NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2020, No.69

【NNA調査員のモビリティー体験記】

インドネシアで注目のミゴに乗ってみた
食堂の店主が空きスペースで運営

NNAのグローバルリサーチグループの調査員2人は2019年9月、モビリティーサービス(移動サービス)の実態調査を行うため、インドネシアへ飛んだ。「なぜインドネシアか?」というと、東南アジア最大の人口2億6,000万人が公共交通の未整備区間を移動できるよう、四輪・二輪の配車、相乗り、シェアリングサービスなど多種多様なモビリティーサービスが発達している国だからである。モビリティーサービスの代表格である巨大未上場企業(デカコーン)ゴジェックが誕生した地でもある。

数あるモビリティーサービス企業の中で、着実にサービスを拡大している地場企業の一つが、電動バイクのシェアリングサービスを提供するミゴ(Migo)だ。ミゴは、17年にサービスを開始した。パートナー契約によるステーション運営を行っており、各ステーションには常時5台ほどの車両が駐輪されていて、多くが住宅街に設置されている。

私たちはジャカルタ市内の最寄り駅で電車を降り、徒歩15分ほどの場所にあるステーションへインドネシアの伝統的乗り物バジャイ(三輪車)で向かった。住宅街の奥深くを走っていくと、黄色いバイクが住宅の前に停車されているのが見えた。

駅近くで客待ちをするバジャイの列=2019年9月、インドネシア・ジャカルタ(NNA撮影、以下同)

住宅街を進むバジャイからの車窓風景

「君たちが初めてのお客さん」と笑顔の男性店主

そこは庭先を利用した町中食堂で、私たちが敷地に入っていくと片隅でミゴの電動バイクが充電されていた。奥から50代の男性店主が現れ、「昨日、ステーションを設置したばかりで、君たちが初めてのお客だよ」と笑顔を見せた。

ミゴのステーションを設置している食堂

店先に目立つように置かれたミゴの車両

スマートフォンのアプリケーションで確認すると、ステーションにあるシェアリングの電動バイク5台全てが貸し出し可能になっていた。店の前に置かれていたバイクは、看板兼店主なりの利用客を呼び込む戦術だったのかもしれない。

アプリを開き、借りるバイクのロックを解除する。店主がヘルメットを渡してくれ、店の前の私道に運び出し、操作を教えてくれる。

「焦らずにね。ぶつけないでね…」。おっかなびっくりの私たちの様子に、店主が不安げに呟いた。慣れない土地で最高時速45キロメートルに達する乗り物を操縦する自信もなかったため、私たちはそのままステーション前の私道で試乗をしてみた。

スマホアプリで返却手続き・支払い

真っすぐに進む分には問題なく走ることができた。だが、Uターンしようとして壁に急接近してしまい、後ろに下がろうと、自転車と同じ感覚でついついペダルを踏んでしまうが、ミゴのペダルは実機能を伴っていないため、ペダルが後ろには回らず、かえって前に進んでしまう。壁にあと数センチのところで立ち往生している私たちを、店主が見かねて車両を道の真ん中へ運び直してくれた。試乗を終えて返却を申し出ると、店主は出会って一番の笑顔をみせた。きっと私たちが心配で食堂の仕事も手に付かなかったに違いない。

シェアリングサービス利用時に提供されるバイクとヘルメット

ミゴのバイクに試乗するNNA調査員

ヘルメットを返却し、アプリで返却手続き・支払いを行う。ステーションで、アプリのアカウントへのチャージ(入金)も可能になっている。利用料は、10分弱の利用時間で3,000ルピア(約23円)だった。ミゴはステーションを運営するパートナーに無料で車両を提供しており、充電にかかる電気代なども負担している。もろもろの経費がかかる中、低料金でミゴの利益にはなりにくいだろう。ただ、パートナーにとっては、小売店や食堂などを経営する傍ら、場所の提供と少しの管理業務で稼ぐことができるミゴステーションの運営は、個人事業者たちのサイドビジネスとして魅力的だ。

最大の魅力は安さと自由さ、そして安心

シェアリングサービスが拡大する理由は、その「安さ・自由度・安心」にある。四輪・二輪の配車サービスは低所得層が日常的に利用するには高く、伝統的な相乗りミニバスは安価だが、満席になるまでは出発できないため、長時間待たされることも多い。バジャイは、低価格で町中で比較的すぐに乗ることができるが、価格交渉でもめることも多い(NNA調査員も、行きのバジャイで通常よりも多めの運賃を支払う羽目になった)。

他方、シェアリングサービスは、四輪・二輪の配車サービスよりも割安な価格設定がされているものが多く、空車があればすぐに利用することができ、価格設定が明確なのでぼられる心配はまずないのだ。

ミゴは、ジャカルタやスラバヤではビジネス街や観光地などでの設置が進んでおらず、利用者はまだ一部の人に限られている。今後、ステーションを設置してくれるパートナーが増える、または駅などに設置されるようになれば、より利便性が高くなり、利用者が拡大していくだろう。20年には、バリ島でホテルなどとパートナー提携を結び、ステーションが設置されるようになったこともあり、今後は観光客の利用が増えていくと思われる。ミゴの動向から目が離せない。
(NNAグローバルリサーチグループ・金谷美紗子)

 
 

モビリティーサービスのエコシステム
東南アジア5カ国の現状調査レポート2020

現在、東南アジアにおけるモビリティーサービス事業者のビジネスは、ヒトの交通手段からモノの輸送、そして金融サービスやヘルスケアサービスまで、多種多様な業種のプレーヤーと提携することで、その領域を拡大しています。
日々進化を続けるモビリティーサービスのエコシステム。NNAグローバルリサーチグループでは、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムの5カ国を対象に、各地でモビリティーサービスを展開するプレーヤー28社(22アプリ)の事業実態について調査しました。

<詳しくはこちら>
https://www.nna.jp/corp_contents/book/asean/200828/

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