NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2023, No.98

【インフルエンサーinアジア】

ベトナムめっちゃ好き
愛と笑いで2億回再生
ベトナムくん

SNSで多数のフォロワーを持ち、強い影響力を持つインフルエンサーが注目を集める昨今。そんな彼・彼女たちの中から、日本とアジアをつなぐインフルエンサーをご紹介。(NNAカンパサール 古林由香)

大阪府四條畷市生まれ。本名は井上恵一。大学時代にギターの弾き語りを始め、卒業後はシンガー・ソングライターとして活動。2017年、大阪を拠点にベトナム人向けのユーチューバー活動を開始。現地ヒット曲のカバー動画などで人気を集め、SNSの総登録者数は約157万(23年2月末)。ベトナムエンターテイメント代表取締役(本人提供)


ベトナムの町を歩けば「SNSで見た!」「一緒に写真を撮って」と大人気。ユーチューバーとして現地でブレーク中なのが「ベトナムくん」こと井上恵一さん。ベトナムと関わり6年目になる。歌のパフォーマンス動画や、人々との交流を楽しく伝えるコンテンツが話題を呼び、今年に入りSNSの月間再生回数が2億を突破。動画で見せる明るいパワーそのままに、躍進の秘訣(ひけつ)を語ってくれた。

――ベトナムに特化したユーチューバーになった経緯は?

ベトナムくん 以前はシンガー・ソングライターとして大阪を拠点に活動していたのですが、何年たってもまあまあの線止まり。打開策として海外をターゲットにしようと思ったのがきっかけです。

歌とギターは高校生の時に始めて、大学時代はテニス部のキャプテンだったこともあり、校内ライブでは人気者(笑)。「俺、売れるやん」って思い込んで卒業後から路上ライブ活動を始めたんですが、現実は厳しかったですね。

ユーチューブで人とは違ったことをして状況を変えたいと考えていた時、以前に宮城県で開催されたベトナムフェスティバルにゲスト出演したことを思い出し「これだ」と。方向転換は大きな決断でしたが、2017年秋からベトナムに特化したユーチューバー活動を始めました。

最初に投稿した動画は、現地で人気の歌謡曲の日本語カバー。アップした瞬間に再生回数が1万ぐらい行って「ちゃんとベトナムに届くんや!」と興奮しましたね。

――大阪で見かけたベトナム人へのインタビュー動画など、他にもさまざまな動画がありますね。

ベトナムくん 歌だけだと登録者があまり伸びず、まずは多くの人に届けるためにコンテンツの幅を広げました。もともと人を楽しませることが大好きなので、そこでの苦労は特にないですね。

大切にしているのが視聴者の身になって作ること。ベトナム人の気持ちになり「何が喜ぶやろ?」ということを意識して制作しています。

――初期の動画からベトナム語のテロップが入っていますが、この作業はどのように?

ベトナムくん 当初活用したのはグーグル翻訳。その後、翻訳スタッフとして作業してくれるベトナム人に出会い、その方に一任しています。僕の語学の先生にもなってくれて、そのスタッフと出会えたことはすごく大きいですね。

――もともと海外志向が強いタイプだったのでしょうか?

ベトナムくん それが全く。海外もユーチューブ開設後に行ったベトナムが初でした。英語もベトナム語もできないし、めちゃドキドキしながら行ったんですが、SNSで知り合ったベトナム人が町を案内してくれるなど現地ですごくサポートしてくれて。「ベトナム人ってこんな親切なんや!」と感動して、やっていく覚悟ができました。

ハノイからホーチミンまで21カ所の日本語学校を訪れボランティアでライブを披露。その様子をまとめた1本。「大変でしたが、先生の家や学校の寮に泊めてもらうなどしていい思い出が作れました。僕個人的に大好きな動画です」(ベトナムくんのユーチューブより)

中学校の前を通ったら
「アイドル」と大騒ぎ

@vietnamkun1 Ngày thứ 3 Người Nhật lại gặp cô bán bánh mì nhiệt huyết. 3日連続バインミー熱心に売るおばちゃんに会う笑 #vietnamkun #dulichvietnam #banhmi ♬ オリジナル楽曲 - vietnamkun🇯🇵Người Nhật

屋台店主とのユーモラスなやりとりを紹介したティックトックが大ヒット。「以前は一眼カメラで気合を入れて撮影する感じでしたが、最近はスマホで息を吸うようにして撮ってすぐにアップ。時流に合わせて変えていくのも大切ですね」(ベトナムくんのティックトックより)

――ユーチューブのチャンネル登録者の属性は?

ベトナムくん ほとんどがベトナム人です。日本人の視聴者は現地在住者や、ベトナム関係の仕事をする方、あとはベトナムに興味のある方ですね。性別的には去年まで男性が約7割、女性が約3割でしたが、22年秋から動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」に力を入れるようになって以降、半々に近づいてきました。

――21年に地元大阪で会社を設立。本人以外の主なスタッフは?

ベトナムくん 先ほどお話したベトナム人の翻訳担当者と、大阪にいるマネジャー的なスタッフだけです。長尺動画のテロップ作業はマネジャーにやってもらっていますが、それ以外の作業はまだ研究段階なので全て自分でやっています。

――かなり多忙では?

ベトナムくん はい。でも、どんどんレベルが上がるゲームをやっている感じで楽しいです。フォロワー(登録者)数でいうとティックトックが好調で約90万人になり、日本に興味がない層にも知られるようになりました。

ベトナムではインフルエンサーをアイドルと呼ぶのですが、先日も中学校の前を通ったら「アイドル!」って騒がれて。またそこを通らなって思いました(笑)。

――フォロワー数を伸ばせた要因は?

ベトナムくん 1つはベトナムへの愛、ってきざかもしれませんが(笑)。フォロワーを増やしたい気持ちだけでやっていたら、見透かされてここまで伸びないはずです。

もう1つは、どうすればフォロワーや再生数を増やせるか24時間考え、全てをこの活動に懸けているから。僕の場合、音楽的な経歴もファンもリセットして、金銭的にもゼロになる覚悟をして始めたので副業的にやっている人には負けられないという気持ちで頑張ってきました。

なりすましが登場!
ピンチもチャンスに

――収益の内訳は?

ベトナムくん 企業案件とスポンサーの支援が9割です。企業案件はベトナム航空や大塚食品など。スポンサーは3社に付いていただいています。地元大阪のベトナム料理店(ベトナム酒場ビアホイ)と食品商社(アイ・エス・シー工業)は知名度が低かった時から応援してくれ、本当に感謝しています。

ベトナムのユーチューブ広告単価は日本と比べるとだいぶ安価。どれだけ再生されてもこれ1本で食べていくのは難しいですね。

――活動で最もピンチだったことは?

ベトナムくん 悪質ななりすましや「裏では冷たい人間だった」というようなデマを流す人がいるんです。僕を利用して有名になるのが目的で、本当に腹が立ちますね。でも、潔白を証明すると僕を批判していた人もファンになってくれ、ファンだった人もさらに応援してくれて結果フォロワーが増えるので「ピンチはチャンス」と思うようにしています。

――やりがいや幸せを感じるのはどんな時?

ステージで歌を披露するベトナムくん(本人提供)

ベトナムくん 僕はただ楽しいからやっているだけなのに、ベトナム人に「この国を愛してくれてありがとう」とかめっちゃ感謝されるんです。もっと頑張ろうという気持ちになりますし、この活動をして良かったとつくづく感じます。

最近だと、憧れのDJ社長(音楽グループ・レペゼンフォックス所属のミュージシャン兼ユーチューバー)とベトナムに行けたこと。2年ほど前、ユーチューブにコメントを何回かしたのがきっかけで、DJ社長からからDM(ダイレクトメール)を頂けるというご縁ができたんです。そうしたら先日「来週ベトナムに行こう」ってお誘いがありまして(笑)。急きょ大阪から飛んで、旅のお供をさせてもらいました。人生何があるか分からないものですね。

――現在の活躍に対する家族や知人の反応は?

親は堅い公務員ということもあり、そもそも歌手の道を選んだ時も大反対。しばらくして許す気持ちになったら次はユーチューバー。「何してるか分からん」と全く理解してくれていませんでした。でも、コロナ禍に芸能人が何人もユーチューブを始めたことでテレビでも取り上げられるようになり、だんだん僕のすごさを分かってくれるようになりました(笑)。

音楽系の知り合いからは「売れへんから逃げた」みたいに言われていましたが、今となると「時代が来る前にそっちに行って正解だった」と思っている人も多いはずです。

――今後の目標は?

ベトナムくん これまではフォロワーを増やすことに時間を注いでいたので、次のステップとして今年はオリジナル曲をバズらせたいです。それを引っ下げて日越フェスティバルに出演し、さらにはベトナムの有名な音楽フェスティバルに出演するのが大きな目標。

この先も、ずっとベトナムと関わりのある活動をしていくつもりです。言葉もまだまだな僕をたくさんのベトナム人が応援してくれて、ほんまに感謝しています。その気持ちを裏切りたくないですね。

自身が作詞作曲を手がけたオリジナル曲『ベトナムが好き』。「日本語のみの歌唱で多くの人に届くか不安でしたが、1,000件以上もの『感動した』といったコメントをいただき、日越の懸け橋になれた気持ちになりました」(ベトナムくんのユーチューブより)

ベトナムくんからNNAカンパサール読者へメッセージ

(NNAのユーチューブより)



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