NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2018, No.47

【アジア取材ノート】

フォレスト・シティーの今

新都市、ジョホール沖に現わる

マレーシア

マレーシア・ジョホール州の沖合の人工都市「フォレスト・シティー」が着実な成長を続けている。東京ドーム43個分まで広がった埋め立て地には、「衣食住」に学校や宿泊の各施設が整い、そこに住む「都市住民」も生まれている。順調に見える開発だが、今年5月の政権交代後、中国投資や計画の持続性などを巡る懸念も高まっている。2016年3月の正式着工から2年半、「20年後の70万人都市」の開発現場を訪ねた。(文・写真=NNAマレーシア 北原知也)

マレー半島から続く片道2車線道路の先に、フォレスト・シティーが見えてくる=ジョホール州(NNA撮影)

マレー半島から続く片道2車線道路の先に、フォレスト・シティーが見えてくる=ジョホール州(NNA撮影)

高層コンドミニアムの建設が急ピッチで進められている=ジョホール州(NNA撮影)

ジョホール州イスカンダルプテリ地区からジョホール海峡へ、4車線の道路がまっすぐに延びている。沖合方向に進んでいくと、巨大な高層ビル群が見えてきた。対岸にあるシンガポールの建物ではない。埋め立て地に造成が進む人工都市フォレスト・シティーだ。



不動産以外でも買い物客

販売ギャラリーには中国本土からの団体訪問客がいた=ジョホール州(NNA撮影)

フォレスト・シティー事業は、4つの人工島とマレー半島の一部で開発が進んでいる。総面積は約7,000エーカー(約2,833万平方メートル)、このうち人工島部分は3,425エーカーだ。現在、第1島(アイランド1)の造成が進んでおり、同島の予定面積979エーカーのうち50%の埋め立てが完了した。販売ギャラリーのほか、高層コンドミニアム群、物販や飲食店が並ぶ商業施設エリア、5つ星ホテル「フォニックス・ホテル」、そして米国で160年の歴史を持つ名門全寮制学校シャタック・セントメアリーズのフォレスト・シティー校がすでに建設されている。

開発主体は、中国の不動産開発大手カントリー・ガーデン・ホールディングス(碧桂園集団)と、ジョホール州政府系投資会社クンプラン・プラサラナ・ラヤット・ジョホール(KPRJ)の合弁企業「カントリー・ガーデン・パシフィックビュー(CGPV)」だ。出資比率は、碧桂園集団が60%を占める。

お酒や香水などの免税店が並ぶ商業エリア=ジョホール州(NNA撮影)

販売ギャラリーには中国からの訪問客が目立つ。販売ギャラリーに置かれた巨大な完成予想模型の傍らでは、中国本土から来たという団体客に、販売スタッフが事業概要を中国語で説明していた。

NNAがフォレスト・シティーを訪問したのは火曜日の午前中だったが、クアラルンプール郊外のショッピングセンターに同じ時間帯に訪れた場合よりも、人出は多いと感じた。フォレスト・シティーは「免税特区」に指定されており、酒類や香水、アクセサリーなどが免税で購入できるため、地元ジョホール州やシンガポールからの買い物客も多い。

1万8千戸が売約済み

CGPVによると、これまで住宅2万戸が発売され、その90%に当たる1万8,000戸が売約済み。完成物件は約2,000戸だ。台湾出身の有名歌手も宿泊したばかりだという5つ星ホテルのエントランスから、コンドミニアムのバルコニーに人影が見えた。今年9月1日から480物件の引き渡しが始まり、この人工島に住む「市民」が生まれた。シャタック・セントメアリーズのフォレスト・シティー校も8月に開学しており、約60人の生徒が入寮している。中国と韓国からの生徒が多いという。

清潔に保たれているホテルや商業施設から一歩外に出ると、往来するダンプカーや建設途中のビルに寄り添うクレーン群が見える。販売ギャラリーの一角には、埋め立て技術の解説コーナーが設けられていた。十分な地盤改良を行った後、海底深くまで貫く30メートルの柱を打ち込み、その上にコンクリート地面を造成する。最新の土木・排水技術を駆使しており、CGPVの広報担当者は「地盤沈下の心配はない」と強調した。

完成まで20年

フォレスト・シティー開発の投資総額は、1,000億米ドル(約11兆3,500億円)規模ともいわれている。この壮大な事業は、経済環境の変化に飲まれることなく、資金が枯渇せずに続けられるのだろうか。

CGPVのウン・ズーハン最高戦略責任者(CSO)は、開発を主導する碧桂園集団の企業規模だからこそ、フォレスト・シティー事業が実現できると強調する。碧桂園集団は、中国のほかマレーシア、インドネシア、オーストラリアを含む400都市で1,400件以上のタウンシップ事業を進めており、売上規模で見ると世界最大規模の不動産開発企業だ。「フォレスト・シティー開発を支えられる民間企業は、碧桂園集団しかない」(ウンCSO)。また、国外からの投資や融資が開発資金になっているため、「マレーシアの国民や経済に負荷をかけていない」とも加えた。

フォレスト・シティー事業に関する懸念は資金だけではない。過大な中国投資による「中国化」、つまりマレーシアに寄与しないのでは、との疑念が国内外にくすぶる。ウンCSOは「誤解を解くために最適な場所がある」と、ある場所まで案内した。

<続く>

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