NNAカンパサール

アジア経済を視る May&June, 2023, No.100

【Asiaトレンド事情】

次代担う東南アジア
地場産ゲームが脚光

コロナ禍を通じて、新興国のゲーム市場は大きく拡大した。ロックダウンが行われなくなってからも、各国のゲーム会社はコロナ禍で増えたゲームユーザーをつなぎ留めるため、さまざまな施策を行っている。(ルーディムス代表 佐藤翔)

インドのゲーム展示会(筆者提供)

昨年から今年にかけて、とりわけ注目を集めていると感じるのが、インドとサウジアラビアという2つの国です。

インドの注目点は、何といってもその圧倒的な人口規模です。世界人口などの統計を扱う米民間調査機関のワールド・ポピュレーション・レビューによると、インドの人口は22年末時点で14億1,700万人。中国を抜き、ついに世界一の人口大国となりました。

ゲーム市場としても圧倒的な成長を見せています。米国の市場調査会社ニコ・パートナーズによれば、パソコン(PC)やモバイル機のゲームユーザーは既に3億人を超え、市場成長率とユーザー拡大比率ともアジアでトップの市場となっています。

ジャンル別では『Garena Free Fire Max』のようなバトルロワイヤル系ゲーム(多人数が生き残りを懸けて戦う)と、簡単な操作やルールで誰でも楽しめるカジュアルゲームに人気が集中しています。これまでカジュアルゲーム市場では「ゲーム」と「オンラインギャンブル」があまり区別されませんでしたが、政府の所管が最近固まったため適切な市場秩序が形成されていくことが期待できます。

一方のサウジアラビアは、投資家として日本のゲーム企業に対するプレゼンスを高めています。一昨年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が設立したミスク財団が、日本のゲーム会社であるSNKの株を取得して筆頭株主となりました。さらに、サウジ政府系基金のPIFも任天堂、カプコン、コーエーテクモといった有力メーカーに多額の出資を行いました。今年3月には東映への出資比率を6.03%に引き上げるなど、日本のコンテンツ企業への投資の拡大を続けています。

サウジでは、政府のeスポーツへの高い関心を背景に「Gamers8」「Riyadh Games Expo」などゲーム関連のイベントも、これまでにない規模のものが数多く企画されるようになってきました。日本企業にとってのチャンスも、かつてないほど増えている状況です。

舞台はインドネシア
作品が世界的に評価

マレーシアのイベントに出展した『A Space for the Unbound 心に咲く花』のブース(筆者提供)

新興国は市場としてだけではなく、ゲーム開発でも著しい発展を見せています。私が注目するのは、インドネシアのゲームスタジオ(開発組織)MojikenとToge Productionsが今年1月に発売した『A Space for the Unbound 心に咲く花』です。1990年代のインドネシアの田舎町を舞台にしたアドベンチャーゲーム(物語を体験するジャンル)です。ゲーム評価のまとめサイト「メタスコア」で86点を獲得。世界的に高い評価を得ています。

私が昨年末に訪れたマレーシアのゲームイベント「Level Up KL」では、本作も含めてマレーシアやインドネシアなど東南アジアを舞台としたアドベンチャーゲームが多数出展されていました。

東南アジア各地をテーマとする作品が次々と発売されるようになったのは、東南アジアのゲーム開発者が自国や自分たちのドラマ・物語などに自信を持つようになってきたことの現れと言えます。今後は優れたストーリーテリングを基軸にしたアクションやロールプレイングなど、新しいジャンルに挑戦する開発者も出てくることでしょう。


佐藤 翔(さとう・しょう)

京都大学総合人間学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院で国際経営修士号取得。ルーディムス代表取締役。新興国コンテンツ市場調査に10年近い経験を持つ。日本初のゲーム産業インキュベーションプログラム、iGi共同創設者。インド、サウジなど世界10カ国以上で講演


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