NNAカンパサール

アジア経済を視る November, 2017, No.34

このトピック、こう読みます

NNAが日々伝えるアジアのニュース。読者の関心が高かったトピックについて、有識者が解説・分析した。

民間住宅価格、3Qは4年ぶりプラスNNA POWER ASIA 2017年10月3日付

シンガポール

シンガポールの都市再開発庁が発表した不動産統計によると、2017年7〜9月期の民間新築住宅の価格指数(09年1〜3月期=100、速報値)は137.3となり、前期比で0.5%上昇した。4〜6月期までは過去最長の15四半期連続でマイナスを記録しており、4年ぶりにプラスに転じた。

コンドミニアムなど土地なし住宅の価格指数は、7〜9月期に前期比0.4%上昇の134.2となった。4〜6月期は0.1%下落していた。地域別では、中心部が0.2%上昇。4〜6月期は0.5%下落していた。郊外などその他地域は前期の0.3%下落から0.7%上昇へと大きく回復している。中心部周辺は前期から横ばいだった。

椎野 幸平 (しいの・こうへい)

拓殖大学国際学部准教授。青山学院大学国際政治経済学部修士課程修了(国際経済学修士)。1994年に日本貿易振興機構(ジェトロ)入会。ジェトロ・ニューデリー、ジェトロ・シンガポール次長(調査担当)、海外調査部国際経済課長などを経て、2017年4月から現職。著書に、『FTA新時代〜アジアを核に広がるネットワーク』(ジェトロ、共著)など。

椎野 幸平 氏

シンガポールの民間住宅の価格指数と賃貸指数はともに2013年第4四半期から15四半期連続のマイナス成長となっていた。こうした中、今年第3四半期は住宅価格指数の伸び率がプラスに回帰した。

これまでの民間住宅価格の下落は政策的な要因が大きい。具体的には、ローンの毎月の支払額への上限設定や、国民の2軒目以降の住宅購入に対する追加印紙税の課税と同税の引き上げ、外国人による住宅購入に対する追加印紙税の引き上げなど、投機的な不動産投資への抑制策の強化が挙げられる。さらに、査証発給の厳格化で外国人の流入を抑制したことも、住宅価格に影響したと考えられる。

いずれの政策も、外国人の増加や住宅価格の大幅な上昇に対する国民の不満により、11年の総選挙で与党の得票率が低下したことが大きな契機となっている。その点ではこれまでの住宅価格の下落は想定の範囲内だったと言えるだろう。

今後の住宅価格の見通しは強弱織り交ざっている。押し上げ要因としては、シンガポールの実質賃金が近年、4%前後と高水準で伸びていることや、投機抑制策の緩和措置が打ち出される可能性が挙げられる。一方、コンドミニアムなどの高層住宅の主要な借り手である外国人の伸び率抑制は引き続き、住宅価格の上値を抑える要因となりそうだ。長期金利上昇の可能性もリスクになる。


世界競争力23位、前年から2ランク上昇NNA POWER ASIA 2017年9月28日付

マレーシア

世界経済フォーラム(WEF)が発表した2017〜18年度版「世界競争力報告」のランキングで、マレーシアは137カ国・地域中23位となり、前回の25位から2ランク上昇した。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国では、シンガポールに次ぐ2位だった。

競争力ランキングは、国際競争力指数(GCI)に基づいて作成。競争力を「基本条件」「効率性」「革新性」の3分野(12項目)に分類して包括的に分析した。GCIは1〜7で、数値が高いほど競争力が高いことを示す。

マレーシアのGCIは5.17で、前回の5.16から上昇した。項目別に見た評価では、主要3項目のうち、基本条件が5.5で24位、効率性が4.9で24位、革新性が4.9で21位だった。

川端 隆史 (かわばた・たかし)

株式会社ユーザベース/ニューズピックス チーフ・アジア・エコノミスト。東京外国語大学マレーシア専攻卒業。1999年~2010年外務省(在マレーシア日本国大使館等)、10年~15年SMBC日興証券(ASEAN担当シニアエコノミスト)、15年8月Uzabase/NewsPicksに参画、16年3月Uzabase Asia Pacificに出向。共著書に『マハティール政権下のマレーシア』(アジア経済研究所)、『東南アジアのイスラーム』(東京外国語大学出版)。 https://www.uzabase.com/

川端 隆史 氏

マレーシアが23位、スコア5.17というポジションは、全体を俯瞰しつつ、前後と比較すると興味深い。28位のアイスランドが4.99であり、29位のエストニアが4.85と急にスコアに溝が生じる。5点以上獲得している国・地域は頭一つ抜けていると解釈できる。

マレーシアの前後には先進国が多く並ぶ。より上位は18位:オーストリア(5.25)、19位:ルクセンブルク(5.23)、20位:ベルギー(5.23)、21位:オーストラリア(5.19)、22位:フランス(5.18)、より下位は24位:アイルランド(5.16)、25位:カタール(5.11)、26位:韓国(5.07)、27位:中国(5.00)、28位:アイスランド(4.99)だ(括弧内はスコア)。

このランキングは、項目別スコアこそ読み込むべきだ。マレーシアは「保健衛生・初等教育」が6.3と最も高い。次いで「インフラ」(5.5)、「マクロ経済環境」(5.4)、「ビジネスの洗練度」(5.1)、「財市場の効率性」(5.1)、「市場規模」(5.1)への評価が高い。人口が約3,000万人のため、市場規模が評価されるのは意外かも知れないが、1人当たり国内総生産(GDP)が9,623米ドル(17年IMF予想)と1万ドル目前であり、単価の高い財・サービスが消費される特徴がある。「量より質」の市場と言えるだろう。


LGDのOLED広州工場、19年に稼働へNNA POWER ASIA 2017年9月25日付

韓国・中国

韓国LGディスプレーの呂相徳(リョ・サンドク)最高マーケティング責任者(CMO)はこのほど、中国・広東省広州市で建設を進めている有機EL(OLED)パネル工場が2019年上半期(1〜6月)にも稼働する見通しであると明らかにした。同工場は同社にとって海外で初めてのOLEDパネル工場となる。

OLEDテレビはパネルの供給不足を背景に価格が高止まりしており、パネル生産能力の不足が普及を妨げていると業界内で認識されている。呂CMOは自社のOLEDパネル生産能力について、「すでに月10万枚を超える規模を確保した。20年には年600万枚体制を確立する」と説明。OLEDテレビの価格は20年に一般消費者に受け入れられる1,500米ドル(約16万8,000円)の水準まで下がるとの見通しを述べた。

中国国内では、京東方科技集団や深セン市華星光電技術などの国内パネル大手がそろってOLEDパネルの開発に乗り出している。

謝 勤益 (デビット・シエ)

IHSマークイット アナリシス&リサーチ シニアディレクター。台湾の中原大学で工業・システムエンジニアリング学系の学士、米プレストン大学で経営学修士(MBA)を取得。日系や台湾の大手LCDメーカーで生産管理・エンジニア、営業マネジャーなどを経て、米市場調査会社、NPDディスプレイサーチに入社。中華圏の副社長を務める。IHSが同社を買収した14年から現職。台湾と中国における薄膜トランジスタ(TFT)LCDや液晶テレビのバリューチェーンに詳しい。

謝 勤益 氏

薄型パネルディスプレーの用途に占める有機EL(OLED)の割合は液晶ディスプレー(LCD)と比べてまだ小さいが、積極的な採用や生産能力の増強で売り上げ規模は拡大している。韓国のディスプレーメーカーは中小、大型のパネルの両分野でOLEDに軸足を移している。中国メーカーも積極的にOLEDの生産能力の増強に投資している。

OLEDの売上高は2016年の151億米ドルから17年は236億米ドルに増えるとIHSマークイットは予測する。20年には430億米ドルで薄型ディスプレー全体に占める比率が29%に、24年には495億米ドルで同36%にそれぞれ拡大するとみている。一方でLCDの売上高は、テレビ向け製品の価格下落を受け、薄型ディスプレー全体に占める比率が20年に70%、24年には64%に縮小すると見込んでいる。

OLED市場の今後の拡大要因として、テレビやVR(仮想現実)・AR(拡張現実)端末、自動車用モニター向けの需要増が期待できる。モバイル向けOLEDパネルとタッチセンサーの統合も、単価の上昇につながりそうだ。

中国のメーカーが今後、スマホ向けやフレキシブルディスプレーに対応したOLEDを生産するほか、韓国のディスプレー大手は中国の競合メーカーを抑えるために常に価格戦略を展開しており、双方のメーカーの動向が市場全体に影響していくとみられる。


現代エンジ、プノンペンタワーの権益売却かNNA POWER ASIA 2017年9月19日付

カンボジア

現代エンジニアリングは、首都プノンペンに所有するオフィスビル「プノンペンタワー」の権益を、不動産投資会社プリンス・リアル・エステート(カンボジア)インベストメントに売却したようだ。プノンペン・ポスト(電子版)が伝えた。

複数の関係者によると、14日に売却契約を交わした。現代エンジニアリングの関係者は「秘密情報が多く、今は詳細を明かせない。近く話すことができるようになるだろう」と述べるにとどめた。

プノンペンタワーは2011年に完成した22階建ての高層ビルで、日系企業も多く入居する。

荒木 杏奈 (あらき・あんな)

アンナアドバイザーズCEO。宅地建物取引士。1984年生まれ、東京都出身。大手広告代理店のセプテーニやSBIグループを経て2012年からカンボジア・プノンペンの金融機関に勤務。13年に独立し、日本とカンボジアに拠点を持ち、国内・海外の不動産サービスを展開する。著書に『東南アジア投資のラストリゾート カンボジア』(幻冬舎)。

荒木 杏奈 氏

7%台の経済成長が続くカンボジアの首都プノンペンは、目に見えるほど街が好調に発展している。外食チェーンは日系では「牛角」や「丸亀製麺」、「吉野家」などが進出。日系以外の外資では、昨年進出したばかりの「スターバックス」が既に4店に増え、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」や「コールド・ストーン・クリーマリー」なども出店した。建設ラッシュも起こっており、1カ月おきに訪れても街が様変わりしているのを実感するほどだ。

その背景には、カンボジアと関係が良好な中国からの資金流入がある。記事に登場するプリンス・リアル・エステートも、2015年に進出してきた中国系の企業だ。同社はプノンペン市内の大使館エリアであるトンレバサックや、イオンモール裏の開発エリア、ダイヤモンドアイランドの両地区にコンドミニアムやオフィスタワーホテルなどを開発している。またプノンペンから約200キロメートルに位置する海岸エリアのシアヌークビルでは、5つ星のリゾートホテルを開発中など、不動産事業を積極的に展開している。

プノンペン市内では、プノンペンタワーより北側に位置する市北東部のドーンペン地区の発展が著しい。大手企業や金融機関が集まり、新しいオフィス街がここに形成されている。現代エンジニアリングのプノンペンタワーの売却には、オフィス街の発展の中心が同地区に移ったことでプノンペンタワーのテナント運営が厳しくなってきたことや、現代エンジニアリングの本国の事業不振などが背景にあると考えられる。

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