NNAカンパサール

アジア経済を視る March, 2020, No.62

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─マスクがない!編─

韓国

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大で、韓国でもマスク不足の懸念が広がっている。薬局などでは「マスク完売」という貼り紙も目にするようになった。

韓国メディアは中国人客による大量購入が背景にあるとしている。明洞の薬局では約50万円分のマスクを購入する観光客も現れたという。これを受け、韓国人の間でもマスクを確保する動きが加速。ネット通販などで数カ月分を購入するケースが続出している。

現地マスクメーカーもフル稼働状態。それでも過剰な需要に生産は追いつかない状況だ。韓国政府はマスクメーカーに労働時間の上限である週52時間を延長する特別措置を施し、供給拡大を促している。

使い捨てマスクは1日1枚の交換が推奨されている。事態が長期化すれば、家庭で常備する数量も減ってくる。マスクを巡る需給不足の問題は、大きな課題になりそうだ。(公)


台湾

先週、ある台湾の「LINE(ライン)」グループに、「医療用マスク1枚80台湾元(約290円)、5個以上の購入から受け付けます」とのメッセージが画像付きで送られてきた。30分もせず「完売しました」とのこと。新型コロナウイルスを受けたマスク不足は深刻さを増している。一部メディアは、病院の医療用マスクの在庫数が足りていないと報じた。

このような中、愛知県のメッシュ製品加工メーカーが開発した、何度も洗って再利用できる高機能マスクに注文が相次いでいるという。使い捨てマスクよりも値が張るが、100回洗って再利用ができるらしい。

個人的には使い捨てマスクが底をついた時に備え、何もしないよりはと布マスクを手作りしようと考えていた。これを機にと言ってはなんだが、環境に優しいサステナブルな商品がもっと増えると良いと思う。(晶)


シンガポール

新型肺炎の感染拡大でシンガポール人の患者数が日を追うごとに増え、国内社会に影を落とし始めている。

政府が先ごろ、感染症警戒レベルを1段階引き上げたことで、一部のスーパーマーケットでは先行きに不安を感じた市民が食品や日用品の買いだめに走った。閣僚らは「十分な食料を確保しているので心配ない」と呼び掛けて混乱を抑えようとしている。マスクについても、政府は売り切れ続出を懸念して「健康なら使わないで」と勧告しているが、警戒レベル引き上げに伴い、街中にマスク姿の人が増えた気がする。

先週初めに乗車したタクシーでは、マスクを付けていない運転手に「感染が心配じゃない?」と聞くと「健康だし政府も使うなって言ってるし全然心配ない」と笑って話していた。先週末にタクシー運転手の感染が初めて確認されたが、市民の間にこれ以上、不安が広がらないことを祈るばかりだ。(雪)


香港

春節(旧正月、1月25日)の一時帰国。新型コロナウイルスによる肺炎拡大でマスク不足が深刻になり始めた香港。マスクを買うため、日本の空港に着いてすぐドラッグストアに駆け込んだ。

売り場の棚は子ども用マスクが少量あるのみだが、レジ前の買い物カゴにマスクの箱が山積みになっているのが目に入った。品出し前だったかと思って手に取ろうとすると、若い男性に手で制された。彼が買う商品だったらしい。一人でこの量、同じくマスク不足の国の家族や友人に送るためか。

結局、空港内でマスクは買えなかったが、実家近くの薬局で大量のマスクを発見して一安心。だが2日後にはすっかりなくなり、加湿用やリラックス効果など対ウイルス機能が期待できない製品ばかり残っていた。一方、香港に残った友人らは手作りマスクをSNSに投稿。結構かわいい。(保)


タイ

「遅かったか」。薬局を巡りながら唇をかんだ。マスクがどこにもない。普段重宝している独立系の店にも駆け込んだが「けさ売り切れた」と、タッチの差を強調する。

バンコクを覆うPM2.5のスモッグ。「吸い込んでも、病気になるのはずっと先」と、素顔で通勤してきた。しかし、新型肺炎の急拡大が加わっては、話が違う。今倒れたら周囲に迷惑をかけると、慌ててマスク入手に走った次第。

でも待てよ。街にあふれるマスク顔。彼らはどこから入手しているのか。タイ人に聞くと「路上で」。しかし、そこも行ってみると品切れ。だがまだ希望はあった。路地裏の市場で手に入る。ここもいつまで持つかと思うが、「絶対になくなることはない」と、別のタイ人は言う。敗戦日本の焼け跡・ヤミ市もこんな感じだったのか。小ぎれいになっても、タイは混沌として、たくましい。(範)


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