NNAカンパサール

アジア経済を視る January, 2018, No.36

【食品】「安心・安全」は必然の流れ

ASEAN

経済成長が続く東南アジアでは食に関しても安心・安全な物が求められるようになり、健康に気を遣う消費者も増えた。従来の「安ければいい」という消費スタイルが目立たなくなる中、安心・安全な食品に対する需要が出てきたのは必然の流れだろう。大和総研のアジア事業開発本部 シニアコンサルタントの中村昌宏氏が東南アジアのトレンドを見た。

東南アの主要プレーヤー概要

「オーガニック」は一つの価値

中間所得層が増えてきた東南アジアでは、従来の「安ければいい」ではなく、「安心・安全な食品が食べたい」という消費者が存在感を増している。

昨年、マレーシア・クアラルンプール、シンガポール、タイ・バンコク、インドネシア・ジャカルタなどを調査してきた中で見えたのは、例えば生鮮食品の場合、「オーガニック(有機)」が生産者にとっても消費者にとっても一つの価値として認識されているということだ。

クアラルンプールの中心部にあるスーパーマーケットではオーガニック商品専用のスペースが目立つ。マレーシアのオーガニック基準にのっとった商品だけでなく、他にもオーストラリアや米国、タイなどそれぞれの国の基準に合ったオーガニック商品が販売されている。価格は高めだが、購入する人は多い。この傾向は、相対的に所得水準の高いシンガポールやマレーシアに多く見られる。

一方、バンコクとジャカルタでは、「オーガニック」はうたわれているが、地元で生産された手頃な値段の非オーガニック商品の売り場が大きい。

追跡可能性を重視

バンコクではトレーサビリティーを消費者への訴求ポイントとしているスーパーがある。商品についているQRコードで誰がどこで生産しているかなどの情報(地図含む)を、消費者はスマートフォンを使って店舗内で確認することができる。また、ベトナムではオーガニックではないが、ベトナムの農業生産工程管理(GAP)基準「ベトGAP」にのっとって生産された商品を扱う店が徐々に増えてきている。

キーワードは「健康」

日本勢には加工食品や飲料などのメーカーに商機があるだろう。野菜を日本から輸出するのは採算に合わないのでビジネスにはなりにくい。ただ、「おいしくて、安心・安全」とうたう果物は、小売価格は高めではあるが有望だ。他方、加工食品の場合は、日本企業の商品であることが既に消費者側に「安心・安全」と思われていることが多い。このような前提では、企業側は「安心・安全」の価値(先入観)が損なわれないよう留意はするものの、ことさらこれを訴求ポイントとする例はあまりないようだ。

「健康」は一つのキーワードだ。茶飲料の場合、これまではポッカや伊藤園、サントリーなどの日本勢が無糖の商品を販売してきたが、ここに来て地場メーカーも投入するようになった(NNA POWER ASIA記事「甘くない飲料 タイ地場メーカーが発売」「無糖茶を清涼飲料水化、インドネシアの健康志向に訴求」参照)のは、物品税などの各国の政策変更による影響もあるだろうが、消費者の意識の変化もあるものと考えられる。例えば、子ども向けの菓子メーカーが「甘くない菓子」を開発しても売れる可能性は小さいが、飲料ならば今後拡大する需要を取り込めるはずだ。

4アイテムに商機

日本勢にとって商機となるのは◇パン・ケーキ類◇乳製品◇アイスクリーム◇レディーミール(調理済み食品)─などになりそうだ。

東南アジアではコメが主食だが、これからはパン・ケーキ類の消費も増える。普及し始めているコーヒーチェーンを利用する若者はパンやケーキなど、小麦粉や卵ベースの菓子がマッチすると認識している。

マレーシアの場合、牛乳の自給率は4%程度しかなく、オーストラリアやニュージーランドなどから輸入している。経済成長に伴い、それまであまり消費されていなかった乳製品が食べられるようになり、生産が需要の伸びに追い付いていない。

アイスクリームは、江崎グリコがタイで販売を強化する方針(NNA POWER ASIA記事「グリコがアイスの新商品投入 生産3倍増、トップ3目指す」参照)を示したように、生産・販売体制を拡充する動きはこれからインドネシアやフィリピン、ベトナムなどにも広がっていくだろう。

レディーミールは働く女性が多い国で受けている。これまでは屋台で買って家に持ち帰るか外食するかだった。しかし今は屋台の衛生面を気にする消費者も増えた。また、もともと自宅のマンションに大きなキッチンスペースもないので、簡単に作れるレディーミールの需要が出てきている。

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中村昌宏(なかむら・まさひろ)
株式会社大和総研 アジア事業開発部 シニアコンサルタント。1996年大和総研入社、欧州勤務、経営コンサルティング部、事業戦略コンサルティング部などを経て09年より現職。ASEAN諸国やインドの産業調査、事業環境調査、産業政策分析などを担当。主な担当業種は食品、小売。

信頼、栄養、時短が受ける

東南アジアよりも先に経済力をつけた中国では日本メーカーの食品がよく売れている。日本企業が作る物だから信頼できるとの評価があるほか、忙しいビジネスパーソンには簡単に時短でき、栄養も取れる点が受けているようだ。カルビーのシリアル商品「フルグラ」の場合はどうか。

同社広報部によると、中国では特に女性の間で、主力とするフルグラ、「じゃがポックル」「じゃがビー」の人気が高い。前二者は北海道産で安全であり安心できることを訴求。中国メディアを北海道へ招くツアーも定期的に実施している。

中国の女性の消費者からはフルグラについて以下のような声が上がっている。

東南アジアでも経済成長につれて、このような需要が膨らんでいくとみられる。

NNA POWER ASIA 17年6月30日付

甘くない飲料、タイ地場メーカーが発売

ヘリテージ・グループが発売したアーモンドミルク飲料=バンコク(NNA撮影)

ナッツ加工品やドライフルーツを製造・販売するタイのヘリテージ・グループは2017年6月28日、紙パック入りアーモンドミルク飲料「ブルーダイヤモンド・アーモンド・ブリーズ」の販売を開始したと発表した。

風味は「オリジナル」「無糖オリジナル」「バニラ」「チョコレート」の4種類。販売価格は180ミリリットル入りが20バーツ(約66円)、960ミリリットル入りが99バーツ。1カ月前からコンビニエンスストアなどで販売しており、順調に売り上げが伸びているという。

同社はこれまで米国からアーモンドミルクを輸入し、日本や韓国向けに製品を輸出していたが、今年初めに10億バーツを投じてバンコク西郊サムットサコン県に新工場を建設。自社生産により従来品より30%安く販売できるようになったため、国内販売を開始した。


NNA POWER ASIA 17年10月25日付

無糖茶を清涼飲料水化、インドネシアの健康志向に訴求

イチタンがジャカルタ首都圏で試験販売を開始した無糖茶「テ・タワール」(NNA撮影)

タイの飲料製造・飲食店チェーン大手イチタン・グループが、インドネシアの飲料市場に新しい風を吹き込んでいる。インドネシアのレストランや食堂で飲まれているテ・タワール(インドネシア語で「無糖茶」の意味)をペットボトルの清涼飲料水として商品化。インドネシア人は甘いお茶が好きという固定概念を覆し、中間層を中心に高まっている健康志向に訴えている。

イチタンの現地法人、イチタン・インドネシアが投入した清涼飲料水の商品名は「テ・タワール」。一目で無糖茶と分かる、インドネシア人になじみやすいパッケージデザインにした。ジャカルタ首都圏で2017年8月下旬に試験販売を開始した。同社によると、インドネシアでは、「緑茶飲料」として無糖茶の清涼飲料水は販売されているが、「テ・タワール飲料」をうたった清涼飲料水は初めて。販売価格は5,000ルピア(約42円)と、輸入品の約半分に抑えた。

テ・タワールは、イチタンが本国のタイでも販売していない新商品。先にインドネシアで発売した砂糖入り紅茶「テ・マニス」は、競合他社の商品よりも甘さを控えたが、消費者から「甘くないお茶がほしい」と要望する声が多かったことから、イチタンのインドネシア人社員が率先して商品開発に乗り出した。


NNA POWER ASIA 17年11月1日付

グリコがアイスの新商品投入 生産3倍増、トップ3目指す

新商品を発表したグリコフローズン(タイランド)の島森清孝社長(左から2人目)=バンコク(NNA撮影)

江崎グリコが、タイでアイスの販売を強化する。17年10月31日には、同国で新たに3商品を投入すると発表。17年6月に現地での生産能力を従来比3倍に増強し、拡大する需要に対応する。地方での販路開拓も進め、全国のシェアでトップ3入りを目指す。

江崎グリコ子会社で冷菓のマーケティング・販売を手掛けるグリコフローズン(タイランド)の島森清孝社長は、16年1月にタイでアイス販売を開始してから、「売れ行きは大変好調だ」と話す。当初は生産体制が追いつかず、店舗では欠品状態が続いていたが、地場の協力工場の生産設備を増強したことで、現在は十分な供給体制が整ったと説明した。設備の投資額や生産能力は明らかにしていない。


NNA POWER ASIA 17年11月8日付

近江牛がインドネシアに上陸
初の正規輸出、ジェトロ支援事業

近江牛は17年9月に初めてインドネシアに輸出された=ジャカルタ(NNA撮影)

日本貿易振興機構(ジェトロ)は2017年11月7日、インドネシアに初めて輸出された近江牛の試食イベントを開催した。ジェトロによると、神戸牛と松阪牛を含めた3大和牛のうちインドネシアに正規輸出されたのは今回の近江牛が初めて。日本国内市場が縮小する一方で近江牛の輸出は拡大しており、近江牛輸出振興協同組合(滋賀県近江八幡市)は17年、前年比で約8割増を見込んでいる。



NNA POWER ASIA 17年11月23日付

日本の黒毛和牛を売り込み
まずは認知、じっくり輸出拡大へ

日本国産の黒毛和牛の認知度向上が課題だ=ジャカルタ(NNA撮影)

インドネシア最大の企業間取引(BtoB)の食品展示会「シアル・インターフード・ジャカルタ2017」が2017年11月22日から中央ジャカルタ・クマヨランの国際展示場ジャカルタ・インターナショナル・エキスポで開幕した。日本からは日本畜産物輸出促進協議会がハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)認証を受けた和牛をプロモーション。インドネシアは市場構築を目指すイスラム圏の中で人口が最大の国でもあることから、日本の国産黒毛和牛の認知度を高め、じっくりと輸出の拡大を進めていく方針だ。

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