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【アジア取材ノート】できることは全て自分で〜自立促すモンゴル児童養護施設〜

2016年8月号

洗車場がオープン

今年6月には、施設の敷地内で洗車場がオープンした。これも自立支援の新たな試みの一つだが、実際に働くのは既に施設を出て、大学を卒業した人たちだ。建物の建設に当たっても、子供たちは資材を運ぶなど、全面的に協力した。できることは何でも自分たちでやるという方針が徹底されている。

支援団体の一つ、ハートオブエンジェルの代表である堀江征子さんは、「大学を出てもすぐに仕事に就けるとは限らない。そうした人たちに就業機会を与えるため、洗車場を作ることを決めた」と説明する。モンゴルでは自動車が草原に囲まれた道路を長距離走ったり、冬にはゲル(伝統的な居住用のテント)が出すばい煙で自動車が汚れたりすることが多いため、洗車場の需要があると日本の支援者たちが見込んだ。

モンゴルの一般的な洗車場は自動車が2〜4台程度しか入らず薄暗い雰囲気があるが、ここは10台に対応でき、広々として明るい。また、現地では車の外側や内側、窓などを雑巾1枚で拭くところが多いが、ここでは拭く場所によって雑巾を色分けし、より清潔に洗車できるようにしている。こうしたサービス品質やあいさつを徹底した接客はまさに「日本式」だ。

児童養護施設の敷地内にオープンした洗車場。施設出身の大学卒業生が自動車を洗う(NNA撮影)

料金は、小型車の場合で7,000トゥグルク(約370円)から。ダルハン市内の洗車場の相場より高いが、首都ウランバートルに比べると安いという。

運営の滑り出しは好調で、洗車場には1日平均20台、多い時には40台の利用がある。モンゴルでも認識されている「日本ブランド」を感じられることや、ダルハンの他の洗車場よりも速く洗ってくれることなどから、リピーターも多いという。より多くの人に洗車場を知ってもらうため、交流サイト(SNS)のフェイスブックへの掲載や、ラジオでの宣伝、フライヤーの配布など、PR活動も展開中だ。

モンゴルの貧困と子供

社会主義国家だったモンゴルは、1990年代初頭の民主化に伴って社会福祉が削られたことで、多くの失業者が生まれ、路上生活者が増えた。貧困が原因で捨てられたり、失業が原因でアルコール中毒になった親から逃れる子供も社会問題化した。モンゴルは冬には気温が零下30度まで下がるため、こうした住む場所を失った子供たちは、温水供給パイプが通っていて外よりも暖かいマンホールの中に住み、「マンホールチルドレン」などと呼ばれる。

ダルハンにもかつてマンホールチルドレンがいたが、太陽の子どもたちを含む複数の児童養護施設による保護や、行政による対策が進んだことで、現在はいなくなったそうだ。

モンゴルの統計当局によると、2015年時点で両親がいない子供は3,856人、ひとり親の子供は34,060人。いずれも減少傾向にあるが、当局が把握していない子供もいるとみられる。

モンゴル全土には海外の支援団体による私営施設を中心に、約60の児童養護施設があるという。

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