NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2020, No.65

【特集 アジアの在宅②】

アジア的テレワーク 
コロナ後の働き方

アジアでは中国、韓国のように既に新型コロナウイルス感染症の流行がピークアウトし、通常の事業活動を再開しようとする動きが出ている。今後は、テレワーク導入や勤務体制の見直しで得られた業務効率化、従業員の労務環境改善などの効用や知見を、いかに経営や現場で生かしていくかが問われる。


中国のテレワーク

社員を見張るか信じるか
活用増える遠隔ツール

「Zoom」を使い遠隔で中国のテレワーク事情について説明する、サイボウズ中国の増田導彦副総経理

新型コロナウイルス感染症の流行で、中国でも在宅勤務を中心とするテレワークへの注目が一気に高まっている。

国民の多くが通信アプリ「微信(ウィーチャット)」やインスタントメッセンジャー「QQ」を活用するスマートフォンアプリ先進国の中国だが、ビジネス情報共有ソフトウエア大手、サイボウズ中国現地法人の増田導彦副総経理は「テレワークには、ITインフラ以外にも制度の整備やこれを受け入れる企業文化の形成が重要となる」と指摘する。

増田氏によると、中国では最近になりテレワークで活用できるITツールが多数リリースされている。

中国の電子商取引(EC)最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)の「釘釘(ディントーク)」や、短編動画共有アプリ「抖音」とその海外版「TikTok(ティックトック)」を展開する北京字節跳動科技(バイトダンス)の「飛書(フェイシュー)」などが有名だ。防疫期間中に無料で提供していることもあり、利用者を一気に増やしている。

これらのビジネスツールはスケジュールや勤怠管理のほか、社外関係者との接続も可能なウェブ会議機能を備えているものが多く、「企業訪問や出張が制限される中で、テレワークには必要不可欠」(増田氏)と言える。

ツールを活用するに当たり、気を付けたいのがその使い分けだ。チャットツールでもあるウィーチャットは気軽に使えるものの、発信内容が時系列で積み重なっていく「フロー型」のため、情報の確認漏れや、担当社員が複数のプロジェクトに関わった場合に混乱状態に陥りやすいこと、情報が蓄積されにくいといった問題がある。

一方、例えばサイボウズが提供するビジネスツール「キントーン」など「ストック型」の場合は、◇プロジェクトごとにページを立ち上げ、進捗(しんちょく)状況などを一元的に管理できる◇過去の情報を再チェックすることが容易◇社員のアポイント件数や成約件数、そのアベレージを自動集計するといった付帯機能――などの特徴があるため、フロー型の問題を補完できるという。

同社でも、ウィーチャット、キントーン、そしてウェブ会議ツールの「Zoom」を用途によって使い分けている。Zoomは米カリフォルニア企業によるウェブ会議システム。増田氏はZoomについて、スムーズな接続のほか、シンプルな構成でITリテラシーが低くても比較的容易に使用できることが利点だと説明している。

ただ、テレワークは社員の自宅などのインターネット環境に依存するため、ツールの種類にかかわらず、時間帯や回線状況によってアクセスがしづらくなることも多々発生する。解決策としては、社員に比較的通信が安定するモバイルルーターを支給するといったことが考えられる。

“性悪説”の中国系ツール

多くの人が集まりコロナウイルス感染が拡大することを避けるため、政府が導入を奨励したことでも注目されるようになったテレワークだが、サイボウズ中国では昨年あたりから取り入れを進めている。

適用の理由や目的、仕事内容などを判断し、個別に在宅勤務の可否を決定する。最近では、出産準備のために実家に帰省したいという社員に対し、産休に入る3カ月前から在宅勤務を認めた。男性社員でも、育休前後に3カ月ほど在宅勤務させたケースがある。

ただ、テレワークを広く導入するに当たっては管理や人事評価の制度が重要になってくる。テレワークでは「あの人はサボっているのではないか」といった疑心暗鬼、「あの人だけずるい」などの不公平感が生じやすいためだ。

釘釘や飛書といった中国のIT企業系ツールは、社員の管理機能に重点が置かれているのが特徴だ。

例えば釘釘には、社員がいつ送られたメッセージを読んだかが分かる「既読」機能がついている。ウィーチャットにはないこの機能をつけることで、レスポンスの善し悪しで仕事に打ち込んでいるのか、人目がないのをいいことに仕事以外のことをしているのかが把握しやすくなる。

増田氏は「中国のツールは“性悪説”で、社員はサボるという前提で作られているところがある」と指摘する。

一方でサイボウズ中国のキントーンは、どちらかというと“性善説”寄りだ。社風もあり、管理よりも社員のモチベーション向上を意識して作られている。個人の行動をオープンにするなど情報共有に力点を置き、「他の人がやっているので私もやらなければ」といった意識を引き出す。

同社でも、日報から会議の議事録、プロジェクトの進捗、営業の数字などの情報を従業員が閲覧可能にしている。これにより「情報格差が生じず、不公平感も起きにくい」(増田氏)。営業成績などの情報も共有を進めることで、人事評価での不満を抑えることにもつなげるという。

ただ、管理型、情報共有型、いずれの特徴が強いツールであっても、管理ならばどこまで正確な管理ができるか、共有型ならばいかに全社員が積極的にチャット上などで発言できるような雰囲気を作り上げるかなど、テレワークでは「マネジャーの手腕の優劣がより顕著に表れる」(増田氏)ことになる。

あえて「ザツダン」させる

さらに、テレワークの導入にはそれが馴染む「企業文化」が醸成されているかも重要になる。

そもそも社内に情報共有の習慣がなく、平時でも誰が何をしているのかが分からない状態では、さらに「見通し」が悪くなるテレワークは機能しにくい。また、上司や同僚に相談しやすい「風通し」の良さもポイントとなる。

同社の場合、テレワークは社内で日ごと交わされる何気ない会話がなくなってしまうため、あえてスケジュール上に「ザツダン」という時間を設け、コミュニケーション不足を補っているという。(NNA中国 榊原健)


韓国の新しい働き方

柔軟な「新型ワーク」
出勤再開で転換拍車

韓国では、新型コロナウイルスの感染拡大の鈍化を受けて、防疫対策として実施してきた在宅勤務を通常の出勤体制に戻す企業が増えている。時差出勤など柔軟な働き方を引き続き推進する動きもみられ、ワークライフバランスを見直す機運が高まりつつある。

ウリ銀行はコールセンターなどで在宅勤務を実施してきたが、店舗では接客デスクにアクリルパーティションを設置するなどで通常勤務を続けている(同行提供)

ゲーム大手のネクソンは2月27日から採用していた在宅勤務をやめて、4月6日から妊婦などを除いた従業員全員の出勤を再開した。防疫対策としては、出勤時間を午後12時までに延長し、本社(京畿道・板橋)を行き来するシャトルバスでは、乗客の間隔を確保するため2人席を1人で使うよう義務付けた。

SKテレコム(SKT)も、同日から本社従業員5,000人のうち半分以上がオフィスに出社。フレックスタイム勤務制で対応する。ゲーム開発のNCソフトは週4日制を導入し、月4日の有給休暇を与える体制に変更した。

韓国で最も早く在宅勤務の打ち切りを表明したのは、自動車最大手の現代自動車だ。新型コロナの流行で海外工場が相次ぎ休業する中、競争力を維持するにはテレワーク(遠隔勤務)では対応しきれないと判断した。業種により異なるものの、効率面で在宅勤務に限界を感じる企業が多くなっているのが実情だ。

毎日経済新聞が会社員を対象に実施した調査によると、在宅勤務で業務効率が低下する理由として、「ワークスペースと生活空間の分離ができず集中力が落ちる」「業務報告をする際に手間がかかる」「育児や家事などを並行することで業務の妨げになる」などが挙げられた。

ワークライフバランス充実へ

一方、新型コロナの事態で有効性が証明されたのが、時短勤務や時差出勤、フレックスタイム制といった勤務体制だ。仕事にメリハリをつけられる上に、社内でのコミュニケーションも取れるので在宅勤務に比べて業務効率が高い。大半の大手企業が柔軟な働き方を認めており、今後も継続的な活用が見込まれる。

長時間労働が常態化していた韓国では、労働時間の上限を週52時間にする韓国版「働き方改革」が、2017年から大企業を中心に推進されてきた。19年の1人当たりの平均労働時間は、勤務日数が前年よりも2日増えたにもかかわらず、前年比で0.8時間短縮した。

今回の事態を機に柔軟な勤務体制の導入が企業で広がれば、労働者のワークライフバランスはさらに充実すると期待されている。(NNA韓国 中村公)

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