【アジア取材ノート】
米食文化のミャンマーにパン浸透
都市部でベーカリー増
コメを主食としてきたミャンマー人に、パン食が広がり始めた。軽食や贈答品として中間層に人気を呼んでおり、最大都市ヤンゴンや第2の都市マンダレーなどを中心にベーカリーが急増している。パンの単価は米飯メニューより割高だが、所得の増加に伴い市場は成長を続けそうだ。(取材・写真=共同通信ヤンゴン支局 斎藤真美)
チョコレートやクリームを使った菓子パン、ピザパンなど多彩なパンがずらりと並ぶSPベーカリー店舗=マンダレー
地場大手の「SPベーカリー」は、1960年代から創業の地であるマンダレー近郊の町モゴクで老舗ベーカリー「San Pya(ビルマ語で「理想的であること」の意味)」を営んできたが、民政移管前年の2010年に「SPベーカリー」に名を変え、本格的に事業を広げた。19年10月までに、直営店をヤンゴンやマンダレーなど全国16カ所にオープン。ティン・ティン・チョー最高経営責任者(CEO)は、この先も年4~5店舗のペースで新規店舗の開業を目指し、フランチャイズ(FC)展開も行う考えだ。
各店内には自社で製造した食パン、菓子パン、デコレーションケーキがずらりと並び、家族連れや若い女性でにぎわう。「ミャンマー人が小腹を満たすといえば、モチ米を含む米飯、モヒンガーと呼ばれる伝統的な麺料理などが中心だったが、直近の約10年でパンを食べる習慣が急速に普及した」(同CEO)。
新しいアイデアを入れた商品をどんどん出していきたいと話すティン・ティン・チョーCEO(右端)と店を訪れた若い女性たち=マンダレー
ミャンマーの一般的な食堂では、米飯メニューやモヒンガーが1食1,000~2,000チャット(約71~142円)で食べられるが、都市部のベーカリーで売られる菓子パンの大半は1個で1,000チャット以上と割高だ。そのため、朝食などで消費する日常的な購買層は富裕層に限られ、多くの消費者は、休暇や誕生日など、家族や友人と過ごす「ハレの日」にパンを求める。
ヤンゴンの店舗を訪れた主婦(48)は「家族の誕生日に親類が来るので、7人分の菓子パンを買った。パンはおいしい上、運びやすいのがいい」と話す。最も人気の商品は、箱入りのデニッシュパン「スィート・フラワー」(2,500チャット)。「非日常感」を感じたいミャンマー人の需要を意識し、小さめのホールケーキのような形状をしており、切り分けて複数人で食べられる。
ヤンゴンに新工場、生産拡大へ
マンダレーにある工場では、直営店で販売するパンのほか、コンビニエンスストアや個人の食料品店、スーパーに卸す低価格帯の別ブランド「デーリー(Daily)」の商品も生産し、北東部シャン州、カチン州、マグウェー管区などに出荷する。小麦やチョコレート、バターなどを含む原材料の使用量は年20~30%増のペースで増えており、来年にはヤンゴンにも工場を設ける計画だ。新工場の生産量はマンダレーの5倍を予定している。
国内のベーカリー市場では、SPベーカリーのほか、流通最大手の地場シティマート・ホールディングス(CMHL)や南部タニンダーリ管区発祥の「シュエ・パズン」も、自社ブランドのベーカリーチェーンを展開。外資では、シンガポールの外食大手ブレッドトーク・グループが17年、米系ドーナツチェーン「クリスピー・クリーム」が18年に市場参入した。
日本産小麦使う新店舗も
日本からは北海道産の小麦を輸入する「Hokkaido Kobo(北海道工房)」が、今年11月にヤンゴンに開業した。おかやま工房(岡山市)が運営するベーカリー開業支援「リエゾンプロジェクト」が支援している。アジアからの訪日旅行客増加などを背景に、品質の高い日本産小麦を使い、添加物を控えた日本発ベーカリーは、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内のタイやインドネシアなどで先行事例が相次ぐが、ミャンマーはこれからだ。
おかやま工房の支援を得て同店を経営する丸山建さんは「食品への安心・安全ニーズは増えるとみている。しっとり、もっちりした日本のパンのおいしさを届けたい」と話している。
日本産小麦を使ったベーカリーを開業した丸山さん(左)とグウェ・タンさん=ヤンゴン