NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2023, No.103

【新:カフェビジネス最前線】

「スタバでコーヒー」
チャイの国の新風景

アジアに広がる近代的なカフェビジネスに焦点を当てる新シリーズ。インドで米コーヒーチェーン「スターバックス」を展開するタタ・スターバックスの売上高が、事業開始から10年で初めて100億ルピー(約177億円)の大台に乗った。1杯10ルピー(約17円)から飲める伝統的な紅茶「チャイ」が親しまれるインドで、1杯200ルピー以上するスタバのコーヒーが受け入れられている。

インド北部グルガオンの「スターバックス」の店舗(NNA撮影)

インド北部グルガオンの「スターバックス」の店舗(NNA撮影)

「3日に1回はスターバックスに来ている。家では毎日家庭のチャイを飲むが、外ではコーヒーを飲んでいる」――。北部グルガオン在住のビシャル・タングリ氏(42)はそう話した。

グルガオンでは、屋台のチャイが少量ではあるが10ルピーで飲めるのに対し、スタバのコーヒーは200ルピー以上する。高く感じないか尋ねると「確かにスターバックスの価格は少し高いけれど、商品のクオリティーは高いし、店ではワイファイ(Wi―Fi)も使い放題。1日中座っていられるし、価格に見合っていると感じる」と返ってきた。

タタ・スターバックスが4月に発表した2022/23年度(22年4月~23年3月)の決算は、売上高が前年度比71%増の108億7,000万ルピーと、100億ルピーを突破した。アナリストによると、同社が100億ルピーの売り上げを達成したのは今回が初めて。純損益は明らかにしていないが「EBIT(利払い・税引き前利益)はプラスだった」と決算資料で述べている。

スターバックスは財閥タタ・グループとの合弁会社として、12年にインドに進出。西部ムンバイに1号店を開いた。

進出から約10年後となる23年3月末までに、会計ごとにポイントがたまるプログラム「スターバックスリワード」の会員数は230万人を突破。前年3月末の2倍に増えており、急激に顧客を増やしている。

全土にコーヒー浸透
チェーン店の需要増

インドのチャイ(NNA撮影)

インドはスパイスを利かせたミルクティーのチャイが広く親しまれている。ドイツの調査会社スタティスタが22年に実施した調査によると、インドの回答者の72%が「定期的にお茶を飲む」と回答した。インドは中国に次ぐ世界2位の紅茶生産国で、8割以上を自国で消費する。

そんなインドでスターバックスの事業が拡大している背景には、コーヒー文化の浸透や消費者の可処分所得の向上がある。

コーヒーを生産販売するウッドペッカーズ・コーヒー・トレーディング・ハウスで、コーヒー・コンサルタント兼社長を務めるプラシャント・ナグラジ(Prashant Nagraj)氏は「インド全土でコーヒー文化が急速に浸透し始め、チェーン店の需要が高まっている。可処分所得の増加も都市部で需要を押し上げている」と話した。

インドの南部には伝統的にミルク入りのコーヒーを飲む文化がある。最近は、それ以外の地域でもコーヒーを飲む人が増えているという。

「重要なのは、インドは人口が世界最多の巨大市場であるため、たとえコーヒーに移行する機会がわずかでも、大きなコーヒー市場になることだ。今後もコーヒーチェーン店は存在感を高めるだろう」とナグラジ氏は予想する。

容器の縦幅9センチ
ピコサイズで集客へ

タタ・スターバックスは店舗網の拡充に意欲的だ。22/23年度は71店舗を設置して新たに15都市に進出した。年間の店舗設置数では過去最多だ。店舗数は全国41都市で333カ所に増えた。

同社は「今後、数年間で存在感を急速に拡大させる」ことを目指す。22年は顧客層を拡大しようと、試験事業を4都市で実施した。

内容は▽インドで一般に飲まれているおなじみの飲料をメニューに追加▽ホットドリンクに、約180ミリリットルの「ピコ」サイズを導入▽フードメニューを変更し、できたてでシェア可能な料理を提供▽店舗内装をより魅力的に刷新――することだ。

これらの変更を行った店舗では運営面で改善が見られたことから、23年は全国的に展開する。

一部の店舗に導入している「ピコ」サイズ(約180ミリリットル)のコーヒー。容器の縦幅は約9センチメートル。写真は最も安いカプチーノで220ルピー=インド・北部グルガオン(NNA撮影)

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