NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2019, No.54

【アジメシ】

本場クメール料理に故郷を想う

昼食をはさみながら、アジアの人々のひととなりを紹介する連載企画「アジメシ」の第4回。インドシナ難民として来日してから30年、今でも故郷の人々のために駆け回るカンボジア人女性が、東京・代々木で長く愛される老舗クメール料理店を紹介してくれました。(文・写真=NNA東京編集部 片岡野乃子)

リマちゃんの大好物というクイテイウ(カンボジア版フォー)のセットを注文したナンさん。自宅でもよく作るという。リマちゃんも子供用食器でもりもり食べていた

リマちゃんの大好物というクイテイウ(カンボジア版フォー)のセットを注文したナンさん。麺料理は自宅でもよく作るそうで、リマちゃんも子供用食器を使いもりもり食べていた

会話の節々から聡明さがうかがえる、カンボジア人の松橋ナンさん(38)は、タイのインドシナ難民キャンプから来日して今年で30年目。現在は7歳の男の子と2歳の女の子を育てる2児の母だ。空港でグランドスタッフとして勤務するかたわら、民間非営利団体(NPO)「在日カンボジアコミュニティ」(神奈川県伊勢原市)に所属し、同県平塚市でカンボジア伝統舞踊を教える先生としても活躍している。一緒に来てくれたのはナンさんの娘のリマちゃん。

「店長と知り合いなんですよ」とナンさんが紹介してくれたのは、今年で創業37年を迎えたクメール料理店「アンコール・ワット」。店内は日本人客でいっぱいだ。創業以来変わらないおいしさはもちろん、駅から2分のアクセスの良さやカンボジアの雰囲気を再現した内装も魅力の一つ。

小学1年生まで難民キャンプの学校に通い、来日した2年生から日本の学校に編入した。「小学校は午前中だけ行けばよかったのですが、無料で行けるものは行っておけという親の方針で午後も毎日通っていました」。友人にも恵まれ成績も優秀だったナンさん。「近所に住む仲の良い友人がとても頭が良かったんです。その子に負けないよう必死で勉強しましたが、最後までその子にはかないませんでした」と笑う。

カンボジア名物のかぼちゃプリン。「私も作ったことがありますが失敗しました」とナンさん。現地ではアヒルの卵を使うそう

アサプラ(カンボジア伝統舞踊)が描かれた壁画を見て「きれいだね」と何度もはしゃいでいたリマちゃん。「まだリマは舞台には立ちませんが、家ではずっと踊ってますよ」

やがて父親の仕事の関係で神奈川県大和市、川崎市と引越しを重ねたが、当時の川崎市は周囲に外国人がいなかった。「困ったのが、学校で配られるプリントを持ち帰っても両親は日本語が読めないので意味が無いんですよ。運動会のプリントを配られても内容が分からないので親は来ません。昼食休憩の時間に『他の子は家族が来ているのにナンちゃんの家族はどうして来てないの?』と心配した友人たちが家族でお弁当を食べている中に混ぜてくれたことも」。事態を重く見た学校側はナンさんと家族のために国際教室を開講。毎週水曜日にカンボジア人の講師を学校に呼び、家族ぐるみで日本語学習の授業が実施されたという。

息子キンギ君の誕生と同時にNPOに所属し、活動の一環として舞踊教室に参加しはじめたナンさん。当初は別の先生のサポートをしていたが、教室の移転に伴い自らも子供たちに指導するようになったという。2人だった生徒も今では13人に増えた。「5月は大きなイベントとして代々木公園のカンボジアフェスと横浜市のあーすフェスタかながわ、平塚市の国際交流イベントの3つに出演しました」と充実した表情で話す。

「空いた時間で仲間の通訳をしています。友人親子間(クメール語を話す親と日本語を話す子供)の意思疎通の手伝いをしていました。最近は病院への付き添いもしていて、本人の代わりに医師に病状を説明したり。オフの日に家事や頼まれ事を片付けています」と常に人のため動き回る。「今は自分のために使える時間は取れていません。いざ1人の時間を持ってもうまく使えるか分かりませんけどね」。持ち前の知性と優しさからコミュニティ内でも顔が広くリーダー的存在のナンさん。家族や仲間、故郷への愛にあふれた彼女を慕う人は多い。

最右がナンさんのご友人のサンワーさん(38)。「最近は日本の理科の教科書を読むのがマイブーム。もうすぐ向こうに戻って小学校の先生をします」。日本でお気に入りの場所は図書館で、サンワーさん曰く「何時間でも居られます」

レジ付近にはカンボジアの雑貨などのお土産コーナーもある


アンコール・ワット
DATA
アンコール・ワット
住所:東京都渋谷区代々木1丁目38−13住研ビル1F
営業時間:11:00〜14:30 LO14:00 17:00〜23:00 LO22:00
定休日:月曜日

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