NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2021, No.80

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─コロナ下の旅行編─

新型コロナウイルス感染拡大の影響を最も受けたとみられる旅行業界。ステイホームや外出規制が長期化すればするほど、どこか見知らぬ土地を旅する欲求はひそかに高まっているのかもしれない。アジア各地の記者たちから届いた「コロナ下の旅行」にまつわるコラムを紹介する。

新型コロナウイルスで打撃を受けていた中国国内の観光地も人出が復活しつつある=8月19日、中国・雲南省の麗江古城(新華社)

新型コロナウイルスで打撃を受けていた中国国内の観光地も人出が復活しつつある=8月19日、中国・雲南省の麗江古城(新華社)

マレーシア

マレーシア人の42%が、今後1年で旅行業界は回復すると予想している――。ある調査の結果だが、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない中、思ったよりも楽観的にみている人が多いことに驚いた。

この話を日本の友人にすると「旅行は当分無理だと思う」と一言。新型コロナワクチンの接種が進んでも、ワクチンの効かない変異株が現れ「いたちごっこ」のような状態になるだろうというのだ。いささか悲観的すぎるのではと思ったが、あながち否定もできないかもしれない。

昨年の今ごろは、1年もたてばコロナ前のように近隣諸国への旅行や、家族に会うための一時帰国ができるようになるのではないかと淡い期待を抱いていた。しかし、現在もなお先行きが見通せない状況だ。いつ可能になるかは分からないが、頭の中で旅行の構想を練りつつ、今はただ感染収束を祈るしかない。(望)


タイ

バンコクなどではロックダウン(都市封鎖)が14日間延長され、悶々(もんもん)とした日々を送っている人が少なくないだろう。一方で、このような状況でも、海外旅行を続けるインフルエンサーや、国外に逃避する富裕層は一定数いる。

ユーチューブチャンネル「I Roam Alone」やフェイスブックなどで一人旅の様子を配信し、登録者計500万人を誇るタイ人女性ミントさんは今年5月、新型コロナワクチン接種を受けるために渡米し、議論を巻き起こした。そのわずか数カ月後、アフガニスタンを訪問。SNSで身の危険を訴え続け、現地のタイ大使館に保護された。現在、関連動画や投稿は全て削除されている。

未知の世界を訪れてみたいという気持ちは分かるが、他人に迷惑をかけてはならないと思う。このご時世、旅行ができることがいかに恵まれているかを自覚し、責任ある行動を取ってもらいたい。(ビ)


中国

1カ月前から楽しみにしていた青島への旅行を中止した。先月半ばから南京空港を中心にインド由来の「デルタ株」が各地に波及し、全国で不必要な移動を控えるよう求められたからだ。

ここ上海でも半年ぶりに国内症例が確認された。感染したのは浦東空港の貨物搬送員。十分な防疫措置を取らなかったため感染したとみられている。上海ではすぐさま感染者に関係する6万8,000人に対しPCR検査を行い、陰性を確認した。市内の公園でも入口で健康コード提示を求め、人の多い繁華街では消毒頻度を増やし防疫に当たっている。

世界に先駆けてコロナを抑え込んだ中国でも終息の兆しは見えない。ただこれまで厳しい感染対策を講じてきたからこそ、コロナの打撃からいち早く立ち直った。青島のビールフェスには行けなくなったが、上海のビアガーデンで夜景を見ながら過ごすのもいいかもしれない。(東)


台湾

台湾で新型コロナウイルスの感染が急拡大した直後の今年5月下旬、自転車でたまたま台北市の士林夜市の周辺を通りかかったことがあった。店のシャッターは軒並み下ろされ、人通りはほとんどない。「ここが観光ガイドブックで紹介されていたあの夜市なのだろうか」。信じられない思いでその場を後にした。

あれからちょうど3カ月。域内の感染状況が落ち着く中、士林夜市周辺を再び訪れると、飲食店などが営業していた。コロナ前のにぎわいには程遠いのだろうが、店に明かりがともっているのを見て、なんだかほっとした気持ちにさせられた。

立ち寄ったスイーツ店の女性は、コロナ前は大勢の日本人観光客が夜市を訪れていたと振り返った。日本では変異株が猛威を振るい、ウイルスとの闘いは先が見えない。それでも、日本人旅行者が気軽に台湾に来ていた日々がいつか戻ってほしいと思う。(祐)


日本

気温が30度を超える炎天下にもかかわらず、昼時に自宅近くで行列ができていた。先頭にはタイ料理店。グリーンカレーやガパオライスなどの弁当が並べられ、長引くコロナ禍で海外旅行が難しい中、アジア飯が恋しい人も多いのだろうと推察した。

アジア飯と言えるかは微妙だが、個人的にはフィリピン大手ファストフード店のフライドチキンセットが今最も食べたいメニューの一つだ。現地に赴任した十数年前はチキンとライスの組み合わせに戸惑ったが、独特の風味のグレイビーソースとの相性は悪くなく、滞在が長くなるにつれて日常的に食べるようになった。

かつて食品メーカーの関係者から、現地の気候に合わせて食や味の好みが変化すると聞いた記憶がある。40度近い猛暑やゲリラ豪雨など、日本の夏の熱帯化が指摘される中で、単に懐かしさだけではなく、体がアジア飯を欲しているのかもしれない。(中)

出版物

各種ログイン