NNAカンパサール

アジア経済を視る December, 2018, No.36

このトピック、こう読みます

NNAが日々伝えるアジアの経済ニュース。読者の関心が高かったトピックについて、識者が解説した。

韓越の2国間貿易、20年までに千億ドル目標NNA POWER ASIA 2017年11月14日付

韓国

韓国とベトナムが、2020年までに2国間貿易額を1,000億米ドル(約11兆3,460億円)に拡大させる目標を掲げた。韓国の文在寅大統領が11月11日、ベトナム中部ダナン市で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席と会談し、合意した。両国は目標達成のため、政府高官および地方自治体による交流の幅を広げることで、企業投資や輸出の拡大などを狙う。

向山 英彦(むこうやま・ひでひこ)

日本総合研究所 調査部 上席主任研究員。中央大学法学研究課博士後期過程中退、ニューヨーク大学で修士号取得。証券系経済研究所を経て、1992年さくら総合研究所入社。94年に日本総合研究所に入社、2001年から現職。

向山 英彦 氏

近年、韓国がベトナムへの最大投資国になっている。背景には、ベトナムの低い労働コスト、韓国・中国に近い地理的位置、政治的安定性、高成長に伴う中間層の増加などがある。企業の中には、採算の悪化した中国から生産拠点を移転するところもある。

韓国企業の投資はベトナムの産業・輸出構造の高度化に寄与している。サムスングループが携帯電話の現地生産を拡大したことにより、電話機・同部品がベトナムの最大輸出品目となり、関連産業の集積が進み出した。最近では、LGグループも投資を本格化させている。

他方、韓国にとっても、ベトナムが主要な投資・輸出相手国になっている。

両国の経済関係は急拡大しており、貿易額(数字は韓国側の統計)は2010年の約130億米ドルから16年に451億米ドルと増加し、17年は600億米ドルを超える見込みだ。このため、20年までに1,000億ドルに拡大させる目標は十分に達成可能といえよう。

韓国政府は経済・安全保障の観点から、今後東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係を深めていく構えだ。経済関係が深まっているベトナムに対して、人材育成や技術移転の分野で積極的に協力することは、互恵的な経済関係を築き信頼関係を強固なものとする上で重要だ。


大湾区に「水上経済回廊」、18年詳細公表へNNA POWER ASIA 2017年11月30日付

中国

広東省は、「粤港澳大湾区(広東省、香港、マカオの経済連携を図るビッグベイエリア構想)」に「水上経済回廊」を打ち立てる計画を定めた。省内の港湾の機能を底上げしながら、香港・マカオとの連携を強化して国際競争力を高めることが骨子。

島田 英樹(しまだ・ひでき)

日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部中国北アジア課 課長代理。1998年に東京三菱銀行(当時)に入行し、北京大学留学、大連支店勤務。2005年ジェトロに入構し中国北アジア課に配属。09年ジェトロ北京事務所に赴任、約7年にわたり日系企業支援業務に従事。計10年にわたる中国駐在を経て、16年6月から現職。

島田 英樹 氏

17年7月1日に香港で発表された粤港澳大湾区構想は、中央政府認可の国家レベルの発展計画で、現在は具体的なプロジェクトが徐々に公表されている状況だ。

構想の対象地域は、広州や深センなど広東省の9市と香港、マカオで、地域の人口は約6,760万人。域内総生産(GDP)は約1兆3,000億米ドルと、韓国やロシアの経済規模にも匹敵する壮大な構想と言える。

構想により、◇都市間の出入境手続きの簡素化による観光業や小売業、飲食業の発展◇香港や広東省の住民による移住や相互往来の活発化◇スタートアップ企業が多い深センとアジアの金融ハブの一つである香港による金融分野での連携──などが先行して実現していく可能性がある。

ただ、具体的なプロジェクトについてはまだ不明な点も多い。今後公表される具体策のフォローが必要だ。課題としては、法律や税制、通貨などをどう共通化して運用するかという点などが挙げられる。

イノベーション分野での発展が著しい深センは、IT化や自動化、スマート化を推進している。モノづくりの知恵や改良との融合は日本企業が得意な分野でもある。深センのイノベーションの進展に伴い、同分野で日本企業がビジネスを得る機会が期待される。


スマートシティー指数、香港は68位NNA POWER ASIA 2017年11月14日付

香港

スマートパーキング事業を展開するスウェーデンのイージーパークによると、2017年度版のスマートシティー指数ランキングで、香港は評点5.29点となり世界68位だった。香港のライバルとされるシンガポール(7.83点)は2位につけており、大きく引き離された結果となった。

岡村 久和(おかむら・ひさかず)

亜細亜大学 都市創造学部 教授。1955年東京生まれ、78年早稲田大学商学部卒業。日本IBMで環境関連ビジネス事業やスマートシティー事業の立ち上げを行う。政府の関連する委員も歴任。2016年から現職。17年には、「スマートシティに最も影響のある世界の50人」に選出。

岡村 久和 氏

スマートシティーの定義については、さまざまな違った議論がある。ISO37120シリーズのようなスマートシティーを標準化し評価する仕組みも出る中で、自国の得意な産業を前面に出し、定義する国も多い。欧州の先進国ではその暮らしやすさをどのように向上させるか、東欧やアジアの新興国ではいかに先進国のような進んだインフラを入れられるか、発展途上国ではいかに普通の生活ができるか、などを目標とし、かつ定義する。一方、日本では再生可能エネルギーを中心にしたエネルギーに傾倒しての定義とプロジェクトが主流だ。

香港に対する評価は広い視点で行われているが、先端技術をどう取り入れてインフラと街づくりが考えられているかという傾向が比較的強い。そのため、アジアではシンガポールと並び早くから市街化や都市化、さらに欧米化が進んでしまった香港にとって、既に出来上がった仕組みの中に先進性を今から取り入れることは難しいという事情がある。シンガポールはそれでも政府主導で大規模な都市改革を断行できたが、香港の場合は中国への返還で多くの技術者やリーダーが流出したことも、対応の遅れに起因している。ただ、さまざまなスマートシティーの定義とそのランキングの存在を考えると、先進国並みといえる香港の暮らしやすさなどの視点も重要となるだろう。


インドのGDP、28年に世界3位の規模にNNA POWER ASIA 2017年11月15日付

インド

米金融大手バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは13日、インドの名目国内総生産(GDP)が2028年までに日本を抜き、世界3位の規模に達するとの見通しを示した。同社はインド経済について、生産年齢人口の拡大による貯蓄と投資の増加に加え、金融市場の発展が成長を支えると指摘。向こう10年間の名目GDP成長率を10%と予測している。

佐藤 隆広(さとう・たかひろ)

神戸大学経済経営研究所 教授。博士(経済学)。印ジャワハルラール・ネルー大学フェロー、北海道大学客員教授、日本南アジア学会和文誌編集委員長、内閣府経済社会総合研究所客員主席研究官を歴任。第1回日本南アジア学会賞を受賞。著書に、『インドの産業発展と日系企業』、『激動のインド第3巻』、『現代インド・南アジア経済論』、『BRICs経済図説』などがある。

佐藤 隆広 氏

同様の予測として有名なゴールドマンサックスの2003年のリポート「BRICsとともに見る夢」では、インドが日本を追い抜くのは35年だった。しかし、バンカメ・メリルの予測ではその時期を7年も前倒ししている。今後、日本のGDPが停滞すると仮定すると、インドは平均7%台の成長を10年継続すれば日本のGDPにキャッチアップする。

ただ、同社がインドの成長要因の一つに挙げる生産年齢人口の増加は、成長の必要条件でも十分条件でもない。むしろ、人口増加による失業問題の悪化が懸念される。

インドの就業人口の半分を占める農業部門のGDPシェアは15%に過ぎない。さらに国民の3割が貧困状態に陥っている。貧困層に適切な職を提供し、成長していくためには、低生産性・低成長部門から高生産性・高成長部門への労働移動が不可欠だ。そのためには、産業間・地域間・階層間で分断され、法制度や労使関係で硬直的となっている労働市場が統合、柔軟化され、さらに調和のとれた市場に生まれ変わる必要がある。さらに、一部の富裕層や大都市に限られるような高度成長は社会的あつれきを生むため、多くの国民の支持を得られないだろう。

今後、モディ政権がこうした困難な課題にどう取り組んでいくのか注目する必要がある。

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