NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2018, No.38

【アジアに行くならこれを読め!】

『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』

「私がこれから書こうとしているのは、爆買いとも反日とも無縁な中国人たちのノンフィクションである」。こんな書き出しで始まる本書の主人公は、農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者。彼らの人生を通じ、爆走する中国経済の影の部分に迫る。

ほかの多くの類似本と違うのが、上海在住歴18年の著者が、長い人で10年以上に渡り農民工と付き合いを重ね、「私の大切な友人たち」と呼べる関係性を築いていること。飯を共にしながら、彼らは著者に本音を語り、ありのままの生き様を見せてくれるのだが、どれも胸をぐさりと突くほど過酷だ。

中国では都市部と農村部で戸籍が異なり、農村戸籍の人間が大都市で得られる職は下働きや単純労働しかない。節約のため、自分たちは光の差さない廃墟に住みながら、大学院に通う息子のためにせっせと仕送りをする安徽省出身のパン夫妻。上海人に見下されながら、廃品回収業に勤しむ河南省出身のゼンカイさん。中国特有の制度が生んだ絶対的格差を、著者は時に驚き、時に憤りながら繊細に描写していく。重くなりがちなテーマだが、文体は快活で、登場する農民工がみな誠実さにあふれており、読後感は良い。

日経ビジネスオンラインで連載されていたコラムを元にしているため、時流を捉えた経済ネタや鋭い分析も随所にある。中国に関わる全ての人に読んでもらいたい。


『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』

  • 山田泰司 日経BP社
  • 2017年11月13日 発行 1,800円+税

農民工たちも、私も、互いに自分と同じ匂いを相手からかぎ取っていたのだと思う。
すなわち、「食いつめもの」として上海に集まってきて生きているという人間の匂いを。
(本書より)

目次 のぞき見
  • 留守児童
  • ウエートレスの供給地
  • 鶏肉に翻弄される人生
  • ユニクロの花嫁衣裳
  • 衝突で分断を融和できたころ

山田泰司(やまだ・やすじ)

ノンフィクションライター。1988~90年中国山西大学・北京大学留学。1992年東洋大学文学部中国哲学文学科中退。1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年上海に拠点を移し、中国国有雑誌「美化生活」編集、月刊誌「CHAI」編集長を経てフリー。EMS情報メディアの編集も手がける。

『「イノベーション大国」次世代への布石』

面積が東京23区程度で、さらに資源も乏しい小国であるにも関わらず、1人当たりのGDPが日本の1.7倍にも上るアジアの経済先進国、シンガポール。地勢的に東南アジアの中心にあり、交通や物流の要所であることに加え、インフラやビジネス環境が整っていることが、急成長の要因によく挙げられる。しかし、それだけではない。シンガポール政府は、先進技術を持つ企業と優秀な人材を世界中から呼び寄せ、国まるごと「イノベーションの実験場」にする戦略を打ち出している。最大の強みはイノベーションの実証から事業化に至るスピードだと、本書は指摘する。

シンガポールにキッコーマンが拠点を構えたのは1983年。当初は、日本から欧州などに輸出するコストが採算を圧迫したため、政治・経済が安定し、質の高い労働力を得られるシンガポールが、生産拠点として選ばれた。それから約20年後、2005年には研究開発拠点を設立し、アジアの大学ランキングで1位にも選ばれるシンガポール国立大と共同研究を進めてきた。成長著しい東南アジア諸国連合(ASEAN)市場を見据えた拠点に位置付けられている。

このほか、旺盛なインフラの需要地、最先端の研究開発拠点、高付加価値なものづくりの集積地として注目を集める。本書は、進出する日本企業の事例を紹介しながら、シンガポールのイノベーション大国たるゆえんを解説していく。企業がシンガポールに地域統括拠点を置くこと自体、目新しさがないほどその重要さは常識となっているが、イノベーション大国を自任するシンガポールの国家戦略の魅力をあらためて知らされる。


『「イノベーション大国」次世代への布石』

  • 日経BP総合研究所・編 日経BP社
  • 2017年2月発行 1,500円+税

そして今や、米国西海岸のシリコンバレーに比肩して語られるほどの「先端ビジネスの発信地」になった。(本書より)

目次 のぞき見
  • 新興都市の旺盛なインフラ需要を取り込む
  • 最先端のR&D拠点でイノベーションを創る
  • ASEANの消費パワーをつかむ
  • 高付加価値なものづくりを究める

日経BP総合研究所

日経BP社が2015年に設立したシンクタンク集団。日経BP社が持つ専門性と、メディアならではの発言力を駆使し、企業や自治体の課題解決、マーケティング活動、ブランド構築、技術開発を支援。傘下に社会インフラ研究所(旧日経BPインフラ総合研究所)やマーケティング戦略研究所(旧日経BPヒット総合研究所)など8つの研究所を抱える。

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