【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”
テイクオフ ─変わるアジアの接客編─
(新華社)
中国
「17番のジャージャー麺のお客さん!17番どこ!」。どんぶりを手にした女性店員が、満席のレストラン内で声を枯らしている。マイク越しに叫んでも、客の反応は薄い。
モバイル決済が広く普及している上海。昼時の前払い制の麺料理店では、レジ前の行列がみなスマートフォン片手にさくさく注文を済ませていく。出張中で現金しか手持ちがない身としては、どことなく居心地が悪い。何とか注文を終えてほっと一息……のはずだったが、右往左往する店員の配膳はスマートとはほど遠かった。客がスマホの画面に夢中で、番号がスムーズに耳に入らないことが要因のようだ。
スマートな支払いができているのだから、なにかITを駆使した配膳の方法があってもよいのではないか。昔のように店員と客が注文をめぐって大声でやり合う風景を懐かしみつつ、麺をすすった。(亀)
インドネシア
「お客様は神様です」――国民だれもがイスラム教にせよ、キリスト教にせよ、何らかの唯一神を信仰するインドネシアでは、こう言ったとしても通じない。英語のように「神」を「キング(王様)」と言い換えたり、「カスタマーはナンバーワンです」と表現したりする。
そもそも、客を本当にナンバーワンと思っているのかと疑うような接客を受けることは少なくない。客のほうもあからさまに「客だから」という態度を見せることもあまりない。
だがバイクタクシーの運転手から聞くと、事情が少し違った。運転手が配車注文を受けた場所から停車しやすい所まで少し歩いてくれと客に頼んでも、嫌がられることが多いとか。そこで出る乗客のセリフが「お客様はキングでしょ」。しかし運転手も負けてはいない。「王様はバイクタクシーになんて乗らないよ」。この切り返しがニクい。(麻)
シンガポール
日本から初めて海外に出たときは、接客サービスの「雑さ」に驚いた。これがしばらく日本国外で生活していると、だんだんと感覚がまひしてくる。こうして「適当が当たり前」と構えていた矢先、あまりに丁寧な接客に遭遇すると、なんだか恐縮してしまうものだ。
先日、携帯電話の請求書を確認していると、未利用のサービスに課金されていたことを発見した。通信会社に問い合わせると、1コールで担当の男性が出た。彼は内容を聞くと、問題の原因を即座に調べ、今後の対応について詳細に説明してくれた。話の切れ間には「疑問に思う点があればいつでも言ってほしい」と何度も念押しまでしてくれた。
やや機械的な話し方ではあったものの、想定外のスピード感と丁寧さにかなり驚いた。会社自体の印象まで一気に良くなったため、今後も同社のサービスを使い続けようと思う。(真)
オーストラリア
シャワー室内のタイルの目地が薄くなってきたので、目地をやり替えることにした。「自分は料金は高いが腕は良い」と豪語するイラン人のタイル職人から見積もりを取り、仕事への熱心さを信頼して彼に仕事を頼むことにした。
当日は時間前に到着して着々と作業を進め、無料でキッチンのゴムパッキンのやり替えまでしてくれた。昼食に自家製の寿司を出したところ感激し、こちらが日本人と知るや、「日本人は大好きだ!うそをつかないすばらしい国だ」と褒めちぎり、追加料金なしでバスルーム全部の目地をやり替えてくれた。
帰り際、「素敵な日本人女性がいれば紹介してね」と言い残して去った彼。独身の彼は料理好きと言うが、突き出たお腹を見ると健康が気がかりだ。丁寧な仕事と気前の良いサービスのお礼に、久々に仲人おばさんとして一肌脱ぐ気になっている。(桜月)