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NEXTアジア PART2 モンゴル

日系企業にとって有望な消費市場はどこなのか。まだ知られざる国々に目を向けた特集第2弾。アジアの限界にまで視野を広げて今回も5カ国を選定。現地取材も行った。 未来的な国、スリルに満ちた国、クセ者ぞろいの市場に迫る。

現地ルポ2 大国に挟まれた草原の国、市場の「隣人」はどこか

広大な草原に覆われた国、モンゴルは、歴史や経済、文化の各面で、ロシアと中国という巨大な隣国の影響を受けてきた。消費者にとって身近なのもこの2国だろうか?日系企業の存在感は?消費市場におけるモンゴルの「隣人」を探ってみた。

NNAカンパサール編集部 大石秋太郎

90年以上の歴史誇る、ノミンデパート

目抜き通り沿いに建つノミンデパート。ノミングループが運営する商業施設はモンゴル国内に多くある

首都ウランバートルを東西に走るエンフタイバン(平和)大通りは、「チンギス・ハーン広場」などの観光スポットや高級ホテル、大学、大使館などが道路沿いに並ぶ。この目抜き通りに、モンゴルを代表する百貨店「ノミンデパート」がある。もともとは国営の百貨店で、1924年の創業。後に地場家電メーカーのノミングループが買収した。

地上6階建てで、フロアごとに衣料品や家電、土産コーナーと売り場が分かれている。家電売り場は、ソニーやサムスンの超大型液晶テレビが販売されているなど、他のアジアの国の家電コーナーと雰囲気は変わらない。衣料品も、ミズノやナイキ、リーバイス、ノースフェイスなどの国際ブランドが並んでいた。地下はスーパーになっており、輸入品を含めさまざまな食品や日用品が並ぶ。

付近にはカフェなど飲食店が多いため、外国人観光客も多い。外資系では、米ハンバーガーチェーンのバーガーキングも近くに店舗を出していた。

ウランバートルの秋葉原、テディーセンター

中古の携帯電話売り場

モンゴルの携帯電話事情を知るには、ノミンデパートから徒歩10分の所にある「テディーセンター」がお勧めだ。4階建てのビルで、1階部分は日本のKDDIも出資するモンゴルの通信最大手、モビコムの旗艦店になっている。2階から上層は、スマートフォンなどの中古品を扱う売り場がずらりと並んでおり、「ウランバートルの秋葉原」といった雰囲気だ。

のぞいてみると、米アップルの「iPhone(アイフォーン)4」(32ギガバイト)は20万ツグリク(約9,000円)で売られていた。中古の携帯がまだ主流のモンゴルでは、1階のモビコムで携帯プランを契約し、上層の中古品売り場で端末を購入するという流れができていた。

日系企業1:ヤマハ発動機、市場は草原にあり

125cc以下のバイクはいずれも中国やインドの工場で生産したものを輸入している。価格は10万円前後

ウランバートル市内で自動二輪車はほとんど見かけない。冬には気温が零下20~30度まで下がり、中古車を主とした自動車が主要な移動手段となっているためだ。そんなモンゴルで、バイクを販売するヤマハ発動機の旗艦店を訪ねた。

店はウランバートル市内のバイク販売店が立ち並ぶ大通りに面している。取り扱っているのは主に、排気量が125cc以下や200ccのバイク、四輪バギー(ATV)などのオフロード用製品。最も多く売れているのは125cc以下のバイクで、主に遊牧民が郊外で乗るという。ATVは購入者のほとんどが企業の社長など富裕層だ。

ヤマハ発動機は2007年から現地の特約店と組んで自動二輪車を販売するようになった。ヤマハ発動機によると、モンゴルの自動二輪車の総需要は4万5,000~5万台。ほとんどが草原に囲まれた郊外での需要だ。市場シェアはヤマハ発動機が数%ほどで、多くは中国メーカー製のバイクが占めている。

ヤマハのバイクは、テレビCMの放送や公用車への採用が奏功し、ブランドの知名度が高まっている。中国メーカー製に比べて頑丈なため、品質への評価も良い。ただ、値段が高く、多くの消費者はなかなか手が出ないという。

ヤマハ発動機・海外市場開拓事業部の山田利治さんは、「景気が良くなれば、良い物を買いたくなる傾向は必ずある。日本のバイクが売れるようになる時期に備え、きちんと市場をケアしていきたい」と話す。

現在、ヤマハ発動機はウランバートルのほか、モンゴル国内4カ所のディーラーでバイクを販売している。冬はほとんど誰もバイクに乗らず、販売店も営業を止めてしまうが、オフシーズンでもパーツのメンテナンスなどを行い、いかに仕事を回していくかが課題という。

日系企業2:ロート製薬、ほぼゼロから市場開拓

主力の「Vロート」は1万ツグリク(約500円)。製品はベトナム製で、英語のパッケージにモンゴル語の広告を付けたものが売られている

日本国内の一般向け目薬でトップシェアを誇るロート製薬は、初のアジア拠点設立が1991年の中国と、早い時期から積極的に海外展開を進めている。モンゴルでは、2012年に代理店を通じて目薬の販売を開始した。それまでもロートの製品が並行輸入品として日本の2〜3倍の価格で売られていたことから、商機があると踏んだ。

経営企画本部でモンゴル事業を担当する西原瑠美さんによると、欧州メーカーの製品も出回っていたが、本格的に広告を打っている企業はなかったため、ロートはテレビCMや路線バスでのラッピング、交流サイト(SNS)などでの広告に力を入れた。

モンゴルに限らず海外では目薬は目に疾患がある時に使うイメージが強いが、ロートは疲れ目の時にさすという使い方をPR。これによって、目薬を使う習慣がほぼ無かったモンゴル市場を着実に開拓していった。現在はモンゴル国内の全ての薬局で主力の「Vロート」を販売しているほか、子供向け成長促進飲料の「セノビック」やニキビケア製品「アクネス」なども扱っている。

日系企業3:キャンドゥ、日本テイスト前面に

北部の都市ダルハンの商業施設内に入居するキャンドゥの店舗

日本の日用品の販売で存在感を示していたのが、2015年12月にウランバートルで海外1号店をオープンした百円ショップのキャンドゥだ。店舗は明るくきれいで、日本の店舗と同じものがずらりと販売されている。

値段は3,499ツグリク(約160円)均一。卵のゆで具合を色で測れる「エッグタイマー」などアイデア商品も多く扱われていた。また、来客時に「いらっしゃいませ」と店員が元気よくあいさつするほか、店内BGMに日本のポップを流すなど、日本的なサービスを売りにしているようだった。キャンドゥは16年12月時点でモンゴル国内に6店を出している。

日本の商品は高品質というイメージはモンゴルにもある。モンゴルと日本の外交関係は良好で、相撲を通じた民間の交流も多いため、日本の商品を受け入れる基盤がありそうだ。

「隣人」の存在感

モンゴルは、ロシアと中国という2つの大国への過度な依存を避けるため、日本や韓国といった先進諸国を「第三の隣人」と位置付け、関係強化を図っている。実際に市場を歩いてみて、モンゴルの消費者に身近な隣人を探ってみた。

生活レベルで韓流

具材を載せただけのインスタントラーメンなど手頃な価格のものもあり、学生でも気軽に利用できる

ウランバートルの街は至るところに韓国料理店があり、韓流アイドルの写真を掲げた美容室も多い。スーパーのインスタント麺売り場に並ぶのはほぼ全てが韓国メーカー品だ。このように、韓国のモノや文化はモンゴル人にとって、とても身近な存在となっている。

社会主義国だったモンゴルが初めて外交を結んだ東アジアの資本主義国家が韓国で、官民ともに交流が活発なためだ。モンゴルの各家庭には、韓国で生活したり働いたりしたことがある親族が必ずいるとまで言われる。

ロシアのモノもあちこちに

スーパーで売られていた韓国メーカーのインスタント麺。ロシアからの輸入品で、表記はロシア語

写真は、スーパーで売られていた韓国メーカーのインスタント麺。モンゴル語と同じキリル文字が書かれているが、実はロシア語で、ロシアからの輸入品。モンゴルは社会主義時代にソ連から支援を受けていた背景から、一定の年齢以上のモンゴル人にはロシア語を理解する人も多い。

複雑な対中感情

本来、遊牧民であるモンゴル民族は農耕を行わなかった。このため、現在のモンゴル料理のうち小麦粉を使ったものには、ボーズ(ギョーザ)やホーショール(揚げまんじゅう)、マントウ(蒸しまんじゅう)など、中国文化の影響を受けたものが多い。しかし、清朝による支配や、社会主義時代の対立などの歴史的経緯から、モンゴル人の対中感情は複雑だ。このため、輸出額の9割を中国向けが占めるなど経済面での依存度は大きいものの、中国ブランドの訴求力はあまり強くないようだ。

消費者宅を訪問

バタガーさんたちが住むマンションは日本で言う2LDK。1平方メートル当たり150万ツグリクで購入したという。ローンは月30万ツグリクを払い、水と暖房費用は冬に月17万ツグリクかかる

ウランバートルに住むモンゴル人の生活の様子を知るため、市内のマンションに住むバタガーさん一家を訪ねてみた。バタガーさんが会計関連の会社を経営し、妻のゾローさんが企業で働く夫婦共働きで、モンゴルではアッパーミドルクラスだそうだ。室内を見渡すと日本と韓国の製品が多い。「白物は日本、液晶テレビは韓国のものが良いというイメージがある」(バタガーさん)。

知っている日本企業を挙げてもらうと、「コマツ、日産、トヨタ─」と自動車メーカーが目立った。バタガーさんは料理が趣味だが、日本食については「健康的なイメージがあるが、あまり知らない」とのこと。モンゴル料理以外では韓国料理が身近らしく、韓国で代表的な牛肉だしの調味料「ダシダ」を常備しているほか、キムチも家庭で漬けていた。

  • バタガーさん一家

  • 世帯構成:夫・バタガーさん(36歳)、妻・ゾローさん(35歳)、長男(13歳)、長女(3歳)、次女(1歳)
  • 出身:夫婦ともにウランバートル
  • 世帯収入:月約150万ツグリク(約7万円)
  • 将来の夢:夫婦とも「郊外の草原に持つ土地に戸建てを建てること」

モンゴルの進出魅力度

評価:B

政府開発援助(ODA)による支援や相撲などを通じ、モンゴル人の日本に対する印象は良さそうだ。その一方で日用の消費財の分野では日本製品を目にすることがまだ少なく、市場の開拓の余地は大きい。日本の製品を代理店として販売したい現地企業も多いという。市場は小さいが、ライバルが少ない今はチャンスかもしれない。現在の経済状況は厳しいものの、資源開発による今後の発展で消費者の購買力に伸びしろもある。(NNA カンパサール編集部 大石秋太郎)

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