2025年7月4日
日本企業のアジア進出支援を加速 PwC Intelligence、日本と海外のハブに

PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)のシンクタンク部門「PwC Intelligence」が、日本企業のアジア進出支援に向けて動きを加速させている。今年4月に新著『世界の「分断」から考える 日本企業 変貌するアジアでの役割と挑戦』を上梓。6月4日にはシンガポール湾岸部のオフィスビルで、現地に進出している日本企業を対象にパネルディスカッションイベントを開催した。新著とイベントを通じ、アジアで期待される日本企業の役割やあり方を大局的に示し、日本企業がアジアで成長するには現地企業との協力が不可欠と訴えている。PwC Intelligenceは今後、アジアや世界に進出する日本企業と現地企業を結ぶハブ(結節点)として、日本企業を積極的にサポートしていく考えだ。

 PwC Intelligenceは、2022年10月に設立。マクロ経済、サステナビリティ(持続可能性)、地政学、サイバーセキュリティ、テクノロジーに関する専門家が専従メンバーとして所属し、調査・研究活動を行うほか、外部の専門家・有識者とも提携している専門家集団だ。

 専従メンバーは、内・外部の専門家らと意見や情報を交換しながら、担当分野の調査・研究レポートを執筆している。世界動向に関する週次レポートや、テーマを深掘りした月次レポートなどを年間約200本発行。メディアへの出演、寄稿、学会発表などの活動も積極的に取り組んでおり、年間150件ほど携わっている。

 グローバルに展開しているPwCだが、現時点で同様の組織があるのは日本と米国の2拠点だけだ。米国では、コンサルティング業務向けの調査、資料作成などの内部支援業務が柱となっている。一方、内・外部の専門家らと連携した調査・研究を行い、外部にも情報を発信しているのは日本発の手法だ。こうした取り組みの基盤には、日本のPwC Intelligenceが提唱する「統合知」という考え方がある。

専門分野を横串でつなぐ「統合知」

インタビューに応える片岡剛士チーフエコノミスト(NNA撮影)

インタビューに応える片岡剛士チーフエコノミスト(NNA撮影)

 他のコンサルティング会社でもシンクタンク機能や組織を持つ企業はある。ただ多くの場合、企業属性の調査や背景データのまとめといった支援業務が主となっていること多い。一方PwC Intelligenceは、統合知に基づくインテリジェンスの提供を通じ、課題解決に悩む企業に貢献することを目的に設立された。

 昨今、企業経営を取り巻く環境が大きく変化しており、将来の見通しだけでなく現状についても不明瞭になっている。PwC Intelligence チーフエコノミストの片岡剛士氏は「先行きの予測しがたさというのは、経済や環境、テクノロジーなど社会を支えている土台が高度化かつ複雑化し、さらにはいろいろな要素がからみ合っていることから生まれている」と説明。

 こうした状況下では、経済や環境など特定の分野、または自動車会社であれば自動車産業だけを調査してもソリューションは得られず、さまざまな専門知識のかけ合わせが必要になるという。

「統合知」の時代

 このような考えに基づき、PwC Intelligenceは個々の専門知識を統合し、質の高い知識・見識(インテリジェンス)を生み出しており、これを統合知と呼んでいる。

 統合知は、日本のPwC Intelligence立ち上げ当初から活動の基礎となっている。片岡氏は、「総合研究所やシンクタンクは、いろいろな専門性を持った人が集まって一つのソリューションを生み出していくのが本筋で、これを体現するのがPwC Intelligenceのミッションだ」と説明。「産業をまたいだ形で、社会・政治情勢を含め産業構造がどのように変わっていくのかという海図(=青写真)がないと、個社の経営の先行きが読めない時代になってきている。PwC Intelligenceは、その海図をさまざまな知恵、知見を通じて作り、クライアントに提供している」と付け加えた。

 なお、統合知については、『経営に新たな視点をもたらす「統合知」の時代』を参照されたい。

日本は「課題解決先進国」に

日本企業変貌するアジアでの役割と挑戦

 PwC Intelligenceは、近著『世界の「分断」から考える 日本企業 変貌するアジアでの役割と挑戦』の上梓を機に、6月4日にシンガポールで、海外では初となる「アジアビジネスフォーラム―変貌するアジアの潮流と日本企業の挑戦―」と題したパネルディスカッションイベントを開催した。

 同イベントには、現地に展開する日本企業100社超から150人以上が参加。同テーマに対する日本企業の関心の高さがうかがえた。

 PwC Japanグループ久保田正崇代表による基調講演のほか、PwCコンサルティングのコンサルタントやエコノミスト、駐シンガポール日本国特命全権大使の石川浩司氏、日本貿易振興機構(ジェトロ)シンガポール事務所エグゼクティブディレクターの石川浩氏、大手日本企業2社の現地駐在員らがパネリストとして参加した。

久保田正崇代表による基調講演(PwC提供)

久保田正崇代表による基調講演(PwC提供)

 またEnterprise Singapore(シンガポール企業庁)マネージングディレクターCindy Khoo 氏やPwC SingaporeエグゼクティブチェアマンのMarcus Lam氏も登壇するなど、日本とシンガポールの双方の視点からの議論を重視した構成となった。同著書やイベントを通じて強調されているのは、日本企業が「アジアの多様性」を理解する必要性だ。

 また、中国やインドが経済大国として台頭し、日本は他のアジア諸国・地域との間でも相対的に経済的な差が縮小している。域内のパワーバランスが大きく変わりつつある中、日本は成熟した国として、アジアをはじめとする世界各国・地域とオープンマインドで協力することで、独自の強みを今後も発揮し続けることができると主張している。

パネルディスカッションの様子(PwC提供)

パネルディスカッションの様子(PwC提供)

 さらに、日本は「課題先進国」という側面があると指摘。例えば少子高齢化や労働力不足といった課題は、いずれ他のアジア諸国でも起きる問題だ。この点について、PwC Intelligenceは、「ピンチはチャンスでもあると捉えるべき」と主張。チャンスとするためにはまず、日本は他のアジア諸国・地域に先駆け、そうした課題を社会システムの再構築や新たなアイデア、テクノロジーの導入で解決し、「課題解決先進国」とならなければならない。さらに、日本の課題解決能力をアジアで十分に発揮してビジネスチャンスにつなげるためには、アジア諸国・地域との協同が不可欠だと訴えている。

 イベント終了後、参加者からは「日本企業のこれからのあるべき姿や課題についてクリアになった」「最初に大局観を示し、最後にはテクノロジーをどのように実装して世の中に役立てていくのか、そこに向けて企業がどうアプローチするのか、といったストーリーが分かりやすかった」といった感想が聞かれた。

クライアントとともに成長

 PwC Intelligenceは、東南アジアのほかインド、アフリカなどで新たに市場を開拓・拡大しようとする日本企業の活動を支援し、事業機会を生み出す一助になろうとしている。 今回のイベントも、そうした日本企業を後押しする活動の一環で、将来的には同様のイベントを他のアジア諸国・地域で開催していきたいと考えている。イベントなどを通じて企業の問題意識を掘り下げ、クライアントとともに成長したいという思いが根底にある。

イベント終了後のインタビューの様子(NNA撮影)

イベント終了後のインタビューの様子(NNA撮影)

 日本企業の将来像や戦略の構築に資する話を、アジアに限らずグローバルレベルで体系的に伝えることも重要だ。「今後、テクノロジーの位置づけはどうなるか」「その前提条件となる規制はどのようなものがあるか」「国・地域間の争いや競合状況などをどのように読み解くか」といったインサイトを蓄積し、いかに大きな「海図」を正しく描くことができるかという点について、今後も追究し続ける。

 片岡氏は、「海外で活動する日本企業が抱えている悩みや問題意識は多様だ。個々の国・地域には、それぞれ異なる側面がある。我々がクライアントの進むべき方向性を示す海図の解像度を上げるお手伝いをすることで、各社の事業発展に貢献していける」と述べた。

 また海外の日本企業向けに、日本から見たアジアの動向を専門家がリアルタイムに伝えることには一定のニーズがあるという。足元では先行きが見通しづらい状況が続いており、信頼できる専門家によるセカンドオピニオンは貴重だ。片岡氏は、「企業目線でこうした質の高い情報を提供できるのは、日本ではPwC Intelligenceだけではないか」と自信を示した。

 PwC Intelligenceは、この先もアジア地域には日本企業が活躍する場が多くあると考えている。そして、日本企業が他のアジア企業と協力して事業を推進する際のハブとして、きめ細かくサポートしていきたいという強い思いがある。

インタビューに参加したPwCコンサルティングのメンバー(NNA撮影)









インタビューに参加したPwCコンサルティングのメンバー(NNA撮影)
インタビュー参加者(左から)
PwCコンサルティング合同会社 PwC Intelligence マネージャーの相川高信氏
シニアエコノミストの薗田直孝氏
上席執行役員 チーフエコノミスト パートナーの片岡剛士氏
シニアマネージャーの岡野陽二氏
マネージャーの柳川素子氏
執行役員パートナー Technology Laboratory所長の三治信一朗氏


PwC Intelligence
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