小規模なゲームスタジオにとって賞を獲得するのは露出のための数少ないチャンスであり、米国や欧州のさらに著名な賞への登竜門とも見なされています。

今年、ここで注目されたのは西アジア・イスラエル発のチームの活躍です。イスラエルのLo-Fi Peopleが開発した『Blind Drive』(※1)というゲームが最高賞に当たる「Audience Award GP」を受賞したのです。そのほか、同じくイスラエルのKingblade Gamesによる『Do Not Buy This Game』(※2)が「Best Presentation Award」を受賞していました。
※1 目隠しして自動車に乗り、反対車線を走行するというスリリングな設定のドライブゲーム。プレイヤーは何も見えない画
   面からの声の指示だけを頼りに危険を回避しなければならない
※2 ゲーム制作者とコミュニケーションしながらゲームを開発するという設定の体験型ゲーム

イスラエルのゲーム開発と言えば、5年ほど前はアイテム課金形式のカジノプラットフォームである「ソーシャルカジノ系」の会社が目立っていましたが、最近はClover Biteというゲームスタジオが制作した『GRIME』が世界的に高い評価を受けているほか、世界のゲームファンに受け入れられるようなインディーゲームが次々に登場しています。このように今までゲームとは無縁と見られてきた国々のクリエイターが、切磋琢磨(せっさたくま)して面白いゲームを作っているというのは端的に素晴らしいことだと思います。

eスポーツを外交に
日本とサウジ交流戦

「日本・サウジeスポーツマッチ」の会見(筆者提供)

「日本・サウジeスポーツマッチ」の会見(筆者提供)

最近、eスポーツ(※)を外交手段に用いる事例がいくつか出てきています。在フィンランドの韓国大使館は、韓国製ゲーム『PUBG:BATTLEGROUNDS』とフィンランド製ゲーム『Brawl Stars』の交流試合を主催しました。
※競技化・興行化したゲームの呼称。プロスポーツ
 のような賞金大会やイベントを行う

そうした中、東京ゲームショウの1日目には会場奥で「日本・サウジeスポーツマッチ」の記者会見が行われました。日本とサウジアラビア、両国による交流戦です。アラブ諸国はサウジを中心に高額賞金のeスポーツイベントが多数開催され、サウジは出身選手が賞金獲得ランキング上位に食い込むほど盛んです。このeスポーツマッチも、そうしたeスポーツを活用した外交の一例といえると思います。

会見では、日本eスポーツ連合の岡村秀樹会長、サウジeスポーツ連盟のターキ・アルファザンCEOらが登壇し、開催の抱負などを語りました。後半には経済産業省の藤田清太郎・大臣官房審議官(IT戦略担当)が、このeスポーツマッチは政府が進める「日・サウジ・ビジョン2030」計画の一環として、両国の交流を促進すると強調していました。

10月2、3日は埼玉県にある文化複合施設、ところざわサクラタウンで試合が行われ、全種目で日本人チームが全勝しました。これは競技種目となった作品が全て日本製で、日本に有力な選手が多かったことが大きな理由です。サウジにもまた世界的に有名な選手や、彼らが得意とする種目があります。

eスポーツに使われるゲームタイトル(作品)は多種多様で、たとえジャンルが同じでもタイトルが違えば有力プレイヤーが全く異なる構造になっています。タイトルが違えば、結果はかなり違ったものになったかもしれません。ちなみに来年開催されるサウジラウンドでは、日本選手がサウジに遠征する予定となっています。

商談やマッチング
ビジネスに課題も

このように日本のみならず、アジアのゲーム業界においてもさまざまな面で重要な役割を果たしている東京ゲームショウですが、イベントに対する改善の要望があるのも事実です。筆者の知り合いのアジアや欧州の参加者からは「マッチングがしにくい」「思うように企業と商談ができない」という声が例年上がっており、今年もそれは同様でした。

大きなゲームパブリッシャーと小さな開発チーム、ゲームメディアとインフルエンサー、そしてゲームファンといったさまざまな人々のニーズを同時に満たす仕組みづくりを、それもコロナ禍という特殊な状況で行っていくのは容易なことではありません。しかし、東京ゲームショウがアジアのゲームビジネスのゲートウエーとして、国内外の人々により価値のある出会いをもたらす場になって欲しい、と私は願っています。


佐藤翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒、米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGiの共同創設者。インドのNASSCOM GDC(インドのIT業界団体「NASSCOM」が主催するゲーム開発者会議)の国際ボードメンバーなどを歴任。日本、中国、サウジアラビアなど世界10カ国以上で講演。『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ)で東南アジアの章を執筆。ウェブマガジン『PLANETS』で「インフォーマルマーケットから見る世界」を連載中。


バックナンバー

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第5回 中国ゲームが圧倒する 現地化ノウハウを学ぶ
第4回 政治利用に社会啓発も シリアスゲームの世界
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