2022年3月30日

クレジットカード大手のJCB(東京都港区)が、成長する東南アジア諸国連合(ASEAN)での事業を加速している。今年1月にはマレーシアのフィンテック企業に投資し、クレジットカードとスマートフォン向けの先進テクノロジーを組み合わせたサービス展開に踏み出した。同社ASEAN営業部長の片野裕之氏に、JCBのASEAN事業の狙いと今後の目標を聞いた。

アプリでJCBの非接触決済を実現

「成長するASEANの中でJCBの存在感を高めたい」と語るJCBの片野裕之ASEAN営業部長(同社提供)

「成長するASEANの中でJCBの存在感を高めたい」と語るJCBの片野裕之ASEAN営業部長(同社提供)

――JCBはこの度、マレーシアのフィンテック企業に投資しましたが、狙いは何でしょうか?

片野氏 ASEANの新規ビジネスの一つとしてマレーシアのフィンテック企業であるSoft Space(ソフトスペース)社へ投資しました。スマートフォンを非接触決済端末として利用できるようにするアプリ「Tap on Mobile(タップ・オン・モバイル)」サービスを提供する企業で、JCBは約500万米ドル(約5億7,000万円)を出資するとともに、マレーシアでのJCBカード発行および加盟店獲得業務に関するライセンスを付与しています。

 Soft Space社は2012年の創業です。独自開発した金融関連のソリューションは、10カ国の30以上の金融機関に導入されています。JCBは20年4月にソフトスペースと提携し、スマートフォンを非接触決済端末として利用する「タップ・オン・モバイル」の実証実験を開始していました。

――Soft Space社との資本・業務提携を通じてどんな展開が期待できますか?

片野氏 短期的なアクションとしては、Soft Space社が提供しているアプリ「タップ・オン・モバイル」を活用することで、JCBの既存のクレジットカード事業との連携ができるようになります。マレーシアは若者からお年寄りまでが必ずといっていいほど持っているスマホ社会です。消費者はスマホにアプリを入れるだけでJCBの非接触決済が利用できるほか、Soft Space社の各種マーケティングサービスが受けられるようになります。スマホを通じた消費活動などがよりスムーズになることが期待できます。

JCBは今年1月、マレーシアのフィンテック企業Soft Space社に約500万米ドルを出資した(写真はオンラインで開いた調印式の様子、同社提供)

JCBは今年1月、マレーシアのフィンテック企業Soft Space社に約500万米ドルを出資した(写真はオンラインで開いた調印式の様子、同社提供)

――JCBは日本でのクレジットカードのパイオニアですが、古くから世界展開もしています。

片野氏 はいそうです。JCBは1961年に創立し1981年から海外展開し、国際カードブランドを運営する日本で唯一の企業として世界を舞台にさまざまな事業を展開しています。

 世界中でJCBカードを利用できる加盟店ネットワークを広げるとともに、国内外のパートナーとJCBカードの発行を拡大しており、現在JCBカードはアジア地域を中心に1億4,000万人以上の会員に利用していただいています。

自由に動き、新しい発想で考える

ASEAN各地ではスマホによる決済が急速に普及している

ASEAN各地ではスマホによる決済が急速に普及している

――JCBとして成長するASEAN市場をどう捉えていますか?

片野氏 やはりASEAN自体が人口・経済ともに成長しており、今後のポテンシャルが高く、JCBの戦略的需要マーケットとして捉えています。決済という観点でも、銀行口座、クレジットカードを保有している人がまだ少ないのですが、逆にビジネス機会として成長余力があるということ。

 また、ASEANの人々は日本ブランドに対してポジティブな考えを持っています。日本企業であるJCBがクレジットカードなどを通じて新しい価値を提供できると考えています。

――昨年はシンガポールに新部署である「ASEAN事業創造部」を設けたとのことですが、どんな背景がありますか?

片野氏 ASEAN事業創造部は、新規事業創出のために活動している独立した組織です。シンガポール法人の傘下組織として21年6月に設けました。現在は日本から駐在員が2人派遣されています。

 JCBはこれまでは日本企業としてのブランドを使って、会員・加盟店ともに伸ばしてきましたが、それだけでは限界を感じており、それ以外の強みとなる新規ビジネスを立ち上げる必要があります。例えば、外部パートナーとの連携、スタートアップへの出資などが考えられますが、既存の組織に新たなミッションとして新しい領域で動いてもらうのは難しい部分もあるため、「自由に動き、新しい発想で考えられるように」という発想の下で今回新しい部署を作りました。

テクノロジーで新しい価値提供を

――ASEAN事業創造部の活動が、今回のマレーシアのSoft Space社への投資につながっているのですね。同社との資本提携における中長期的なアクションとしてどんなことを目標としていますか?

片野氏 中長期的なアクションとしては、将来的にSoft Space社が持っているテクノロジーを、JCBのビジネスと掛け合わせて、JCBの顧客である銀行やカード会員に対して新しい価値とソリューションを提供できると考えています。

 特に、ASEANは銀行口座の保有率やクレジットカードの普及率が低い一方で、スマホの普及率は高いため、テクノロジーを使い、スマホを使ったマーケティング施策のような新しいソリューションが提供できると見込んでいます。

 JCBの既存顧客にメリットを提供しつつ、さらにJCBの事業拡大を行っていくために、Soft Space社のソリューションとリソースを活用していく計画です。

 逆に、Soft Space社もJCBと連携することでSoft Space社のマーケットシェアも広がっていくため、両社が「Win-win」の関係を築けるという構想となっています。

消費者はSoft Space社のアプリを入れるだけでJCBの非接触決済などが利用できるようになる

消費者はSoft Space社のアプリを入れるだけでJCBの非接触決済などが利用できるようになる

――Soft Space社との取り組みを通じてASEAN市場全体のビジネス展開も積極化していく考えとのことですね。

片野氏 短期的にはマレーシアでのマーケットシェアを広げていきたいですが、次にはインドネシアやベトナム、フィリピン、タイなど他のASEAN諸国でもビジネスを拡大していきたいと考えています。

 Soft Space社の持つフィンテックの技術力、JCBの持つネットワークを掛け合わせて、マーケティング施策を行うことをASEAN全体で推進したい。

 ベトナム、インドネシア、フィリピンのようなまだまだ現金中心の国に関しては、JCBがSoft Space社との取り組みを通じて、国としてのキャッシュレス化に貢献し、消費者の決済活動をより便利にしていけると考えています。ASEANのキャッシュレス推進という社会的意義の下、JCBがASEANの中で存在感を増すことを目指していきたい。

JCBの非接触対応カード(同社提供)

JCBの非接触対応カード(同社提供)

――今後のASEAN展開に向けてはどんな展望を描いていますか?

片野氏 JCBはASEANマーケットではまだまだチャレンジャーの立場です。さまざまな仮説を立ててトライし、検証するというPDCAサイクルをどんどん回していきたい。この意味で、Soft Space社との取り組みを深める以外に、他のパートナー企業やスタートアップとの提携にも力を入れていきたい。外部との連携により、JCBとしての足元のクレジットカード事業拡大と、中長期的には新規ビジネス創造を同時に進めていきます。



<お問い合わせ先>

株式会社ジェーシービー 広報部
E-mail:jcb-pr@jcb.co.jp
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