【インフルエンサーinアジア】
開設2週間で収益化に成功
インドでバズる大学生チーム
MaharaJapan
SNSで多数のフォロワーを持ち、強い影響力を持つインフルエンサーが注目を集める昨今。そんな彼・彼女たちの中から、日本とアジアをつなぐインフルエンサーをご紹介。(取材=NNA東京編集部 古林由香)
YouTube : MaharaJapan 登録者数9万2,300人 ※2021年11月22日現在
左:藤掛出海(23) 栃木県出身。上智大学経済学部4年。インド渡航経験はないもののユーチューブ運営にひかれ参加
中:鈴木蓮 (22) 栃木県出身。上智大学経済学部4年。MaharaJapan発起人。インドのIT企業でインターンを経験
右:髙橋史好(21) 群馬県出身。慶応義塾大学総合政策学部2年。根っからのインド好きで高校時代にインド留学を経験(MaharaJapan提供)
13.8億の人口を抱えるインドではここ数年、ユーチューブの登録者数と再生回数が急拡大。その熱い市場をターゲットにした日本人ユーチューバーも増えていて、MaharaJapan(マハラジャパン)もその一組だ。インドでのインターン経験を持つ鈴木蓮さんを中心に結成された現役大学生によるグループで、流ちょうな英語を生かしたリアクション動画(自分のリアクションを撮影したコンテンツ)がヒット。短期間で収益化に成功した秘訣(ひけつ)や、今後の展望について話を聞いた。
――インド人をターゲットにしたユーチューブを始めようと思ったきっかけは?
鈴木蓮(以下、蓮) 以前、フィリピンに語学留学をした際、ユーチューブの動画に勇気をもらったのがきっかけです。当時、僕はとがっていた部分が少しあり、友達ができず一人で過ごすことが多かったんですが、その時に支えになったのがユーチューブでした。人にいい影響を与えるツールだと実感し、挑戦したいと思ったんです。
でも日本のユーザー向けにやったところで、日本は人口が減っている一方でユーチューブのプレイヤーが増えていて、勝算は低い。そう思っていろいろ調べていく中で、インドでKOH(コウ)さんという日本人ユーチューバーが大人気で、チャンネル登録者が100万人超という事実を知ったんです。他にも、インドで人気の外国人ユーチューバーが複数いて、すごく熱いマーケットだと分かりました。
ただ、普通にやってもKOHさんらの二番煎じになってしまう。そこで、差別化するために3人くらいのグループを組んで、年齢的な若さを特徴にしようと思いました。グループ名は「偉大な王」の意味を持つサンスクリット語の「Maharaja」とJapanを掛け合わせて作りました。
――メンバー集めはどのように?
蓮 登録者数が伸びるまでに時間がかかると思い、辞めない人という前提でインドでの何らかの経験がある人に絞りました。髙橋史好(ふみこ)さんは高校時代にインドへの留学経験があり、“インドJK”としてSNSなどで情報をうまく発信されていて、適任だと思って声を掛けさせてもらいました。
髙橋史好(以下、史好) 相互フォローしていたツイッターに「知見をいただきたい」というDM(ダイレクトメール)が届いて、昨年8月に初めて会うことになりました。その時、東京から私の地元の群馬県まで徹夜で自転車をこいで来てくれて(笑)。一緒にやりたいという手紙をもらい、本気でスカウトしに訪ねてくれたと感じて、参加することにしました。
蓮 藤掛出海(いずみ)くんは高校からの同級生で、インドとの関わりは特に持っていませんでしたが、英語が得意というのと、笑いのセンスがあるので誘いました。あとは、フィリピン留学時代に知り合ったKGさんという男子学生を含めたメンバーで運営しています。
首都圏にある南インド料理店を訪れ、食したカレーなどの感想を伝えるリアクション動画。タミル語のあいさつなどが視聴者の心をつかみ、チャンネル内で1番の再生回数を記録(MaharaJapanのユーチューブより。以下同)
検索語を分析しキーワードに
コアなファンの獲得に成功
――チャンネル登録者の属性は?
蓮 男女の割合はほぼ半々で、年齢的には10代から20代半ばがボリュームゾーン。居住地でいうとインドが95%で、その他の国が約0.2%ずつありますが、国外在住のインド人の視聴者だと思います。
――チーム内での作業の分担は?
蓮 編集はメンバーで分担しつつ、一部は大学内の動画編集サークルにやってもらっています。このサークルは僕らが立ち上げたのですが、こういったことが可能なのは学生の特権だと思います(笑)。その他の作業は明確には分けていませんが、史好さんは人とのお付き合いが上手いのでキャスティング関係をやってもらい、僕と出海は撮影の計画など全体的なことを考えるといった感じです。
――20年10月にチャンネルを開設後、1週間で登録者が1,000人を超えて再生数も回り、開始2週間という短期間で収益化に成功したそうですが、うまくいった要因は?
蓮 動画編集のクオリティーが低くなかったことが1点。もう1点は、どういった検索語のボリュームが大きいのかなどいろいろ研究し、タイトルなどに入れるキーワードもしっかり選んでいたのが結果に結びついたのかと。
藤掛出海(以下、出海) 外国人がインドの物にリアクションをする「Reaction on India」というジャンルが伸びていることが分かり、最初はそのセオリー通りにやっていました。その段階でコアなファンが付いてくれました。
史好 インド人の知り合いに拡散をお願いしたりはせず、検索流入(検索エンジン経由でユーチューブに流入すること)のほか、コアなファンがユーチューブ内で広めてくれた感じです。プラットフォーム内で評価されるやり方を取ったのが良かったと思います。ただ、初速は良かったのですが、その後の登録者数は少し伸び悩んでいるのが正直なところです。
蓮 今年の夏の間に登録者10万人達成という目標があったのですが、少し遅れています。まだまだ力不足ですし、コンテンツ企画の難しさも実感しているところ。もっといろんなことを学んでいく必要があると感じています。
MaharaJapanのメンバーが気に入っているという、日本人チームとインド人チームによる激辛料理対決の動画。「協力してくれたインドの方と一緒に良いコンテンツが作れましたし、企画として面白かったと思います」(蓮さん)
ユーチューブはあくまで起点
日印を結ぶ活動を広げたい
――動画のコメント欄には「かわいい」「楽しい」といった多くのポジティブなコメントが寄せられていますが、特に印象的だったことは?
出海 自分の誕生日の時に、何百人もの視聴者からお祝いのコメントを頂いたことです。ユーチューブをやっていなかったらこんな経験はできなかったと思います。
蓮 インドの方は愛がすごく大きいなと感じます。いつもコメントをくれる方も少なくなく、制作の励みになっています。
史好 コメントではないのですが、先日インド料理店に行ったら「見たことがある」と言われ、うれしかったです(笑)。ちゃんと動画が届いているんだという実感を持てました。
――今春、日本の音楽グループが発表した『カレーポリス』という曲のミュージックビデオで、文化を揶揄(やゆ)した表現があるとしてインドで炎上する騒ぎがありました。皆さん自身が気を付けていることなどは?
史好 インドの友達や留学中ホームステイをしていた家のお父さんが見たらどう思うか、ハッピーに感じてくれるかを基準にして発信するようにしています。
蓮 インドの方は愛国心がすごく強いんです。そこは絶対に傷つけないようにと細心の注意を払っています。
出海 炎上の引き金となったステレオタイプな見方というのは、インドを正しく知らないことが原因だと思います。そういった意味で正しい情報発信が大切ですし、僕らがその役割を担えたらと考えています。
――MaharaJapanの動画によって、日印関係がどうなってくれたらうれしいですか?
史好 日本人が持つインドのイメージと実際はすごく乖離(かいり)しているんです。高崎(群馬県)にあるイオンモールより4倍ぐらい大きいモールがあったり、地下鉄が走っていたり。MaharaJapanはインド人向けのチャンネルですが、「インドってすごいんだよ」ということを日本人にも伝えていきたいです。
蓮 インド人に対しては、日本で働くことの良さを知ってもらいたいです。メルカリなどインド人の学生を採用する企業がここ最近増えていますが、欧米と比べるとまだまだ少ない。将来的には人材紹介の業務も自分たちでやってみたいです。
――今後の夢や目標は?
蓮 登録者数100万人という目標はありますが、ユーチューブはあくまでも起点。日本企業のインド進出をサポートするなど、活動の幅をどんどん広げていきたいです。僕らにはインドでの経験だけでなく、インド人のファンやサポートしてくれる方がいるので、いろんな展開が可能だと考えています。
あと、来年春ごろまでには、コンテンツを撮りにインドに行きたいです。われながら日本だけでよく頑張ってきたなぁと(笑)。視聴者の方とのオフ会もぜひやってみたいですね。
史好 私もただのユーチューバーで大学生活を終わらせたくないので、ビジネスを含めてMaharaJapanとしていろんなことをやっていきたいです。個人的な夢としては起業して、何かしらずっとインドと関わりのある領域で活動していきたいです。
出海 インドは人口増加に伴い、今後さまざまなビジネスチャンスが生まれる国。その一方、インドをきちんと理解している日本人は少ない。MaharaJapanのチャンネルをもっと大きくして、両国のギャップを埋め、つなげる役割を担っていきたいです。
名門で知られるインド工科大学(IIT)ボンベイ校の文化祭のリアクション動画。「文化祭実行委員の学生の方からPRをしてほしいという依頼があり作成しました。他にもインドの企業からPRなどのお仕事の案件が入るようになり、この年齢で海外の企業と取引できる経験にわくわくしています」(史好さん)
(NNAのユーチューブより)
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エリカ・エビサワ・クスワンさん(インドネシア/日本)