【特集 アジアの在宅①】
在宅時代にチャンス
非密系ビジネス広がる
新型コロナウイルス感染症の流行で、アジア各国の実体経済は深刻なダメージを負っている。衛生対策のため、オンラインを活用した新たな生活様式が推し進められる中、これまでになかった新たな消費やビジネスの変化が始まっている。
楽天モンキーズは無観客試合となったことを受け、本拠地の桃園国際棒球場のスタンドにメッセージボードやマネキンを配置。スポンサー企業の名前を載せた=5月3日(NNA撮影)
<台湾>
プロ野球が開幕好調
世界のファン熱視線
世界中のプロスポーツが中止・延期に追い込まれる中、早期の開催にこぎつけた台湾プロ野球に世界が注目している。
台湾のプロ野球団体、中華職業棒球大聯盟(CPBL)は当初の予定から約1カ月遅れの4月12日、無観客ながら2020年シーズンの開幕に踏み切った。海外メディアも開幕を一斉に報道。米CBSは「メジャーリーグの延期でファンが野球に飢える中、幸運だった」と伝えるなど、貴重なスポーツコンテンツとして世界からの注目を浴びた。5月8日からは集客も開始している(5月末時点の上限人数は2,000人)
各メディアはSNS上で英語中継を始めるなどの施策を実施。英国のイレブンスポーツは、ツイッター上で英語中継を始め、4月28日までに視聴者数は延べ1,000万人弱を計上。1試合当たり約100万人と、通常のテレビ中継と比べても記録的な数字をたたき出した。
日本からの注目度も高まっている。スポーツ情報アプリ「Player!」を運営するookami(オオカミ、東京都世田谷区)は、今年から同アプリ上で台湾プロ野球の速報配信を開始した。同社によると、速報開始後に新規会員数が増え、「当初の想定より手応えを感じている」という。
一方、各球団の経営は苦しいようだ。放映権料はシーズン前に契約するため、視聴者の急増がすぐに増収に結び付くわけではない。感染防止のため集客に制限がかかっていることが重くのしかかる。
台湾プロ野球に今年参入した楽天モンキーズ(楽天桃猿)の川田喜則ゼネラルマネジャー(GM)は、「球団収入の3~4割を占めるチケットのほか、球場でのグッズや飲食の販売収入が影響を受ける」と明かした。
新たな収入開拓も
ただ世界に先駆けて開幕したことで、台湾プロ野球を海外に向けPRできたとは言えそうだ。
川田GMは「今後どのような形で収益に結び付くかは分からないが、台湾の楽天モンキーズという新球団を世界に発信できたことはプラスの要素となった」と話す。
中信ブラザーズは、域外ファンの増加を受けて日本や米国、韓国向けにグッズ販売を開始したことを好材料に挙げた。
富邦ガーディアンズも「海外への中継を通して、ホーム球場やガーディアンズのユニホーム、マスコットなどのグッズをPRできた。新型コロナウイルスが終息した後は、海外から台湾プロ野球の観戦に訪れる人が増える可能性もある」と、新たな収入チャネルの開拓に期待を示している。(取材・写真=NNA台湾 吉田峻輔)
<インド>
行かない 会わない 触らない
接触無用の自動車セールス
「ホンダフロムホーム」が利用できるHCILの公式ウェブサイト
インドの完成車メーカーの間で「非接触型」の販売に注力する動きが加速している。各社は続々とオンラインでの予約販売を開始。新型コロナウイルス感染対策で都市封鎖が続く中、新たな自動車セールスの姿を模索している。
ホンダのインド四輪車法人ホンダ・カーズ・インディア(HCIL)は4月27日、支払いまでの手続きが自宅で完結するオンライン予約システム「ホンダフロムホーム」を導入した。
ウェブサイトから「すぐ予約」と指定して車両を予約すると、1~2日ほどで選んだ販売店から連絡が来る。支払いや手続きが済めば、後日、車が家に届くシステムだ。すでに半数以上の販売店に導入されており、全国の販売店での対応を可能にしていく。
同社は、他者との接触に対する不安が広がる中、オンライン販売に対応したと説明。封鎖解除後も従来の方式が主流となることに変わりはないが「オンライン販売が徐々に広がる」(同社)との見解だ。
販売・マーケティングのトップを務めるラジェシュ・ゴエル上級副社長は「自宅から車の予約できるようになった。小売りのデジタル化は便利なだけでなく、効率性も高めてくれる」と効果を見込む。
「フィジタル」モデルが有効
オンライン化の動きは業界全体に広がっている。全土封鎖で移動や販売が制限されていることに加え、封鎖の解除後も非接触型の販売に対する需要が高まると予想されるためだ。公共交通機関やシェアサービスの利用が減る一方で、自家用車の需要は増えると予測されることも追い風になりそうだ。
すでに仏ルノー、独フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ、BMW、中国の上海汽車集団傘下の英系MGモーターなど、世界的な大手がインドで同様のサービスを発表したと地元各紙は報じる。韓国・現代自動車も、オンライン販売を4月上旬から全国展開しているという。
また、英系大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)インディアは、BMW、仏グループPSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)、現代自、スウェーデンのボルボなどのメーカーは、世界的に非接触型のオンライン販売に成功していると報告した。
いつでもどこでも可能な非接触型販売は、顧客、メーカー、販売店それぞれにメリットがある。野村総合研究所(NRI)のインド法人、NRIインディアのハルシュバルダン・シャルマ氏は「非接触型の販売が正しいのは間違いない。消費者は車の購入にも他製品と同じ注意を払うようになる」とみる。
一方で「車販売が100%オンラインに移行するとは考えにくい。フィジカルとデジタルを掛け合わせた『フィジタル』なモデルなどが有効になる」とも指摘。オンラインで円滑な購入体験を保証するためには、今後も販売店が重要な役割を担うという見方を示した。(取材=NNAインド 榎田真奈)
<ミャンマー>
宅配自転車が急成長
ペダルが救う雇用と暮らし
ヤンゴン市内を走る宅配サービス会社の自転車=4月5日(NNA)
ミャンマーの最大都市ヤンゴンで、自転車で料理や食材などを宅配するアプリサービスが急伸中だ。日系を含む5社が「フロントライナー」となり、市場を開拓している。
ヤンゴンで食事の宅配サービスが登場したのは、約5年前。バイクの走行が認められていないため、宅配の手段は自転車だ。自動車が減った幹線道でペダルをこぐドライバーには、勤め先の休業で職を失った若者もいる。
日系のスタートアップ「ハイソー(Hi-So)」では、外出を控える人が急増した3月、受注件数が1月比で5割増となった。受け切れない注文を含む問い合わせの数は、3倍近くに上っている。
「これまでバブルティー(タピオカ入り茶飲料)や、誕生日ケーキを頼んでいたホワイトカラーの女性が、食事や生鮮品、加工食品などの生活必需品を注文している」(高田健太代表)。
注文者の9割はミャンマー人。今は「おやつ」ではなく、家族の生活や自分を守るための「安全」にお金を投じている。居住する外国人にとっても必須の生活手段のひとつとなり、平均単価も大幅に伸びた。
ドライバー応募が連日100人
ハイソーが抱える自転車ドライバーは、4月初め時点で70人。高田代表は「1日当たり10人を新規で雇う必要がある」と面接を続ける。感染不安による人手不足も懸念したが、フェイスブックを通じた応募者は連日100人近くに上った。
最低賃金で働く工場労働者の月収は2万円相当にも満たないが、運んだ分だけインセンティブもあるハイソーは、ひと月で多ければ4万円近くを稼げる。
日々増え続ける需要を前に、「創生期の宅配自転車サービスが、生活インフラになる大きな流れが到来している」(高田代表)と手応えを感じている。
シンガポール系配車サービス大手グラブは、「グラブフード・ミャンマー」がレストランメニューの宅配に加え、近く生活用品も取り扱う新サービスを始めると明らかにした。「経営の危機にひんしている商店のために、自転車ドライバーを約3倍に増やす」(同社)と意気込む。万が一、ドライバーが新型コロナウイルスに感染した場合に補償金を出す基金も設けた。
ヤンゴンでは、ハイソー、グラブフード、ドイツ系「フードパンダ」、地場系「ヤンゴン・ドア・トゥー・ドア 」、「フード・トゥー・ユー」の5社が事業を拡大する。生活者を支える救世主ビジネスになることはできるのか。各社は「コロナ後」も見込まれる市場の成長を追い風に、走りを加速している。(取材・写真=共同通信ヤンゴン支局 齋藤真美)