NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2022, No.84

【インド】
ほの甘くキレもある
世界最古の「蜂蜜酒」

インドの新興企業ムーンシャインが生産する蜂蜜酒(ミード)の人気が20代を中心に、西部の都市部でじわり高まっている。米人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」に登場したことで注目を浴びたミードは、欧米でもブームになっている。ムーンシャインは2018年に商品を発売。2年で月4万8,000本を生産するまでに成長した。21年には国内5地域に販路を拡大。日本などへの輸出に向けた取り組みも本格化する。(NNAインド 天野友紀子)

ムーンシャインのミード。果物だけでなく、コーヒーやチョコレートを加えた個性派商品もそろえる(同社提供)

ムーンシャインのミード。果物だけでなく、コーヒーやチョコレートを加えた個性派商品もそろえる(同社提供)

蜂蜜を発酵させて作る醸造酒ミードは、1万年以上前からある「世界最古の酒」とされている。

ムーンシャインの創業者、ニティン・ビシュワス氏は「2014年に欧州の機内誌でミードの記事を見かけたのがきっかけだった。酒は全くの専門外だったが、蜂蜜で作る酒とはどんなものかと興味を引かれた」と話す。この記事を共同創業者で幼なじみのロハン・レハニ氏に共有すると「面白そうだからやってみよう」ということになった。

シードルに近い味、20代が顧客

2人は欧米の書籍などからミードの歴史や醸造方法を学び、16年1月にムーンシャインを設立した。インド初のミード醸造所を整備し、18年2月にムンバイとプネで商品を発売。同年12月には南部ゴアでも販売を始めた。

ムーンシャインのミードは発泡タイプでアルコール度数は6.5度。「シードル(リンゴの発泡酒)に近い味で、決して甘すぎずドライな口当たりが特徴。少しだけ甘いお酒を好むインド人の口に合う味だ」とニティン氏は説明する。330ミリリットル入りで価格は185ルピー(約260円)または199ルピー。購買層は主に20代の若者だ。

「ウイスキーソーダやカクテルを好む層を中心に囲い込みを図りながら、ボトルビールやクラフトビールを飲む層への認知度拡大も意識している」

フリーマーケットへの出店や飲食店でのキャンペーンを通じて「飲む機会」を提供し、「インスタグラム」をはじめとするソーシャルメディアに誘導して顧客を増やしてきた。2年間で高級スーパーや酒店といった小売店とバーなどの飲食店550カ所に販路を拡大し、20年2月までに毎月2,000ケース(1ケース24本)を生産するまでになった。

法律改正して参入

ムーンシャインの醸造所(同社提供)

ムーンシャインの醸造所(同社提供)

人気ドラマに登場したことから、米国では近年、ミード市場が急拡大している。米ニューヨーク・タイムズ電子版によると、米国では18~19年に100軒のミード醸造所が開設された。建設中を含めたミード醸造所の数は、450軒に上るという。

だがインドには、これまでミードを作る企業が1社もなく、ミードの醸造を認める法律がなかったとニティン氏は話す。「前提となる醸造の許可を得るのがとにかく大変だった。約2年の時間を要した」と振り返る。

多くの国ではミードは「ハニーワイン」としてワインに分類されるが、インドの法律ではワインは「ブドウを含む果物の糖分でできたもの」と定義付けされていた。ワインのカテゴリーに蜂蜜由来を加えるよう改正しなければ、国内でのミード作りは許可されない仕組みだったのだ。ニティン氏とロハン氏は州や中央の当局を相手に交渉を重ね、「蜂蜜の用途を増やすことは養蜂業の振興、ひいては各州での農作物の増加につながる」と説得。約2年かけて法律の一部改正にこぎ着け、17年9月に第1号となる製造ライセンスを取得した。

販路拡大を21年始動

順調に成長してきたムーンシャインだが、新型コロナウイルスの流行で急ブレーキがかかった。ムンバイとプネのあるマハラシュトラ州では現在も飲食店での店内飲食が禁止。ゴアは顧客層であった観光客がいなくなったことから、コロナ前の約5割に生産を落としている。

20年4月から徐々に北部デリー、パンジャブ州、東部コルカタ、南部ベンガルール(バンガロール)、ハイデラバードへと販路を広げる予定だったが延期。仕切り直して21年1~8月にこれら5地域に参入し、再来年に全土での取り扱いを目指すこととした。

アジアではミードを手掛ける企業がまだまだ少ないこと、インドはコロナ禍を乗り越えるのに時間がかかると予測していることから、日本やシンガポール、韓国などへの輸出も見据える。日本への輸出は、日本製品の海外プロモーションを手掛ける日系企業ラ・ディッタ・シンガポールと協議中だ。

ラ・ディッタは、乳製品「クロテッド・クリーム」を使った英国産のジンといった珍しい酒を日本に紹介した実績を持つ。同社の小里博栄社長はNNAに対して「蜂蜜のお酒?と驚ける意外性がいい。おいしいことはもちろん、キレがあって味にも意外性があるところが魅力」とコメント。日本でも受け入れられるとみて、ふぐなど日本食材の輸出入を手掛けるハートンインターナショナル(神戸市)と共同で取り扱いを検討している。年内に日本にサンプルを送る予定で、21年3月に日本で開かれる予定の食品見本市「フーデックス・ジャパン」への出品を計画中という。

ムーンシャインは21年3月にシンガポールで開催予定の酒類の見本市「バー・コンベント・シンガポール」への出展も計画中。ニティン氏は「来年は輸出に向けた取り組みも本格化する」と明らかにした。

ミードは白いキャンバス

創業者のニティン氏がオンライン取材に応じた(ムーンシャイン提供)

創業者のニティン氏がオンライン取材に応じた(ムーンシャイン提供)

ムーンシャインはインド全土で採れた蜂蜜に全土から調達する果物、香辛料、花、コーヒー、チョコレートなどを加えて個性豊かなミードを作っている。蜂蜜、水、酵母だけで作った「トラディショナル・ミード」、北部カシミール産のリンゴを使った「アップル・サイダー・ミード」、「ナガ・ブート・ジョロキア」と呼ばれる北東部ナガランド産のトウガラシを使った「グアバ・チリ」の3種類が最も売れ筋だ。

ニティン氏は「ミード作りは白いキャンバスに絵を描くような作業。その土地土地の蜂蜜と農産物を使って、異なる味を無限に生みだしていけるところがいい」と語る。「最終的な目標は輸出ではなく、海外にも醸造所を作ること。日本では例えば、桜の花びらやワサビを使ったミードを作りたい」と笑った。

(2020年9月17日 NNAインド版より)

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