切削、穴開け、曲げ、溶接、プレス、研磨、めっき、組み立て、設計──
ものづくりに関わるさまざまな技術力を持った製造業4,200社が集積する東京都大田区。
現代のグローバル化したものづくり時代にあっても、その創意工夫と高い技術で縁の下の力持ちとして存在感を示し続けている。
成長するアジアでの高度なものづくりを支え、アジア市場に挑む大田区企業の活躍を追った。
日本の製造業をリードしてきたと言ってもいい大田区のものづくり。「東京都内である大田区は地価などが高く、ものづくりの操業コストは比較的高い。にもかかわらず、4,200社の製造業が活躍できているのには、付加価値の高い技術力が背景の一つ」と、大田区産業振興協会のものづくり連携コーディネーターは指摘する。大手企業が求める厳格なものづくりにずっと応えてきたため、家電から自動車、航空宇宙、医療分野などの高度技術分野でも世界が驚くほど、高品質で精巧な部品を作り出すDNAがある。
小ロットの試作品のように、何らかのものづくりを実現したい発注者は、まず窓口である大田区産業振興協会に相談する。4,200社それぞれの社長や技術者らの顔だけでなく、工場の導入設備や手持ちの受注状況などを知っているコーディネーターらが、そのような加工はどの工場が最適かを判断して打診する。大田区では「仲間まわし」と呼ばれる、専門技術を区内企業が相互に活用して分業で製品を完成させるものづくりの高度な連携体制が機能しており、案件によっては複数の企業が連携して受託する。発注者からの依頼は、年間およそ1,000件に上る。
低価格競争が激化していた中国でも、中間層の増加とともに、高品質な商品への需要が高まり、産業の高度化が進みつつある。日本全国はもとより、海外にも出向いて大田区企業の売り込みに邁進している同協会海外取引相談員によると、中国の技術者が「日本製は価格が高いのは知っているけれど、高い品質が求められる基幹部品だから」と言い、これまで受注を奪っていた韓国製や中国製などから日本製に戻す動きも一部で出てきているという。大田区の高度なものづくりのDNAが国内外で求められるという第2波が来ているとも強調する。
大田区からは中国やタイを中心に200社以上が海外進出し、工場を構えるなどしている。「海外の日系企業からサプライヤーはできれば日系企業にしたいという引き合いも増えています。また昔は日本で製品開発して海外で生産する流れだったが、近年は現地で開発する動きが加速している。試作で悩んでいるなら気軽に問い合わせて欲しい。大田区企業が応えます」とものづくり連携コーディネーターは呼びかけた。