NNAカンパサール

アジア経済を視る June, 2019, No.54

「東西」の本から「亜州」を読み解く

アジアの本棚

『ASEANの多国籍企業
―増大する国際プレゼンス』

牛山隆一 著


平成の経営

日本企業は2010年ごろから東南アジア諸国連合(ASEAN)での事業展開を急速に拡大した。そのこと自体はよく認識されるようになっているが、日本ではASEANは投資の受け入れ先としてのイメージが強く、ASEANの地場企業の動向、特にその対外投資についてはよく知られているとは言えない。域内経済がこれだけ発展している中で、当然ながら地場企業も資金力、技術力をつけ、海外展開も急速に拡大させている。

本書も指摘しているように、ASEANに最も多く投資しているのはASEAN自身の企業だ。日本など海外企業のパートナーとしてだけでなく、いまでは世界規模で戦える実力を備えた企業も少なくない。

対外投資でトップ10の常連

本書によれば、ASEANの対外直接投資額(FDI)は13年には過去最高の6位まで食い込んだこともあり、今では世界トップ10の常連になっている。ASEANの直接投資が伸び出したのは2000年ごろからだが、いまでは世界全体のFDIの4%程度を占めるようになっている。17年には、中国とASEANのFDI合計は世界の途上国投資の半分を占めるところまで来ている。

本書の中核は、各国のFDIの先兵になっている多国籍企業の紹介だ。域内全体のFDIの6割を占める最大の投資国シンガポールでは、通信のシンガポール・テレコム(シングテル)、農産物商社で三菱商事も出資しているオラム・インターナショナル、不動産のキャピタランド、外食のブレッドトーク・グループなどの動きを詳しく説明している。業種も規模もさまざまで日本ではまだなじみの薄い会社もあるかもしれないが、オラムを例にとると17年12月期の売上高は2兆円を超えており、世界70カ国・地域に進出、カシューナッツやアーモンドの売上高は世界1位だ。

その他の国でも、マレーシアの通信会社アシアタ、タイのサイアム・セメント、複合企業のチャロン・ポカパン(CP)、TCC、インドネシアのサリムやリッポー、ベトナムのビナミルクなど大きな存在感を持つ企業を概観している。こうした企業の動向は、単発のリポートなどでは見ることがあるが、まとまった形で紹介する本はこれまでなかったように思う。筆者はアジア経済を専門とする、日本経済研究センターの主任研究員。ASEANでビジネスの前線にいる人なら手元に置くとハンドブックとしても重宝しそうだ。


『ASEANの多国籍企業―増大する国際プレゼンス』

  • 牛山隆一 著 文眞堂
  • 2018年11月発行 2,400円+税

【本の選者】岩瀬 彰

NNA代表取締役社長。1955年東京生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、共同通信社に入社。香港支局、中国総局、アジア室編集長などを経て2015年より現職

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