NNAカンパサール

アジア経済を視る July, 2018, No.42

経験の日本、資金力の中国

アジアの高速鉄道争奪戦、勝者は誰だ

無事故・定時性で高い信頼の新幹線

アジアで初めてのオリンピックが東京で開催された1964年10月、東海道新幹線が東京―新大阪間で開業した。最高時速210キロという世界初の高速鉄道の誕生だった。その後、山陽、東北、上越、九州、北陸、北海道に路線網を拡大する一方、半世紀以上にわたって重大事故は起きていない。最短3分30秒という非常に短い間隔のダイヤ、停車駅の異なる複雑な運行にも関わらず、平均遅延率1分以内という高い定時運行率は、世界に誇る日本の技術力の象徴だ。

中国の営業距離は日本の8倍

一方、中国は2003年まで高速鉄道を自国で開発する方針を掲げてきたが、自主開発では急速な経済成長に伴う高速鉄道への需要に対応できないことが明白となり方針を転換。日本の川崎重工や欧州のボンバルディア、シーメンス、アルストムから技術導入して整備を進めることを決めた。この結果、07年に時速200キロの高速鉄道車両「和諧号」の運行を開始した。

同国の高速鉄道網は、運行開始から10年の間に猛烈なペースで拡大。営業距離は17年末時点で約2万5,000キロと日本(約3,100キロ)の8倍に達し、世界一の高速鉄道大国に成長している。

17年6月には新型車両「復興号」の運行を開始した。中国政府は復興号について、「完全に独自の知的財産権を保有する世界先端レベルの車両」(中国共産党の機関紙、人民日報)と主張している。最高時速400キロで設計された復興号は、中国が国策として推進する高速鉄道の海外輸出戦略における切り札と位置付けられている。

インドは日本、インドネシアは中国が受注

経済成長に伴い、アジア各国で高速鉄道が普及し始めている。韓国が04年にフランスの高速列車TGVからシステムを導入した高速鉄道「KTX」をソウル─釜山間で運行開始。07年には、日本の新幹線システムが初めて海を渡り、台湾の台北─高雄間(後に南港─高雄に延伸)で運行を始めた。

今年5月に政権交代が実現したマレーシアでは、マハティール新首相が首都クアラルンプールと隣国シンガポールを結ぶ高速鉄道計画の中止を発表したものの、インドでは日本の新幹線方式による初めての高速鉄道の本格的な建設工事を間近に控えている。

こうしたアジアの高速鉄道の需要を取り込もうと、日中の受注合戦も熱を帯びる。インドネシアの首都ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道計画では、調査段階から深く計画に関わってきた日本の受注が固いとみられていたが、15年9月、土壇場で中国に逆転された。

高速鉄道輸出、日中の温度差

多くの日本人にとって、中国の高速鉄道というと、11年に浙江省温州で起きた追突事故の記憶が根強い。事故を検証する前に現場で車両を埋めてしまうという対応が、世界的な批判を集めた。

だが、専門家などへの取材を通じて目立つのは、中国の高速鉄道の目覚ましい躍進ぶりだ。日本、中国ともアジアへの高速鉄道輸出を重要な成長戦略として位置付けるが、温度差は明白だ。日本政府が積極的に旗振り役を務めるものの、莫大な資金を必要とする高速鉄道でリスクに敏感な民間企業との足並みがそろわない。中国共産党の大号令の下「一帯一路」の実現に向けて、高速鉄道輸出を国策として推進する中国とは対照的だ。

新幹線はガラパゴス技術か

アジアの高速鉄道市場は、半世紀にわたる実績を持つ日本と、急速に力を付けた中国、世界の3大車両メーカー「ビッグスリー」(ボンバルディア、シーメンス、アルストム)を擁する欧州が激しく争う構図だが、専門家は「今や人材でも資金でも中国は日本をはるかに上回っており、技術力でも差が広まる一方だ」と指摘する。

また、さまざまな地理や気象条件を備えた広大な国土を持つ中国は、相手国の条件に合わせた提案が可能。これに対し限られた国内で運行することを前提に独自の進化を遂げてきた新幹線は、受け入れ国にとっては使いにくい「ガラパゴス技術」ともみられている。「元祖・高速鉄道」の老舗のれんだけで、アジア市場を勝ち抜ける時代ではない。アジア諸国から新幹線が選ばれるためには、相手国の立場に立ったきめ細やかなフォローなど、発想の転換が求められている。

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