NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2022, No.90

【アジアに挑む】

ベトナム洋菓子市場
格安業態で開拓する

日本企業にとって、アジアでの事業環境が変わった。コロナ規制は続々と緩和されている。円安は、海外展開には追い風だ。今回は有名シュークリーム店によるベトナムでの新業態展開と、インド市場を狙う日本のドローン企業を取り上げる。


【to ベトナム】
シュークリーム4割安
洋菓子の新業態が登場

麦の穂の新業態「ベレーパフ」の世界1号店。開業日には行列ができた=5月21日、ハノイ市カウザイ区"

麦の穂の新業態「ベレーパフ」の世界1号店。開業日には行列ができた=5月21日、ハノイ市カウザイ区

シュークリーム専門店「ビアードパパ」を運営する麦の穂(大阪市北区)は5月、低価格帯の新業態「ベレーパフ(Beret Puff)」の1号店を首都ハノイで開業した。物流の大幅見直しにより価格を下げ、新たな顧客層を掘り起こす。東南アジアを中心に5年以内に300店を目指す。

「ベレーパフ」のシュークリームは1個当たり2万ドン(約0.8米ドル、110円)と、ビアードパパより約4割安い設定だ。当初はバニラやチョコ、抹茶、ブルーベリーなど定番の6種類だが、フルーツパンチやグアバなど20種類以上の新味も開発済みで、順次投入していく。

薄茶色が定番色のシュークリームの色をカラフルにしたり、フルーティーなフレーバーをあしらうなどの工夫は、「幅広い年齢層から食べてみたいという気持ちを引き出すため」だという。

シンガポールの現地法人、麦の穂グローバル(MUGINOHO GLOBAL)の井上慶マネージングディレクターは「ビアードパパは1個当たり3万1,000ドンからと決して安くない価格設定で、新興国で店舗を一気に拡大するのは難しい」と述べ、従来は購入しなかった若い人など新たな顧客を開拓することが新業態の狙いだと説明した。

1号店を開設したのは、ハノイ市カウザイ区のスーパー「サクコ(SAKUKO)ストア」チャンダンニン店。日本から輸入した日用雑貨や食品を扱い、ベトナム北部を中心に38店舗を展開する。サクコはビアードパパのフランチャイズ(FC)店だ。

サクコのカオ・チー・ズン最高経営責任者(CEO)も「ビアードパパには手が届かなかったベトナム人にも日本のシュークリームのおいしさを知ってもらえるはず」と新ブランドに期待を寄せる。

井上氏によると、1号店をベトナムに開設したのは、新型コロナ禍の影響を受けながらも東南アジアの中で最も高い経済成長率を維持し、若い人口が多いためだ。サクコ側も早い段階から新業態展開に共感し、積極的だったという。南部ホーチミン市でも新規FC候補との商談や導入テストが進み、早期の出店を検討している。

生地粉は常温輸送
集中製造で経費減

低価格化のカギになったのは、物流の大幅な見直しだ。ビアードパパは、各店舗がシンガポールの製造拠点から貸し切りコンテナで冷凍生地を輸入しているほか、専用の製造機材を準備する必要があった。

ベレーパフでは常温の生地用ミックスパウダーを混載輸送(LCL)で調達し、海上輸送・保管コストを低減。冷凍物流網が未整備の地域にも進出可能となった。製造や加工を1カ所に集中する「セントラルキッチン」も導入し、比較的狭いスペースへの出店を可能にした。

麦の穂は、ビアードパパなどのスイーツ専門店8ブランドを日本国内で展開。ビアードパパはベトナムの20店舗を含めて海外に約200店舗ある。今後は、インドやフィリピン、インドネシアなどを対象に5年で300店舗の展開を目指すという。

カラフルなクリーム、パウダーシュガーが特徴。カスタード、チョコレート、抹茶、ストロベリー、マンゴー、ブルーベリー、フルーツパンチ、バナナ、ピーチ、オレンジ、メロン、ピンクグアバ、塩キャラメルなど、豊富なフレーバーを開発。当初は定番6種類から販売開始した。(麦の穂提供)


【to インド】
中国製置き換えで商機
日系挑むドローン市場

インド投入第1機目の中型ドローン「PF2」(ACSL提供)

インドのドローン(小型無人機)市場に日本企業が参入しようとしている。日本大手のACSLは合弁会社を通じ南部タミルナド州に工場を設置。市場は中国製が席巻するが、規制導入による置き換え需要が生じるとみて、早期の刈り取りを狙う。完成品の輸入禁止といった国内生産振興策も追い風だ。

インドでは多様な分野でドローンは活用されているが、市場は中国製がシェア6割を占める。ACSLの鷲谷聡之社長は「インド政府にはドローンというある種コアな部分で、中国依存を脱却したいという思いがある」と分析する。

インド政府は、中国勢の締め出しにつながる「NPNT(ノー・パーミッション・ノー・テークオフ)」と呼ばれる規制を既に導入した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニューデリー事務所の加来芳郎所長は、「今後は要件の順守が必要な250グラム超のドローンでは中国製が減っていく」と見る。

政府が今年2月に導入した輸入規制も、完成品を輸入販売する中国などの海外勢には痛手となる。一方、現地生産を目指すACSLには大きな支障はない。現地生産を始める海外勢がいない現状では、むしろ「追い風になる」(鷲谷氏)と捉えている。

生産振興策に申請
シェア5割目標も

合弁会社ACSLインディアは、9月をめどに日本開発の中型ドローン「PF2」の生産と販売の開始を目指す。PF2はNPNTの要件を既にクリアし、インド品質委員会(QCI)の販売許可を待っている。競合と見るのは、シェア縮小が見込まれる中国勢ではなく、規制の恩恵を受ける地場勢だ。

測量とインフラ点検での活用を見込んでおり、機体は気候条件などに合わせてインド向けに細部をカスタマイズしている。電子部品など高い品質が求められる部品を除き、部材はインド国内で調達する。現地調達率は「バリューベースでみると、低くない」(鷲谷氏)水準に達する見通しだ。

飛行スペースを整備する予定の工場の4階部分=インド・南部コインバトール(ACSL提供)

ACSLインディアが南部タミルナド州コインバトールで整備を進める工場で生産する。工場への投資額は非開示。年産能力は初期段階で数百台~1,000台を見込むが、4階建ての建屋は需要に合わせた生産ラインの増強が可能だ。最上階はドローンの飛行が可能な空間となる。

同社はインド政府が推進する国内生産振興策「生産連動型奨励(PLI)制度」のドローン分野に申請済みで、承認されれば同工場で生産した製品の付加価値の20%が奨励金として支給される。

ACSLの鷲谷氏は、「インドのドローン市場は30年時点で日本を超える可能性がある。われわれは(インドでも)日本に匹敵するくらい需要をしっかり刈り取りたい」と語り、日本と同水準のシェア獲得を目指す考えだ。同社は日本での30年時点のシェア目標を25~50%(用途により異なる)に設定している。(榎田真奈)

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