NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2019, No.59

「東西」の本から「亜州」を読み解く

アジアの本棚

『もっとさいはての中国』

安田峰俊 著

もっとさいはての中国

14億人の中国人はいまや、移民や留学を通じて世界中に現れるようになっており、中国人世界もアジアだけでなくアフリカや欧米までいたるところに広がっている。著者は天安門事件に関するルポルタージュで大宅壮一賞を受賞した気鋭のライター。語学力を駆使しておよそ中国人がいるところどこでも取材に行く腰の軽さが強みだ。2018年に出た前作『さいはての中国』も、中国国内から日本、東南アジアまで現地取材して「未知なる中国」を教えてくれる内容だったが、今回の続編はカナダで反日活動を展開する中国系「秘密結社」を直撃したかと思えば、亡命先の米国で指導部告発を続ける中国人富豪に単独インタビューするなどさらにパワーアップしている。

個人的に印象に残ったのは、アフリカ・ルワンダのルポ。この国には、1990年代の民族紛争で、少数派のツチ族が数十万人虐殺された暗い歴史があるが、内戦終結後は急速に経済発展を遂げ、いまでは「アフリカのシンガポール」とも呼ばれている。そこに次々と工場を建設し、雇用を生んでいるのが中国だ。日本ではあまり知られていない「伝音」という中国系携帯電話が高いシェアを持ち、米国では「中国の宣伝機関」として排除の対象になっている中国語教育機関「孔子学院」もルワンダには20校もある。安田氏をガイドしてくれた現地の若者も中国留学組で、会話もずっと中国語だったようだ。別の章で取り上げている中国の鉄道システムをほぼそのまま持ち込んだケニアの高速鉄道の話といい、アフリカでの中国の影響力の強さが改めて理解できた。

中国国内に戻っては、広東省で21世紀の現在も起きることがあるムラ同士の武力衝突「械闘」の背景を取材。ムラの古老が「前回の隣村との衝突」というのは清代の1910年のことで、地方の農村にはここまで古い価値観が残っているのかと驚かされるが、よく読むと発展に伴う経済格差の影響もあると分かってくる。どの章を読んでも現場に足を運んで実際に見てくることの面白さがよく伝わってくる。


『もっとさいはての中国』

  • 安田峰俊 著 小学館新書
  • 2019年10月発行 840円+税

【本の選者】岩瀬 彰

NNA代表取締役社長。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年より現職

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