【アジアエクスプレス】
夢はミャンマー発アイドル!
日系が育成プロジェクト始動
今年2月の政変以降、混乱が続くミャンマーで、日本人起業家らが女性アイドルグループを誕生させるプロジェクト「ジャパン・ドリーム・アイドルプロジェクト」を始動させた。未来のアイドルを夢見る約980人の少女たちから応募があり、9月26日には最大都市ヤンゴンで初の審査会を実施。11月中旬からは、審査やトレーニングの様子を伝える動画がSNSで公開される。未来への希望を失う若者が多い中、アイドルの活躍で国に元気を与えるのが目的だ。
「ジャパン・ドリーム・アイドルプロジェクト」の告知画像。書類選考を通過した22人の候補者(ZERO2ONE提供)
プロジェクトは、ヤンゴンで電子商取引(EC)事業などを手掛けるZERO2ONE(ゼロトゥーワン)の代表、加藤大樹さんが発案。現地でダンススクールを営み、大手企業のコマーシャル(CM)振り付けも多数手掛けるタイ人ダンサーの女性メオウ・メオウさん、韓国育ちでソウルの有名スタジオ「1 Million Dance studio(ワンミリオン・ダンススタジオ)」にも所属したミャンマー男性モヤ・ファナイさんらが審査員として参加するほか、日本のアイドル育成に携わった経験を持つ日本人芸能プロデューサーも遠隔で協力する。
プロジェクトでは、7月初旬に会員制交流サイト(SNS)のフェイスブックで公式ページを立ち上げ、プロジェクトの紹介と、審査のエントリー希望者を募った。「不安定な情勢下、どこまで反応があるか不安だったが、関心は想定以上だった」(加藤さん)。フォロワーはこれまでに1万6,000人を超えており、自己紹介や歌を披露する動画を提出する書類選考には、締め切りまでに約980人の応募があった。
応募の約8割はヤンゴン在住者で、残り2割は首都ネピドー、第2の都市マンダレーのほか、北部カチン州、南部タニンダーリ管区にも及んだ。
10~20代の22人が一次審査に
アニメのコスプレで自己PR
ヤンゴン市内のスタジオで行われた初の審査会の様子。プロジェクトに賛同したロート製薬の現地法人が審査会をスポンサー支援している=9月26日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA撮影)
書類選考の結果、14~24歳の22人が9月26日にヤンゴンの会場で行われた初の審査会に参加。1週間前に伝えられた日本語の課題曲とダンス、自己PRを行った。中には、日本の高校生の制服を思わせる衣装や、人気アニメ『鬼滅の刃』のキャラクターのコスプレをする参加者も。ウクレレの弾き語りや腹話術、空手などの特技披露があったほか、英語や日本語、韓国語が堪能な人材も目立った。
インタビューに応じたトウ・ター・ウィン・トゥさん(愛称ハルハナ・チュー)。「ダンスと歌の実力をみがき、デビューしたら多くの人に見てもらいたいです」(ZERO2ONE提供)
審査に臨んだ少女たちに共通するのは、芸能界への強い憧れと熱意だ。「落選しても合格するまで審査を受け続け、諦めはしない」「女性のセクシーさだけが強調される今の芸能界を変えるべきだ」「美しさは、私の誰にも負けない強み」――。22人は審査員に向けて、毅然(きぜん)と自らをアピールした。
その1人、トウ・ター・ウィン・トゥさん(16歳)は日本のアニメを好きになったことをきっかけに3年前から日本語を習い始め、日本語検定3級(N3、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができるレベル)を取得した。書類審査用の写真では、メイド喫茶のウエートレスのコスプレを披露した。「日本とミャンマーのハーフのタレント、宮崎あみささん(日本のアイドルグループ、ミスティア所属)が憧れ。彼女のようにかわいいアイドルになりたい」と夢を語った。
審査に当たったタイ人ダンサーのメオウ・メオウさんは、「応募者は予想以上に準備万端で審査に臨んでくれており、非常に感心している」とコメント。「(政変があり)通常の環境ではない中で、アイドルを育てていくのは難しいプロジェクトになるが、力を尽くしたい」。
政治的発言を封印し安全確保
若者に光を与える企画にしたい
2011年の民政移管後にスマートフォンの普及が進んだミャンマーでは、海外の芸能情報がインターネットで急速に浸透。テレビや広告などのコンテンツ産業が徐々に育つ中で、韓国の女性グループ「BLACKPINK(ブラックピンク)」、日本の「AKB48」とその姉妹グループなどが知られるようになり、手の届く存在としてアイドルへの憧れが強まっていた。
芸能人を育成するプロダクションは発展途上だが、数年前から韓国企業が現地で新人を発掘する事業を活発化。19年には韓国系芸能事務所からミャンマー人男性で構成されたアイドルグループが誕生したものの、女性グループはまだ存在しない。
今回のアイドル発掘プロジェクトに参画する協力者らは、芸能に関心を抱く若者の育成に携わろうと現地に拠点を構えてきた。前出のメオウ・メオウさんは「将来の全てを失ったように感じている若者が多いが、このプロジェクトでいくらかの光や未来へのチャンスを与えられると思う」と語る。加藤さんも「夢と希望を与える日本とミャンマーの架け橋となるアイドルが生まれるよう、プロジェクトを進めていきたい」と力を込めた。
国内ではクーデター後、政治的な言動から国軍に拘束される芸能人も相次ぐが、プロジェクトに参加する少女たちには政変に関連する発言を控えてもらうことを徹底し、彼女たちの安全を守る考えだ。
審査を通過した15人は、10月初旬からメオウ・メオウさん、モヤ・ファナイさんらによるトレーニングを受け、年末までの審査で3~5人に絞り込まれる。公式フェイスブックやユーチューブでは、審査会やトレーニング中の様子を伝える10分程度の映像番組を11月中旬から週1回、発信していく予定だ。年明けを予定しているデビューまでにさらに周知を図り、CM出演など活躍の場を増やしたいという。
10月から始まったトレーニングの様子。合間にはリラックスした笑顔も=10月9日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA撮影)