NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2019, No.48

2019年1月1日
世界を視野に、大田区3500社のものづくり

ラグビーのワールドカップが今秋、日本で開催されるほか、東京五輪・パラリンピックがいよいよ来年夏に迫る中、製造業向けの情報システムなどを手掛ける東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)と、スポーツデータ事業などを行う共同通信デジタルのスポーツデータ事業部が異例のタッグを組んだ。関心の高まるスポーツ界で、ITやセンサーを使って選手の動作や姿勢の変化をデジタルデータ化し、効率的な練習やけがの未然防止などに生かす新しいソリューションの開発に挑戦し始めたのだ。両社のキーパーソン同士が対談し、「スポーツ×IoT」の未来像を探った。

製造業からスポーツへ

製造業では2011年ごろから、人の動き(モーション)をデジタルデータに落とし込むことで、モノの組み立てなどの現場作業を「見える化」する取り組みが始まった。情報システムで日本の製造業を支えてきたB-EN-Gも、17年からモノのインターネット(IoT)関連の製品開発を強化している。モーションセンサーによる作業動作の見える化ツール『mcframe MOTION』は、さまざまな動作や姿勢の3次元データを分析・評価し、製造現場にフィードバックする。「正しい動作と異なる動作が見つかれば警告を出すシステムを構築した。生産過程で不良品の発生を未然に防ぐのが狙いだ」と、B-EN-Gの新商品開発本部マーケティング企画本部商品企画1部の小林剛部長は説明する。熟練スタッフと新人の動作を比較するなど、作業員の教育訓練などにも活用が広がっている。

製造業のデジタル化を目指す「インダストリー4.0」が叫ばれて久しいものの、作るモノによっては手作業の方がその動作の繊細さや生産効率性が優れている場合もある。「工場を100%ロボット化しよう」という方向だけではなく、最近は「機械と人がうまく協調したものづくり」の在り方が問われるように変化していると指摘する。

共通点は「人の動作」

mcframe MOTIONを使った作業指導イメージ

光学センサーは、カメラに映らない部分の動きは正確には捉えられない。B-EN-Gは、スーツに装着して身に着けることができるセンサーにも対応している。取得した3次元のデジタルデータは無線で送られてくるため、カメラでは死角になってしまう部分の動きもしっかり「見える」のが特長だ。特撮映画のCG作製で人のリアルな動きを再現するためにも使われている技術だが、「人の動きを捉えたいのはスポーツも同じだ」と小林氏。『mcframe MOTION』の新たな活用先を探していたB-EN-Gは、スポーツデータの活用に詳しい共同通信デジタルのスポーツデータ事業部スポーツ営業部に所属する前田祐樹氏と出会うことで、「スポーツ×IOT」という新たな挑戦に踏み出した。

選手自身も知らない動きを「見える化」

元ラグビー選手だった前田氏は「スポーツ選手の動作を『見える化』する意味は大きい」と言う。選手自身も自覚していない動きや癖がある。これを『mcframe MOTION』を使って「見える化」することで選手自身がそれを自覚することができれば、けがや故障を未然に防ぎ、今より効率的なトレーニングにつなげていくこともできる。

共同通信デジタルではプロスポーツの試合結果などを新聞社などに配信する事業のほか、各チームに対しチームや選手の強化につながるさまざまなデータの活用を提案もしている。前田氏のさまざまなプロスポーツチームとのつながりを生かし、ジャパンラグビートップリーグのチームで『mcframe MOTION』を使った選手の動作分析を行い始めた。

「正解がない」難しさ

『mcframe MOTION』でスキャンしたラグビー選手のキック時の動作(B-EN-G提供)

『mcframe MOTION』でスキャンしたラグビー選手のキック時の動作(B-EN-G提供)

センサーを使って選手の動作を「見える化」してみると、スポーツならではの課題も見えてきた。前田氏は「スポーツは決まったモノを作るわけではないので、動作の正解が一つではない。選手ごとに体格も違えば、ラケットの振り方もラグビーボールの蹴り方も違う。『この動作なら良い』『この動作はダメ』とは断定できない難しさがある」という。

ただ、『mcframe MOTION』による動作の見える化で、例えばキックのフォームがいつもと微妙に異なることが分かれば、選手が訴える“違和感”など他人には分からない感覚の根拠にもなり得るかもしれない。日本では精神論で片付けられがちなスポーツだったが、客観的なデジタルデータが選手を守り、優秀な選手を育てるノウハウの構築にも役立つ可能性があるのだ。

デジタル化するスポーツの可能性

前田氏によると、海外では野球やサッカーなど各プロスポーツ界でさまざまなデジタルデータを活用するのが「当たり前」になっている。数十億円で獲得することもあるスター選手の運動負荷を制限するなどしてコンディションをベストに保てれば、多くの試合で活躍してもらえ、企業収益にも直結するからだ。

「今後は日本のスポーツ界でもさまざまなデバイス、ソリューションの組み合わせが進む可能性もある」と小林氏。B-EN-Gでは人の視線の動きが分かる技術「アイトラッキング(視線計測)」にも挑んでおり、選手がどこを見て何を判断し、どんな行動に移したのかという一連のプレーが分析できるようになるだろう。「これから生み出されるさまざまなスポーツ向けのソリューションは、個人事業主でもあるプロの選手、パーソナルトレーナーが導入することで自身の高付加価値化にも貢献するかもしれない」と前田氏も同調する。

意識変化に期待

東京五輪・パラリンピックを契機にさまざまなデジタルソリューションの導入が加速するかもしれないが、求められているのは日本のスポーツ界の気づきだろう。小林氏は「まだ挑戦はスタートしたばかりだが、デジタルデータはスポーツには不可欠という意識の変化を起こしていけたら」と期待する。前田氏は「異業種でもあるB-EN-Gさんとタッグを組めた機会に感謝している。製造業で発展していくデジタル技術をさらに勉強し、スポーツのさまざまな場面に生かしていきたい」と話した。

B-EN-G・アジアNEWS

タイ工業省と協力覚書、中小企業のデジタル化支援

東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)は2018年5月、産業高度化政策「タイランド4.0」を推進するタイ工業省産業振興局(DIP)などと協力覚書を締結した。

工業省はタイランド4.0 に必要となる中小企業のデジタル化や自動化を、3段階に分けて進める「3ステージ・ロケット・アプローチ」を実行する。第2段階において、B-EN-Gが開発した、作業現場の作業員の動作や姿勢をセンサーで3次元データ化する『mcframe MOTION』を活用し、動作を3次元データ化することで作業効率が上がる機器のレイアウトの検討などを行う。

B-EN-Gの大澤正典社長は「工業省が進めるデータの見える化を支援していきたい。動作をデータ化することで生産性が2 〜3割改善できるだけでなく、現場の安全性向上にもつながる」と話した。

◉企業プロフィール

株式会社共同通信デジタル
本社所在地:東京都港区東新橋1-7-1 汐留メディアタワー
事業内容:ニュース配信サービス、Webサイト・携帯サイトの運営、システム開発など
Tel:03-6252-6408

東洋ビジネスエンジニアリング株式会社
本社所在地:東京都千代田区大手町1-8-1 KDDI大手町ビル
事業内容:情報通信システムの企画、開発、販売およびリース
Tel:03-3510-7351
Email:mcframe-iot@to-be.co.jp
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