NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2021, No.81

【アジア・ユニークビジネス列伝】

「紙おむつ幼虫が分解」
「仮想空間に集う人々」

それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。


【インドネシア】
紙おむつ幼虫食べて分解
不法投棄に挑む日系大手

おむつの素材となるパルプとポリマーに酵素を入れ、幼虫マゴットを入れた実証実験。実験初日(左)と比べ、5日経過後(右)は分解されていることが分かる(ユニ・チャーム・インドネシア提供)

おむつの素材となるパルプとポリマーに酵素を入れ、幼虫マゴットを入れた実証実験。実験初日(左)と比べ、5日経過後(右)は分解されていることが分かる(ユニ・チャーム・インドネシア提供)

衛生用品大手ユニ・チャームは、昆虫を用いて紙おむつを分解させる実証実験を行い、一定の効果があることを確認した。同社のインドネシア法人であるユニ・チャーム・インドネシアの独自の取り組みで、紙おむつリサイクルの実用化に向けて検討を進める。

使うのは、アメリカミズアブの幼虫「マゴット」。幼虫に紙おむつの主原料であるパルプを食べさせて分解させることで、ごみの量を減らせるか確かめた。既にマゴットを用いた生ごみの処理事例があったことに着目し、紙おむつにも転用できないかと考えた。

初めはパルプを簡単には食べてくれず難航した。試行錯誤を重ね、パルプに酵素を混ぜて糖化すれば摂食しやすいことを発見。酵素処理した紙おむつに投入したマゴットが成長することや、生ごみを混ぜれば成長が加速することも突き止めた。実験は2020年4月に始め、結果が得られるまで9カ月かかったという。

インドネシア国内の日用消費財(FMCG)メーカーで、マゴットを使った紙おむつのリサイクルに関する実証実験を行ったのは同社が初。インドネシアでは大量の使用済み紙おむつが不法投棄され、社会問題化していることが背景にあった。

ユニ・チャーム・インドネシアは、第3工場のある東ジャワ州モジョケルト県で、大量のごみが不法投棄された河川の清掃を実施した(ユニ・チャーム・インドネシア提供)

ユニ・チャーム・インドネシアは、第3工場のある東ジャワ州モジョケルト県で、大量のごみが不法投棄された河川の清掃を実施した(ユニ・チャーム・インドネシア提供)

同社はインドネシアの紙おむつ市場で4割以上のシェアを持つ。流域によっては「毎日300万枚の紙おむつが川に投棄されている」と指摘する地元紙もある。川岸にあふれかえったごみの山に紛れる紙おむつに、ユニ・チャームの商品名が書かれたものも少なくなかった。「紙おむつを焼却処分すると、赤ちゃんの肌がただれる」という迷信も聞かれるそうだ。

そこで、自然の力で自然に返す仕組みが作れないかと考えた。紙おむつをマゴットで処理してリサイクルできるようになれば、焼却処分を嫌がる地域住民のニーズにも応えられる。

インドネシアのベビー用紙おむつ市場は、既に日本の市場規模を上回ったという。それほどの巨大市場を抱えながら、ごみ分別の生活習慣がゼロに等しいインドネシアで、紙おむつのリサイクルが実現するまでの道のりは果てしなく長い。

それでもユニ・チャーム・インドネシアの石井裕二社長は、「最新の技術を活用して、できることから取り組みたい。(ごみの分別という)『ちょっといいこと』を暮らしに取り入れることを提案していきたい」と前向きに話した。(NNAインドネシア 山本麻紀子)


【韓国】
「メタバース」拡大
仮想空間に集う人々

仮想空間の漢江公園にオープンしたコンビニCUには多くの人が訪れる(ゼペットのプレー画面をキャプチャー)

仮想空間の漢江公園にオープンしたコンビニCUには多くの人が訪れる(ゼペットのプレー画面をキャプチャー)

ソウル市・漢江沿いの公園。夕暮れ時、ベンチに座っていると黒いワンピースを着たおしゃれな女性から「一緒に遊びませんか?」と声(チャット)を掛けられた。大手コンビニエンスストアCUで買ったジュースを片手に野外公演を鑑賞しながら世間話(チャット)をし、楽しいひと時を過ごした――。

これは、キャラクターのアバター(分身)を通じて交流や商取引ができる「メタバース(仮想空間)」内での実体験だ。ネット先進国と呼ばれる韓国ではメタバース市場が活発で、若者による利用や研修・プロモーションに活用する企業が増えている。

冒頭で利用したのは、ネイバー傘下のネイバーZが展開するメタバースの「ゼペット」。アバターの体を通じ、他プレーヤーとの交流や遊びなど実社会に近いレベルの活動ができる。顔認証機能で自分とそっくりなアバターを作り、課金すれば高級ブランドのグッチなどで着飾ることも可能。コーディネートで唯一無二の自分を作り出せる。

2018年に配信が開始されてから、Z世代(1990年代後半~2000年代生まれ)を中心に注目が集まり、今年7月時点のユーザー数は世界で2億人を超えた。

韓国の10代~20代前半の世代では、メッセンジャーアプリよりもゲームなどの仮想空間でコミュニケーションをとることが一般的になりつつある。メタバースは、若者世代の強力なコミュニティーツールになるとみられている。

LGや現代自も導入
一気に普及の可能性

コロナ禍の影響で経済活動に制限がかかる中、企業も仮想世界を活用したビジネスモデルの強化に力を入れ始めた。

パネル世界大手のLGディスプレー(LGD)は7月、米国のメタバースプラットフォーム「ギャザータウン」で新入社員の研修を実施。アバターを通じた仮想空間上で、国内工場や海外事業所内を見学させるなど移動コストや費用などの削減につなげた。

現代自はゼペットを使い、主力セダン「ソナタ」のスポーツタイプモデルを街中で試乗できる体験サービスを開始した。アバターとソナタを組み合わせてオリジナルの写真や動画も撮影できるなど、若年層向けの販促活動に取り組んでいる。

韓国政府もメタバース産業の振興に積極的だ。昨年、官民一体の協業プロジェクト「メタバースアライアンス」を設立。今年7月には国家成長戦略である「韓国版ニューディール」の育成分野にメタバースを加え、資金面での協力を通じて世界市場での主導権の確保を狙う。

KB証券は今後、多くの余暇時間がメタバースに向かうと予測している。

同社によると、生産性向上で製造業などの雇用は縮小する一方、次世代技術の発展によりビジネスが多様化して新たな雇用機会が増えるという。人々の雇用水準は維持されつつも、労働時間だけがどんどん短くなっていく。

1日3時間労働が当たり前になれば、スポーツやドラマ、映画だけでは暇を持て余すため、ゲーム性が高く没入感が楽しめるメタバースにニーズが集中するという。

KB証券のストラテジストのイ・ウンテク氏は「世界的な人気ゲームがプラットフォームになってメタバースと連携するなど、ちょっとしたきっかけで一気に普及する可能性がある」と分析する。

一方で、ユーザーを楽しませるコンテンツが不足すれば、すぐに飽きられる恐れもある。06年前後に話題を呼んだ米国の仮想空間サービス「セカンドライフ」は、仮想世界というだけで実社会とのつながりはなく、数年で下火になった経緯がある。

IT大手のほか、オンラインゲーム大手を抱える韓国が世界で先行するためには、どれだけエンターテインメント性が豊富で価値のある情報を提供できるかにかかってきそうだ。(NNA韓国 中村公)

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