NNAカンパサール

アジア経済を視る May&June, 2023, No.100

【インタビュー】

法とテクノロジーで社会創る
角田 望

株式会社LegalOn Technologies
代表取締役 執行役員・CEO 弁護士

アジアとの取引や現地で事業を行う日系企業にとって、契約書など法務の対応は負担となる仕事の1つ。その作業を人工知能(AI)を用いた技術で効率化してくれる、そんなサービスを提供する企業がLegalOn Technologiesだ。若手弁護士が起業し、昨年は米国進出も果たした注目のスタートアップ。角田望代表に聞いた。

京都大学法学部卒、2012年弁護士登録。森・濱田松本法律事務所を経て17年3月に独立し、法律事務所ZeLo・外国法共同事業開設。同4月、LegalForce(現LegalOn Technologies)を設立(NNA撮影)

――弁護士から起業をしようと思い立った経緯は

弁護士だった時、AIやテクノロジーに関するニュースを見るようになりまして。これを組み合わせれば、法務に携わる人に役立つサービスを作れるんじゃないかと大きな可能性を感じました。

当時、大量の文書を読んで情報を抽出し、契約書を作成するような仕事をしていましたが、単調な仕事も多かったんですよね。弁護士や企業の法務部が行う単純作業をテクノロジーが支援してくれるソリューションがあるといいなと。

まず、そういうことに詳しそうな友人に話をして知り合いを紹介してもらう形で、いろいろな人に頼りながら人を集めました。現在のサービスである「契約書に潜むリスクの洗い出しをAIが支援する」というコンセプトの製品を思いつくのは、起業後で1年ぐらい経ってからですね。

――2017年の創業から約6年。独立してどうでしたか

必死という言葉が適切かなと。私自身、製品企画の経験はなかったので思い通りに行く方が少なかったですね。

開発してくれるエンジニアの人に「こういう機能があると法務の人の役に立つよ」と伝えるんですけど、プロダクト開発のことが分からないので認識の齟齬(そご)が起こってしまう。そういうことが結構ありました。

この方向性で大丈夫だと初めて思えたのは2020年の3月。前年4月に最初の製品となるAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」の正式版を出した、その1年後です。1年使って契約更新となるタイミングで、多くのお客さまが更新してくださった。現在では地方や個人経営の方も含め、利用の規模や業種が広がっています。「契約業務が効率化された」という声もあって、うれしかったですね。

現在では、契約の締結前に書面を審査する「LegalForce」、そして契約締結後にこれを管理するシステムの「LegalForceキャビネ」という、2つのサービスを提供しています。

――AIの進歩が著しいです

「チャットGPT」(対話型人工知能)を使ってみましたが、すごいですよね。世の中をどう変えていくのか気になります。これは「取り込む」一択だと思います。

こうした技術をどう使えば、より価値を提供できるのか考えなければいけない。日本でリーガルテックが出始めて6~7年、ビジネスとして成立するものは一通り出尽くしたのではないかという印象があります。

話題のチャットGPTは「取り込む一択」と角田氏(NNA撮影)

ただ、チャットGPTのようなブレイクスルーが起こると、それを使った新しいサービスも出てきます。このリーガルテック市場もさらに進化すると考えていますが、どうなっていくのか私も予測しきれません。

アジアは将来有望

昨年は創業6年目で137億円を資金調達し、米国へ進出。「契約は世界中で同じように結ぶ」という角田代表。アジアを含むグローバルへの展開を長期的に見据える。

――昨年、米国に進出しました。米国は弁護士が多く、競争が激しいと聞きます

米国に投入したのは「LegalOn Review」というAI契約レビュー支援ソフトウエアで、日本とは異なる3つ目の製品。米国市場にフィットするよう企画しました。私が想像していた以上のスピードでプロダクトの開発が進み、お客さまにも使っていただいています。本当に期待しています。

法務のマーケットとして見ると、米国ってやっぱり世界をリードする市場なんです。日本の企業法務のプラクティス(慣習)も欧米から輸入されたもので「日本は5年、10年遅れている」といわれるぐらい。

当社のパーパス(目的)は「法とテクノロジーの力で安心して前進できる社会を創る」。これは日本に限ったものではなく、世界でしっかり貢献したい。米国へのチャレンジは不可避だと思っています。

同時に事業目線では、米国市場は大きなポテンシャルがあります。趨勢(すうせい)が決したマーケットでは全然なく、むしろ勝負はこれから。リーガルテックの分野はこれからが正念場という状況ですね。まだ始まったばかりで、このタイミングなら十分戦えるチャンスはあるだろうと。

「LegalForce」は2,500社、「LegalForceキャビネ」は800社以上に導入。右肩上がりで伸ばしている(同社提供)

――米国以外のグローバルをどう見ますか。アジアの市場は巨大です

米国で立ち上げることができたら、他国での展開も十分に可能性があります。契約というのは、世界中でみんな同じように結ぶので広いポテンシャルがある。あとは市場環境だったり契約実務の状況だったり、そういったものを精査して優先順位をつけていくことかなという気がします。

アジアは非常にポテンシャルのあるマーケットで、10年後を見据えると非常に有望です。

――今ではない?

今だと欧米が先かと。契約文化というか、契約がビジネスに浸透している度合いはやはり欧米が先行していると考えられることが大きいです。もしかしたら、すごく成熟したアジアの会社もあるかもしれないですが。将来は非常に有望とは思います。

ジャンルを確立する

――将来像はどうありたいと考えますか

長期で言うと「法とテクノロジーの力で安心して前進できる社会を創る」ということを、私たちのプロダクトでどのように実現していくか。お客さまにきちんと価値を届け、そこに貢献できるかをしっかり追求していくことに尽きるかなと思っています。

――タレントの広末涼子さんを起用したテレビCMなど、一般への露出が増えています。あれは代表が?

CMは「マーケットを創る」という意味合いが大きいです。

法務の領域でテクノロジーのソリューションを使って仕事をするというイメージは、これまで多くの人にはなかったものですよね。会計だったら、何か会計ソフトを使うと思いますけど、法務の場合にはそういうイメージがあまりなかった。でも、法務の領域にもこういうものがあるんだよと、広く知ってもらうことによってジャンルを確立していく。それが今の当社には必要だと考えています。

(聞き手=副編集長・岡下貴寛)

徳島県出身で釣りが好きだという角田代表。前職、事務所の仕事でシンガポールに出張した際もオフは釣りにいそしんだという。

「シンガポールから船でインドネシアまで行き、現地でボートを借りて釣りをしました。入れ食いでたくさん釣れるのでいいなと」

年に1度、休暇で八丈島に行き、釣りを楽しむこともあるという。「夜は釣った魚でバーベキューをします」と角田代表。(同社提供)

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