NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2020, No.66

【アジア・ユニークビジネス列伝】

「クモ糸の技術応用、夢の新素材」
「ガリガリ君、ミャンマーに登場」

それを売るのか、そんなサービスがあってもいいのか。アジアは日本では思いもよらない商品やサービスに出会う。斬新で、ニッチで、予想外。「その手があったか!」と思わずうなってしまう、現地ならではのユニークなビジネスを紹介する。


【タイ】
クモ糸の技術応用
夢の新素材を開発

ブリュード・プロテインと各種加工工程で得られた素材の例(スパイバー提供)

ブリュード・プロテインと各種加工工程で得られた素材の例(スパイバー提供)

クモ糸の遺伝子を基に、人工構造タンパク質を使った新素材の開発・生産を手掛けるSpiber(スパイバー、山形県鶴岡市)。2007年から続けてきた研究開発が実を結び、新繊維「ブリュードプロテイン」を使ったTシャツやアウトドアジャケットの商品化にこぎつけた。

昨年12月、限定50着で販売したブリュード・プロテイン採用のアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」(スパイバー提供)

スパイバーの人工構造タンパク質は、繊維をはじめ、樹脂、フィルム、ゲルなど、さまざまな素材への加工が可能だ。植物資源を基に微生物により発酵生産するため、化学繊維とは違い石油に依存しないことが最大の特長。微生物によって分解される生分解性も期待されており、マイクロプラスチックによる世界的な海洋汚染の抑制にも有効と考えられている。

世界の繊維消費量は年間9,000万トン。2050年には2億トンに達すると推計される。原料の大半は石油由来だ。スパイバーの関山和秀代表は「将来的には繊維需要の15~20%を人工構造タンパク質に置き換えたい」と語る。

タイで挑む量産化

スパイバーは現在、タイにも拠点を置く。東部ラヨーン県の工業団地で、昨年7月から量産化に向けた工場建設を進めている。今年中に完成させ、21年内に商業生産を開始する計画だ。

現地法人スパイバー・タイランドの森田啓介取締役は、タイへの工場設置を決めた理由について「微生物発酵の原料となるバイオマス資源(砂糖、キャッサバから採れるグルコース)が豊富であること。プラントの建設コストが相対的に低く、電気や水などの供給や政情が安定している」と説明。アパレルに加え、主な供給先にと想定する自動車部品メーカーが集中していることも理由に挙げる。

昨年発売したTシャツの価格は税別2万5,000円、ダウンジャケット「ムーン・パーカ」は税別15万円。石油由来の素材に対して割高感は否めないが、タイ工場の稼働により生産コストは大幅に下がる見込みだ。

当面は、市場規模の大きいアパレルや自動車産業への供給に注力する。現状、アパレルはポリエステルをはじめとした合成繊維、自動車では繊維強化プラスチック(FRP)といった石油由来の素材が多く使われているからだ。

「人工構造タンパク質を使った新素材が、5年後には広く一般衣類に使われるようになる」と森田氏は展望を語った。

<企業情報>
Spiber(スパイバー)
2007年9月設立。共同創業者である関山氏と菅原潤一氏が、慶応大学先端生命科学研究所での研究成果を活用し、人工構造タンパク質由来の繊維素材の量産技術を世界に先駆けて確立した。


【ミャンマー】
タイ生産のガリガリ君
ミャンマーにも登場

日本と同じく印象的な商品ロゴとキャラクター。いずれの味も3種類ずつのデザインを用意した(写真では2種類)。「年内を目途に新フレーバーの上陸も予定している」と現地展開を担うアークティックサン社の担当者=ミャンマー・ヤンゴン(アークティックサン社提供)

日本と同じく印象的な商品ロゴとキャラクター。いずれの味も3種類ずつのデザインを用意した(写真では2種類)。「年内を目途に新フレーバーの上陸も予定している」と現地展開を担うアークティックサン社の担当者=ミャンマー・ヤンゴン(アークティックサン社提供)

日本で代表的な氷菓として知られている「ガリガリ君」。今年、ミャンマー市場に登場し、その印象的な「顔」と「味」を広げている。

販売開始は今年2月で、東南アジアではタイ以外の国で本格的に参入するのは初。ミャンマー首都のヤンゴンでは、市中にラッピングバスを走らせるなど販促に本腰を入れる。年内には地方都市にも販売を広げる意向だ。

製造元の赤城乳業(埼玉県深谷市)は2017年、タイでガリガリ君の委託生産を開始。日系コンビニエンスストアや大手スーパーに販路を広げてきた。

コールドチェーン物流網の発達により、タイ工場からミャンマーへの供給が可能となった。船便でヤンゴン港から輸入して店舗に運ぶ。総合商社の双日が協力し、2月からヤンゴンの大手スーパーやコンビニエンスストアで販売を始めた。

国民の足としてなじみ深い、バスでの広告を展開=ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

ミャンマーでは欧米ブランドのアイスクリームが既に販売され、単価1,000~2,000チャット(約76~150円)台の高級アイスクリーム市場が顕在化している。ガリガリ君は日本でも定番のソーダ味のほか、リンゴ味、メロン味の計3種を投入。1個1,300チャットで流通する。

ブランド認知のため、日本とミャンマーの友好イベントで合計1万本を無料配布。長蛇の列ができた。ミャンマー人の女性、ミョー・マ・マ・ウィンさん(43)は、「甘すぎず、スッキリした食後感。故郷の北部カチン州でも売ってほしい」と話した。

赤城乳業のタイ現地会社、赤城アイス・アジア・パシフィックの神谷英知社長は「日本の氷菓がミャンマーの人に広く愛されるものになってほしい」と期待する。

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