2023年6月28日
日系企業を積極誘致 中国・東莞市 ビジネス環境の発展

かつて世界の工場と呼ばれた中国・広東省の東莞市は、この十数年の間に電子産業や新エネルギーなどグローバルな先進的製造業の都へと変貌を遂げた。外資系企業は1万3,000社近くに上り、日系企業も400社ほど進出している。同省の珠江デルタ域内9都市と香港・マカオの融合発展を目指し、中国が国を挙げて進める世界的ベイエリア構築プロジェクト「粤港澳大湾区」の地理的中心でもあり、今後さらなる成長が見込まれる。同市では先ごろ、約3年半ぶりの訪日活動として「中国(東莞)-日本(東京)経済貿易合作交流会」を開催。投資先としてのメリットや日系企業による投資体験談を紹介すると、来場者は真剣に話に聞き入っていた。

「30分で部品調達が可能」立地と強固な産業チェーンが強み

東莞市周辺地図

 まず東莞市について簡単に紹介しておく。広東省の中南部、深セン市と広州市の間に位置し、面積は神奈川県と同程度。1970年代末より中国の改革開放の先行地として発展してきた。近年はスマートフォン(スマホ)分野の成長が目覚ましく、世界のスマホのおよそ5台に1台は東莞市から出荷されているほど。高い技術力をもつ労働者も多い。

 投資先としての大きな魅力は、強固な産業チェーンだ。世界最大の電子部品市場といわれる深セン市をはじめ、四方八方に高速道路が通じており、30分~1時間程度でほとんどの部品が調達可能。1時間以内に広州・深セン・香港の3つの国際空港へもアクセスできる立地のため、輸出と中国国内市場を同時に開拓しやすいメリットもある。政府主導で外資系企業が低コストで利用できる開発区の整備も進んでおり、最近は不動産価格の高騰を理由に生産基地を深セン市から東莞市へ移す企業も少なくない。

 中国の調査機関・新一線城市研究所が毎年発表する都市の商業的魅力度ランキングでは、東莞市は2017年から7年連続で「新一線都市」にランク付けされており、上海、北京、広州などの「一線都市」に次ぐ都市としての発展ポテンシャルがあると高評価だ。都市レベルは一線だが、生活コストは二線都市レベルで済む。製造業の街でありながら、国連からは国際ガーデン都市と認定され、緑や水も豊か。日系企業がたくさんあるため、親日家も多い。平均年齢が34歳と若く、街は活気に満ちている。

東莞市の産業「日本と親和性高い」

東莞市人民政府の呂成蹊市長(東莞市駐日連絡事務所提供)

 6日中旬に東京都内で行われた交流会では東莞市人民政府の呂成蹊市長が、最新の産業投資環境を説明した。日系企業の東莞市への投資額は累計54.4億米ドル(約7,718億円)に上り、外資では第3位。

 同市ではビジネス環境の市場化・法治化・国際化に力を入れているという。企業数は160万社を超え、治安の良さや知的財産保護への取り組みは中国トップクラス。23年4月には、東莞市と香港国際空港を結ぶ海空複合輸送プロジェクト「東莞・香港国際空港センター」の運用を開始。香港を経由して製品を輸出する際の検査・通関手続きを東莞市側で一括して行えるようになった。これにより、従来よりも物流のコストが30%、時間は20%の削減を実現している。

 呂市長は「東莞市の産業は日本の製造業と親和性が高い」とし、具体的に5つの産業を挙げた。1つ目はスマートフォンに代表される電子情報産業、2つ目はハイエンド設備製造業だ。新エネルギー産業も振興しており、今後は「自動車製造と水素エネルギー関連企業を積極的に誘致したい」と意欲を見せた。自動車製造に関しては、リチウムイオン電池の生産額が全国2位であり、外国船も立ち寄ることのできる東莞港と新沙港の一類港(主要な港湾。規模や立地により一類港、二類港などと区分される)があることから、国際貿易や物流の面からも優位性がある。

 水素エネルギーに関しては、国家水素エネルギーモデル都市群の重点都市であり、水素生産から水素ステーションの建設運営までの産業チェーンを保有しているのが強みだ。このほか長年にわたって発展を続ける集積回路(IC)産業、ハイエンド鋼材や高性能複合材料といった新素材産業も勢いがある。また、今後3年間で修士以上のイノベーション人材を6万人育成する計画で、「先進製造に適した人材支援も強化していく」(呂市長)という。

ビジネス環境は優秀、政府の支援策も充実

太陽誘電の増山津二副社長(東莞市駐日連絡事務所提供)

 続いて、東莞市に進出した太陽誘電株式会社の副社長・増山津二氏が、投資経験を伝えた。同社は1950年に創業し、コンデンサーやインダクター(コイル)といった電子部品の研究開発、製造、販売を手掛けている。94年に同市の石碣鎮(せっきちん)に設立した東莞工場は、グループの主力商品である積層セラミックコンデンサーを製造する主力工場の1つへと成長し、いまや従業員は約3,500人に上る。

 増山氏は東莞市のビジネス環境について「とても優れている」と高く評価。「企業の発展ニーズを満たし、公正な市場環境が作られ、市場の活力と社会の創造力をより大きく引き出せる環境だ」と話した。近年、同市は「科学技術イノベーション」と「先進製造」を組み合わせた都市作りに特に注力し、発展を加速させている。

 同社の東莞工場は、市政府より「生産拡大重大項目」に認定され、投資拡大が奨励されている。2022年7月から25年6月までの3年間が対象で、主に製造現場の改善に投資する計画だ。先進設備を導入して製造工程の自動化を進め、工場のスマート化を推進するほか、環境設備・消防設備・インフラ施設なども整備する。昨年はVOC(揮発性有機化合物)対策のための設備改造も実施した。

 中国政府も進出企業に好意的だ。同社が排気対策、騒音低減など環境保護や消防安全対策を実施した際には大きな支援があったという。また「コロナ禍では、政府の協力で輸出入の円滑化や工場の操業再開もいち早く行うことができた」(増山氏)とも語り、支援体制が手厚い点も強調した。

交流会が東莞市への投資に目を向ける好機に

講演に耳を傾ける参加者たち(東莞市駐日連絡事務所提供)

交流をする市長(右)(東莞市駐日連絡事務所提供)

 交流会では講演のほかに、東莞市の重点園区である松山湖高新区と濱海湾新区を紹介する動画を上映するなど、東莞市の特長を広く紹介。今回、日本側からは来賓15名を含む71名が参加。中国側からは政府関係者と来賓が計14名来日し、閉会後は名刺交換や談笑をしながら交流を深める姿が見られた。東莞市は日本国内に駐日連絡事務所を設けており、投資に関する相談もしやすい。参加者にとっては東莞市への投資を考え、協力し合える可能性を探る好機になったようだ。



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