NNAカンパサール

アジア経済を視る October, 2019, No.57

【NNAコラム】各国記者がつづるアジアの“今”

テイクオフ ─ソーシャルメディア活用編─

タイ

世界有数の仏教国であるタイでは、若者でも敬虔(けいけん)な仏教徒が少なくない。今でも寺を訪れることは一般的だが、時代の流れとともに信仰のデジタル化が進み、「サイバー礼拝」なるものも普及しつつある。

その一例が、会員制交流サイト(SNS)「フェイスブック」への投稿だ。仏像や有名な僧侶、仏のような形をした雲などの写真には無数の「いいね!」がつき、コメント欄には祈りの言葉が並ぶ。通信アプリのLINE(ライン)で仏教がらみの画像とともに幸運を祈るメッセージを毎日のように送る人もいる。

このような中、フェイスブックではユーザーの信仰心を利用して「いいね!」や共有、コメントを要求する「エンゲージメントベイト」も多く、フェイクニュースの温床にもなっている。「サイバー礼拝」は個人の自由だが、悪用されることを考えると、もろ手を挙げて賛成することはできない。(ポ)


中国

中国人の口コミに対する情熱は単なるツールの範囲を超えている。食事や外出の際には口コミアプリでの評価を欠かさない。企業の広告には懐疑的な消費者も、会員制交流サイト(SNS)やアプリの口コミには絶大な信頼を置く。

サービスする側もSNSにアップする写真の撮影には余念がない。ネイルが終わると「ちょっとこちらへ」と撮影セットの前に連れて行かれ、カシャ。まつげエクステを付ければ、「目を開けて、閉じて」とカシャカシャ。写真は翌日、ちゃっかり口コミアプリにアップされていた。

先日、ネット通販で商品を購入した際には、「(最高評価の)星5つをください」というメッセージが届いた。文末には「あなたが一生平穏で過ごせますように」。一生分の安泰を祈られては断れまい。内心は星3つだが、「大満足です」と書き込んだ。ちまたにあふれる星5つも、誰かの厚意で成り立っているのかも。(佳)


フィリピン

他国に住む友人と、定期的にスカイプを通じたミーティングをすることになった。普段からチャットや交流サイト(SNS)で頻繁に連絡を取り合っていたが、「顔を見ないと、ちゃんと会話している気がしない」と指摘されたのがきっかけだ。

この数年間、1日の大部分をスマートフォンを手に過ごしている。先週は1日当たり6時間スマホをのぞいていた。スマホを持ち上げた回数は110回、メールなど通知を受けた回数は123回。人と直接話す時間より、スマホを介してのコミュニケーションの方がおそらく圧倒的に長い。昔より手に入る情報が多くなった結果だろう。

コミュニケーションが自由で活発になったのはうれしいが、だからこそ、リアルな交流がとても大切に思える。当地にいる間は実際に会うのが難しいが、いつか実現するリアルミーティングを心待ちにしたいと思う。(西)


インド

自動車や食品・日用品(FMCG)業界が不振に苦しむインドでは、失業が深刻な問題になりつつある。興味深いことに、最も打撃を受けている業界の一つがニュースメディアだ。オンラインのニュースサイトや新興ニュースチャンネルが閉鎖し、失業者の増加に拍車をかけている。運営中のニュースサイトでも、スタッフの削減を通じて生き残りを図る努力が見られる。

政権に対して批判的なメディアほど、経営が厳しいという特徴もある。こうしたメディアには、政府の広告が入りにくいためだ。だが苦境にあっても、ジャーナリスト魂は失われていない。職を失った一部のジャーナリストは、ユーチューブに独自のチャンネルを設置し、官製不況だと現政権を攻撃し始めた。フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアでは、より活発に政権批判を展開している。(虎)


オーストラリア

オーストラリアやニュージーランド(NZ)のウェブサイトにはチャットツールが導入されていることが多い。AI(人工知能)によるチャットボットではなく、実際に人間のオペレーターと会話することが可能で、政府機関ではNZ統計局のページでも活用されている。

筆者も携帯電話のプラン変更時に、オプタスのチャットを利用した。電話よりも待ち時間が短い上対応も早く、さらに会話の履歴が字で残るので後で間違いなどがあった際に見直すことができ便利だ。

一方、オーストラリア企業との取引や問い合わせで困るのは、よくメールの返事が来ないことだ。営業時間内に受信した分しか確認しないのか、夕方以降に送信したものはことごとく無視される。電話やチャットを好むオージーにとって、メールによるやり取りの煩わしさは、今や手紙と同次元なのかもしれない。(岩下)


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