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【トップは語る】バンダイナムコホールディングス代表取締役社長 田口三昭

Photo by Osamu Mizuta

今期は3つの事業分野がそれぞれ特長を生かして、いいスタートが切れました。

トイホビーの分野ではアジア地域、特に韓国を中心に定番の『スーパー戦隊シリーズ』の関連商品がヒットしています。加えて、2014年にブレークした『妖怪ウォッチ』の商品がアジアでも評判がいい。『機動戦士ガンダム』もガンプラ(ガンダムシリーズのプラモデル玩具)がハイペースで海外に浸透し始めました。

ゲームが中心のネットワークエンターテインメント事業は、前期に発売した『ドラゴンボール』の家庭用ソフトが欧米で大ヒットし、今上半期には累計270万本まで伸びました。300万本に迫るのは、近年なかなか到達できなかった数字です。

映像音楽プロデュース事業では、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』というガンダムの敵側であるシャア・アズナブルの誕生秘話を描いた作品が好調です。14年に大ヒットした『ラブライブ!』も好調が15年も続いており、勢いがあります。

15年10月に始まった『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』というガンダムの新作は245の国・地域で同時配信しています。オリンピックの参加国数よりも多いそうで、驚くほどの規模です。実際の視聴は中国をはじめアジア諸国が大部分で、やはりアジアの力は大きいなと思います。

われわれが恵まれているのは、日本のIP(作品やキャラクターなどの知的財産)に対するアジアの方々の受容度の高さです。スーパー戦隊シリーズ、ガンダム、ドラゴンボールといった人気作の傾向は国内もアジアもほぼ同じです。

作品を見たい、グッズが欲しい、イベントに参加したいというニーズも高まっています。

何となくですが、アジア人に共通するオリエンタリズムというか自然観みたいなものが作品や商品から伝わり、受容度の高さにつながっているのではないでしょうか。

日本の少子化は玩具業界では随分前から言われてきましたが、それを事業の弱点とはみていません。アジアでは子供が多いことに加え、昔からガンダムやドラゴンボールが好きだったという大人のユーザーがすごい勢いで増えています。

大人になると関連イベントへの参加など、子供だった頃とは違った楽しみ方をするようになります。われわれが意図するまでもなく、自然発生的にニーズが高まってきたのです。

バンダイナムコとしては、まずは日本のIPを商品を通じてアジアに紹介する役割があります。配信のみならず、イベントやマーチャンダイジング(商品展開)も含めて幅広く立体的に広めていきます。

■日本の正規品が欲しい

海外ではディズニーやハリウッド映画といった競合の存在、海賊版の横行など乗り越えねばならない壁は多い。だが、当のアジアのユーザーたちはあくまで「日本の本物」を求めているのだという。

日本で売っている正規品、メードインジャパンが欲しいという声がアジアでも圧倒的です。食品や家電といったコモディティー商品のように現地の習慣に合わせてアレンジしていくことは、あまりないですね。

ですから、アジアでも日本の商品をそのまま同時に投入しようというのが今後の基本的な戦略です。日本の物が欲しいという方は、われわれが原書版や初版が欲しいのと同じくオリジナルがやはり欲しい。その場合、むやみにローカライズ(現地対応)すると逆効果になる場合もあります。

ただし価格については、子供のおこづかいやプレゼントの金額は国により違いがありますので、商品仕様や価格帯のローカライズを行っています。将来的には、アジアの人の解釈に沿ったスピンオフや新たなエピソードの展開、商品のローカライズなどは十分な可能性があります。アジアのニーズが新たな開発の出発点となることが増えてくると思います。

■地場コンテンツはこれから

強いていえば競合はディズニーさんになるかと思いますが、われわれもディズニー作品の商品を作らせていただいていますから完全なる競合という意識は持っていません。

香港や韓国の玩具店に行くと、ガンダムや『ワンピース』『聖闘士星矢』『仮面ライダー』といったバンダイナムコのライセンシー商品や、米国ハリウッド系の『アベンジャーズ』『スター・ウォーズ』やディズニーさんが手がける商品を多く見かけます。

地場企業のオリジナルについては、アジアで子供向けの実写作品が少しずつ出てきましたし、数年前からCGの作品も出ています。インドネシアでは、日系企業との共同制作で『BIMA』シリーズという特撮ヒーロー番組が立ち上がりました。他にもあるのでしょうが、地域に根ざしたコンテンツは、これから出てくるのだと思います。

アジア展開における難点は海賊版(非正規版)です。本物が求められながらも海賊版が出回り、ゼロにするのはなかなか難しい。価格設定は現地に合わせますが、われわれの品質を下回って安く提供される商品もあり、知らない人にはそういうものだと思われてしまう。海賊版の対応にエネルギーが必要なのが日本との一番の違いです。

対策として、例えばガンダムはウェブの無料配信を行っています。正規版を見られないことが海賊版の出る理由だとするなら、正規版を体験してもらうことを優先しようということで。

有料化したり配信を遅らせても、残念ながら海賊版はたくさん出てきます。それを防ぐには、われわれ自らの手で提供していくことが必要と考えます。

■アジア売上高10%はマスト

2015年3月期の連結売上高は当初予想の5,000億円を大きく超える5,600億円に達した。直近となる16年3月期の第2四半期も通期予想を上方修正し、すこぶる好調だ。当面は18年3月期に同6,000億円、アジアはその1割に当たる600億円をひとつのポイントに見据えている。

18年3月期にアジア売上高600億円、売上比率10%は中期計画での目標です。アジアと欧米が同時並行的に展開する戦略もあります。アジアでの事業拡大は、グローバル企業を目指すためにはマストです。今はまだ5%くらい(15年3月期末時点で約300億円)ですが追い風も吹いていますし、ネットワークコンテンツの本格展開も始めましたので期待できると思います。

われわれは「世界で最も期待されるエンターテインメント企業になる」というビジョンを掲げているので、さらに5年、10年先には国内と海外の比率を半々にしたい。日本で半分、世界で半分が当面の目標です。

アジアでは人口の多い中国、インドにも注目しています。国ごとに環境や嗜好(しこう)も異なりますので、きめ細かく丁寧なマーケティングが必要とされています。

■同じ物を楽しめる

おこがましいかもしれませんが、われわれは日本のIP、コンテンツ業界を引っ張れる存在になりたいと思っています。エンターテインメントの力は偉大です。世界の人の心に入っていく力を持っているんですね。

私は商売上、作品を多く見ますが、最近では『ナルト』の息子の話を描いた『ボルト』という映画にすごく感動しました。なんだろう、鳥肌が立つような。主人公の子供たちの世代が成長していくお話ですけれども、分かりやすくてエキサイティングで最高に面白かった。

これは欧米やアジアの人が見ても、きっと鳥肌が立つと思います。日本のIPは十分に世界に打って出られる。われわれは何という可能性のある商売をしているんだろうと、しびれましたね。

ボーダレスな時代に入り、日本もアジアもエリアでは線引きできなくなってきました。いまや日本を含むアジア地域、オールアジアと言った方が良いかもしれません。その意味で、日本のIPはアジアの財産でもあります。アジアの方々にもっと愛され、さらに成長していくよう、われわれの商品・サービスを通じて価値を高めたい。

私が日本のIPを面白いと思うのと同じ感覚を、アジアの人も持っているのだろうと思います。誰かが共有しなさいと教えたわけでもないのに同じ物を楽しめる。

ガンダムやドラゴンボールが共通の話題になり、「あれいいよね」って共鳴し合える。政治的な問題があったとしても趣味の世界で言う人はあまりいません。

好きな人は好き、いいものはいい。それを無条件に分かち合えることは最高だと思いますね。(聞き手・岡下貴寛)

【プロフィール】
田口三昭(たぐち・みつあき)
1958年生まれ、57歳。明治学院大学法学部卒業後、バンダイ入社。ベンダー事業部部長、常務取締役、専務取締役、代表取締役副社長などを経て2015年6月より現職。趣味はゴルフ、野球、登山、ボートで11年に1級小型船舶操縦免許を取得。座右の銘は特にないが「自分らしくを心がけている」という。

カンパサール本紙を読む(2016年1月号より抜粋)

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