NNAカンパサール

アジア経済を視る May&June, 2023, No.100

【アジアに行くならここで読め!】

冒険研究所書店
本物の冒険家が作ったみんなの居場所

海外業務のベテランや「通」の人には知られた、アジア本が充実した首都圏の図書館と書店を厳選紹介。足を運ぶだけでも楽しく、意外な本に出会えることだろう。アジアに行くなら一度は訪れてほしい。(取材:副編集長 岡下貴寛)

店は100平方メートル弱。物件は2019年から事務所として利用。20年春、新型コロナ流行で小中学校が一斉休校した際、行き場がない近所の子供を受け入れた(NNA撮影)

人が集う町の書店を

過去約20年で16回も北極圏へ赴き、主に単独徒歩の冒険行を実施。世に名高い「植村直己冒険賞」も受賞した冒険家が運営する書店がある。

その名も「冒険研究所書店」。日本では珍しい「北極冒険家」として活動する荻田泰永さんが、一昨年前に神奈川県大和市で開業した。住宅地が近い小さな駅前にある個人店だ。

冒険家による書店とは、あまり聞いたことがない。いかにもハードでスリルあふれる冒険譚(たん)や辺境の紀行本で埋め尽くされた品ぞろえを想像するが、決してそうではない。

「専門書店のつもりはないです。旅や冒険の本は全体の10%以下。普通の書店よりは多いと思いますが、商品4,500冊ほどのうち500冊もないぐらい」と荻田さん。書籍を中心に一般向けの商品もバランスよく仕入れる。店を始めたのは地域の人の居場所を作りたかったからだという。

極地の冒険で実際に使った装備品を展示。間近に見ることができる(NNA撮影)

ギャラリースペース。将棋盤も置いてある。荻田さんがいれば自由に話せる(NNA撮影)

「冒険と本を読むことは根底は同じ。いずれも世界を広げてくれる主体的な行為です。冒険家が書店を始めたと不思議に思われますが、私の中では同じなんです」と荻田さん(NNA撮影)

「役割としては、まず探検道具の保管所を兼ねた事務所。それから、いろんな人がいつでも集ってきて冒険の話や情報交換などができる『部室』のような場所。そして近所には書店がないから、その役割を担おうと」(荻田さん)

事務所や部室は初めてでは入りづらいが、書店なら誰でも気軽に入れるのではと考えた。「実際、書店を始めることで初めて出会えた地域の人がいたり、知らないお客同士が語り合ったりしています」という。ソファ席や小上がりなど、来客同士で交流できるスペースも設けている。

インターネットに不慣れな年代向けに、予約取り置きや自宅配達などの御用聞きも対応。「町の書店として地域の人とつながり、経済や文化面での活性に役立ちたい」と荻田さん。その志は高い。


DATA
 神奈川県大和市福田5521-7
 営業 10~19時 月曜定休
 店主 荻田泰永
 開店 2021年

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