2022年3月

広東省といえばGDPが数年連続で中国全国の首位に立っており、言わずもがなの中国経済成長への貢献が大きな地域だが、東レ(東京都中央区)は2017年、広東省佛山市南海区に新たな製造拠点を設立した。外資の中でも日系企業の誘致に力を入れる地元南海区の支援を全面的に受けた形だ。南海区は04年、企業進出をサポートする「投資促進局」を創設。以後、自動車関連企業を中心に日系企業約125社がこの地域に集結している。広州や香港に近いという立地で、中国国内の総合実力上位100区ランキングで8年連続の2位を誇る南海区。東レの専務執行役員、在中国東レ代表、東麗(中国)投資有限公司の董事長兼総経理を務める首藤和彦氏に南海区進出の経緯や狙いを聞いた。

——東レは1994年以降、中国国内に40社近い子会社を設立している。2017年に「東麗高新聚化(佛山)有限公司」、19年に「東麗膜科技(佛山)有限公司」(共に南海区)を新たにつくった狙いは。

首藤董事長

首藤董事長(同社提供)

 東レの中国での本格的な事業展開は、1994年に(上海に近い)江蘇省・南通に一貫型の生産拠点を設置したことから始まる。現在は100万平方メートルの土地に5社が事業を展開している。衛生素材であるPPスパンボンド(不織布の1つ)も南通で生産しているが、今後の中国での事業拡大を考えたとき、南通に次ぐ第2の拠点となる場所を探し始めた。

 そのような中、南海区を紹介してもらった。南海区は10年ぐらいかけて衛生材関係のメーカーを誘致してクラスター(集団)を形成。その中には東レの取引先も多く存在した。南海区は行政のレベルが高く、(南海区の関係者が)16年に来日した際の印象も大変よかった。コスト面だけをいえばもっと有利な候補地はあったものの、立地・行政を含めたいろいろなサービスの充実ぶりや、多くの事業を1カ所に集約できる点などから南海区を選んだ。

——他の地域と比較したときの南海区の特徴は何か。

 中国は「北」へ行くほど政治色が強く、「南」に行くほど経済感覚が高い。「南」は、香港をベースに中国の中でいち早く経済が発展したからであろう。従って経済に関する知識、経験値を(地元)政府の人たちは持っている。東レとしては、南海区で、人と人との信頼関係を築けたことが大きかった。企業を支援するという意識も高い。

 南海区は交通・輸送の利便性に恵まれ、インフラもよく整備されている。また、伝統産業に加え、生物製薬・新エネルギー車製造といった新興産業も盛んで外資優遇策がある。衛生用品産業のクラスターが形成されていることから、関連市場と技術情報の入手や、専門性の高い人材が確保しやすい。さらに、経営環境の変化に柔軟に対応していくことができるなどのメリットがある。

東麗高新聚化(佛山)有限公司 外観
東麗高新聚化(佛山)有限公司 鳥瞰図

東麗高新聚化(佛山)有限公司(同社提供)

——南海区は誘致に当たってさまざまな支援策を打ち出している。実際に最も有効だった支援は何だったか。

 トータルとしての設備投資額をどこまでミニマイズ(最小化)して競争力を高められるかということは当然、意識する。補助金や奨励金があるのは大きい。ただそれ以外にも、工場を建てていくに当たっての許認可や契約など、さまざまな問題があり、これが煩雑だ。生産拠点設立の場合、土地を長期使用契約して事業を行う必要があり、当局としっかり交渉しなくてはいけない。

 このような事柄についても手続き面などのサポートがあった。建設材料の不足に対する側面支援や人材支援だ。南海区全体の支援はスピーディーかつ厚く、最大限のサポートがあった。具体的には、19年に設立した水処理膜プロジェクトでは、建築材料不足・労働者確保・日本技術者の入国などの問題を迅速に解決することができ、計画通りに20年3月から建設を開始した。

東麗膜科技(佛山)有限公司 外観
東麗膜科技(佛山)有限公司 鳥瞰図

東麗膜科技(佛山)有限公司(同社提供)

——法令面では日本と違った難しさが存在するが、どのように対応しているのか。

 時代の変化に応じて、中国の法規制は常に改定される。日本と比べるとその変化のスピードは速い。いち早く法規制の内容を把握し、それに対してアクションを取ることが必要だが、中国の場合は法の運用が地方によって微妙に異なる。また、運用細則が定められていないものもあり、対応に苦労することが多い。そのようなとき、われわれが当局に聞きに行けば、答えてくれるというサービスがある。南海区の場合はあちらからアプローチしてくれるのでありがたい。窓口が一本化されているのも非常に助かっている。

——現地での採用・人材確保で苦労することは。

 中国全体において、人材確保は年々難しくなってきている。地方の都市化が進み、サービス産業などが育ってきている。そうすると、わざわざ沿岸地域の都市に来なくても働く場所がある。現在は、日勤・シフトの工場作業員の確保が難しい状況にある。春節前後での退職者も多く、春節後の稼働がなかなか安定しない。中長期にわたり勤務してくれる優秀な人材を確保したい。学生や中途採用者に対して、当局から東レについて案内してもらうなどの働きかけがあるとありがたい。人材確保についても南海区と密に協力していきたい。政府が福利厚生施設(主に社員寮)などの生活改善策を計画しており、そのような取り組みが地方から働きに出てくる人のインセンティブになればと、早期の着手を期待している。

工場見学写真(首藤董事長が説明中)

工場見学写真、首藤董事長が説明中(同社提供)

水処理膜工場の初出荷式の集合写真

水処理膜工場の初出荷式の集合写真(同社提供)

——総合実力ランキング上位に入る南海区だが、日本からの赴任者が生活する場所としての住み心地はどうか。

 南海区には現在、日本からの社員5人と韓国からの社員7人が住んでいる。南海区は佛山市の市街地にあり、かなり都会だ。駐在員が住んでいる場所もよい立地で、食事を含めた環境はよい。1人を除き全員が単身者。コロナ禍以前は南海区が定期的に日系企業を集める日商友誼(ゆうぎ)会(懇親会やゴルフコンペなどのイベント)を開催し、東レ佛山駐在の社員も参加していた。日本料理店はあり、広東料理もあっさりとしていて日本人に合うようだ。また、佛山の人は非常に親切で、物価も比較的安く、住みやすい都市だといえる。

——南海区への進出後の実績は。

 法人設立から現在まで、事業プロジェクトの全てが当初の計画通りに進んでいる。こうした経済環境、政府支援が継続的・安定的に提供されることが、事業を中長期的視点で発展させていく上で重要だと考えている。

 20年は新型コロナウイルスの感染拡大が社会・経済に大きな打撃を与えたが、中国の「ゼロコロナ政策」徹底を背景とした強い行動制限の下、市・区政府からいろいろな支援を得たことで、遅延せずに事業を立ち上げられた。

 不織布プロジェクトは18年3月に着工、19年9月に生産開始し、コロナ禍が確認された20年初めも、影響を受けず稼働することができた。20年のPPスパンボンド(不織布)業績は計画を上回る増益という結果だった。もう1社が手掛ける水処理膜プロジェクトは20年3月に着工。21年はコロナウイルスの変異株感染が拡大する中でも、工場整備が順調に進んだ。21年12月に生産開始で、22年1月に製品を初出荷した。

——20年に「中華人民共和国外商投資法」が施行された。今後、中国でのビジネス環境の変化をどうみているのか。

 外商投資法が施行され、外資企業に対する規制緩和の動きが加速している。これまで以上に自由で、透明なビジネス環境がもたらされているようだ。一方、外資導入の自由化に伴って競争が一層激しくなり、一部の外資系企業は優位性が縮小していくことも予想される。市場を勝ち抜くには、設備投資の効果発現と、中国ニーズに基づく差別化した商品の研究・開発強化がますます重要になってくる。30年近く中国各地に根ざしている東レの拠点は、これからも政府当局と積極的な対話を図ることで、中国経済環境の変化に合わせながら、事業の高度化に向けた高付加価値品の開発を核として、新規ビジネスの開拓を進め、さらなるビジネス拡大を目指す。

——あらためて、南海区進出を振り返っての感想は。

 ここ数年、広東省および南海区は著しい発展を遂げ、産業・交通・社会インフラも大きく変化した。その中で、中国政府側が企業の事情・立場を理解し、その時々に合わせた良いサービスを提供してきてくれた。非常に恵まれた環境の中で、事業を拡大できたと実感しており、中国政府・南海区の当局関係者にお礼を申し上げる。


企業プロフィール

東麗(中国)投資有限公司

上海市静安区南京西路1601号越洋広場8F
設立時期:2002年7月
社員  :33人(日本からの駐在員 14人)

東麗高新聚化(佛山)有限公司

広東省佛山市南海区九江鎮九江大道領航路6号
設立時期:2017年11月
社員  :70人(韓国からの駐在員 7人)
主力商品:高機能ポリプロピレン長繊維不織布(PPスパンボンド)の生産・販売

東麗膜科技(佛山)有限公司

広東省佛山市南海区九江鎮九江大道騰飛路1号
設立時期:2019年6月
社員  :116人(日本からの駐在員 4人)
主力商品:水処理膜製品(RO、NF、UF、MBR)の製造・販売

     (2022年3月現在)

南海区への進出に関するご相談はこちらにお問い合わせください

佛山市南海区投資促進局

日系企業フォロー担当 梁 素鳳(日本語可)
TEL:+86-159-2070-4541 E-mail:liangsufeng1224@yahoo.co.jp
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