NNAカンパサール

アジア経済を視る September, 2017, No.32

このトピック、こう読みます

NNAが日々伝えるアジアのニュース。読者の関心が高かったトピックについて識者が解説、分析した。

再生エネ発電を拡大へ 4年で太陽87GW、風力110GWNNA POWER ASIA 2017年8月1日付

中国

中国国家エネルギー局は再生可能エネルギーによる発電の拡大に向けた、2020年までの行動計画を発表した。今年から20年まで年度ごとに、各地に具体的な発電能力の増設目標を割り振った。今後4年間で太陽光発電は86.5ギガワット(GW)、風力発電は110.41GWが全国で増設されることになる。拡大が見込まれる中国の再生エネ発電だが、その一方で発電電力の浪費や発電量の増加に伴う補助金の不足といった問題も浮上している。

成川 哲次 なりかわ・てつじ

マーケティングリサーチ&市場予測の専門会社・総合プランニング第5マーケティング部1グループ次長。2007年入社後、家電・空調・エネルギー分野を中心に300件以上の調査を担当。海外数十カ国に赴くなど、豊富な実地調査の経験がある。

成川 哲次 氏

太陽光や風力発電の導入量世界トップは米国や日本ではなく、中国である。その量は圧倒的で、国際エネルギー機関(IEA)によると2016年時点の太陽光発電の年間導入量は1位が中国の34.5GW、2位は米国の14.7GW、3位は日本の8.6GW。また、世界風力会議(GWEC)によると、風力発電の年間導入量も1位が中国23.3GW、2位米国8.2GW、3位ドイツ5.4GWとなっている。

中国にはトリナ・ソーラー(天合光能)の江蘇省常州工場やジンコソーラー(晶科能源)の江西省上饒工場など、世界最大級の太陽光発電モジュール工場が5カ所あるほか、風力発電タービン製造の世界トップ10社のうち、ゴールドウインド(新疆金風科技)やチャイナ・ミン・ヤン・ウインド・パワー・グループ(広東明陽風電産業集団)など中国企業で5社を占めている。

中国政府は17年1月に開発中の石炭火力発電のタービン100基を閉鎖する方針を打ち出しており、世界最大級の再生エネ開発国として普及を推し進めていく構えだ。課題として、地方から都市部への送電網の容量不足や蓄電設備の不足が存在する。それらを解決する上で、日系企業や外資系企業には大きなビジネスチャンスが生まれそうなものだが、過去の入札事例からも大半は中国の地場企業が受注しているのが実情だ。

一方、ゴールドウインドと米アップルは合弁会社を設けると発表しており、外資系企業が中国再生エネ市場に参入する事例として参考になるだろう。今後は地場大手との合弁や連合入札により受注を目指すなどの動きが不可欠であり、補助金の活用も含め、地場系との協業は最短、最善の市場攻略法となることは確かだ。


世界最大の二輪車生産拠点に ホンダ、安全・環境対応を強化へNNA POWER ASIA 2017年8月3日付

インド

ホンダは、インドを世界最大の二輪車生産拠点とする。このほど南部カルナタカ州に置く工場で4本目のラインを稼働。年産能力を計580万台から640万台に増強した。今後は2019年の安全規制の強化と20年の排ガス基準の引き上げへの対応が販売の鍵を握るとみる。一方、同社は他の南アジア諸国でも、二輪車市場の潜在性に注目する。バングラデシュでは年産能力20万台程度の工場設置を検討している。

カウシーク・マドハヴァン (Kaushik Madhavan)

フロスト&サリバンモビリティ部門MENASA(中東、北アフリカ、南アジア)地域統括ディレクター。自動車業界において15年以上の経験を持ち、戦略コンサルティングやマーケットリサーチを中心に自動車メーカーの競合分析やベンチマーク、新規市場参入や新規ビジネスモデルの評価、自動車技術の最終消費者分析などに知見を有する。

カウシーク・マドハヴァン 氏

インドで販売される乗り物のうち、二輪車は実に80%を占める。国内二輪車市場は過去5年間で急成長し、販売台数は2011〜12年の約1,340万台から、16年〜17年現在までの間に約1,760万台へと増えた。同時に、二輪車の輸出も増加傾向にあり、16年から17年にかけては230万台に上る。

今後3年から5年の間、インド二輪車市場の成長においてスクーターが大きな役割を担うと予測される。「アプリリアSR150」や「べスパ」といった最新のトレンディーモデルの投入により、スクーターは単なる移動手段ではなくなった。移り変わりの激しい若い購買層の好みを反映した最新デザイン、トレンドを決定する上で、重要な役割を担いつつある。

21年から22年にかけて実施予定の燃費規制や二酸化炭素(CO2)規制を受け、電動スクーター市場の成長は加速する見込み。すでにヒーロー・エレクトリックなどの大手メーカーが製品を出しているのをはじめ、スタートアップ企業「AtherEnergy」はインド初となるクラウドとのコネクティビティーを持つスマート電動スクーター「S340」を開発し、この新型スクーターの普及に力を入れている。インド政府や民間セクターも、今後国内の電動スクーターの充電インフラの開発に取り組む意向を表明しており、インドの電動式パーソナルモビリティーの未来は非常に明るいものとなりそうだ。


サルウィン川ダムの再交渉を 軍政が中タイに安売り、内需優先へNNA POWER ASIA 2017年8月4日付

ミャンマー

ミャンマー東部を南北に流れるサルウィン川(中国名・怒江)の水力発電ダム建設計画を見直すべきとの声が強まっている。ミャンマーの旧軍事政権は外貨獲得を狙い、中国やタイの企業が開発費用を賄う見返りに長期的に安価な電力を供給する内容で基本合意したが、民政移管して国内発展が急速に進む中、電力需要も拡大。国内供給を優先すべきとの意見が強まる。環境への影響を懸念する声もある。

六辻 彰二 むつじ・しょうじ

国際政治学者。博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者——現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)など。他に論文多数。Yahoo!ジャパンニュース個人オーサー。

六辻 彰二 氏

国際エネルギー機関(IEA)によると、2011年に771万7,000キロワット(kW)だったミャンマーの電力消費量は14年には1,002万6,000kWに増加。先進国からの投資やヒトの移動の急増は、電力需要の高まりに拍車をかけている。

一方、発電量は11年の986万8,000kWから14年の1,415万7,000kWと消費量を上回るペースで増加しており、その差である輸出量も増え続けている。この状況の下、電力生産の約6割を占める水力発電の重要性はとりわけ高い。

ところが、この分野で大きなシェアを占める中国企業によるダム建設が自然環境や流域住民の居住空間に悪影響を及ぼすことは稀でなく、しかもそれに対する批判は抑え込まれてきた。西側が経済制裁を行っていた間にミャンマーに進出した中国は、民主化後も同国の軍隊と緊密な関係にある。サルウィン川にあるハジー・ダムの建設予定地などにはミャンマー軍が展開している。

民主化によって言論の自由が保障される中、ミャンマーではこれまで封じられていた不満が噴出するとともに、ビルマ・ナショナリズムが高まっている。この状況は、軍隊と距離を置くスー・チー政権にとって、中国との不透明な関係やその過剰な存在感を見直さざるを得ない圧力となっているのである。


堅調な伸び目立つ高級車市場 半期で前年比8%増、通年10%もNNA POWER ASIA 2017年8月1日付

インドネシア

今年はインドネシアの自動車市場全体が通年で4%成長と予測されている中で、高級車市場は10%成長するとの見通しで、堅調な伸びを示している。上半期(1〜6月)は6億ルピア(約500万円)以上の車種の販売台数(ディーラーへの出荷ベース)が前年同期比8%の伸びだった。世界的に見てもインドネシアは潜在的な高級車市場と認識されており、景気の先行きが不透明な中でも安定した成長を維持しているようだ。

藤井 真治 ふじい・しんじ

インドネシア進出やアセアン事業戦略を支援するAPスターコンサルティング(シンガポール)代表。自動車メーカーの広報、海外営業企画、事業企画など本社機能経験とインドネシア現地法人9年、香港現地法人3年の現場経験をベースとし、自動車ビジネスの開発、製造、販売・マーケティング、アフター、バリューチェーンまで幅広い領域をカバーする。
<http://www.ap-star.jp/blog/b170819.html>

藤井 真治 氏

記事本文にある「2017年半期で昨年比300台以上増えた」との箇所は誤差の範囲内と言える。同じく本文中の「インドネシアでプレミアムカーが自動車市場の中で安定的な地位を保っている」ことは間違いない。

その背景に、同国の富裕層や超富裕層の大半を占める華僑・華人が、同国を「ついのすみか」と考え、多少目立っても蓄えたお金を自分や子々孫々のためにインドネシアで使おうという意識が定着したということもありそうだ。これまでの旧世代の華僑・華人には、全員ではないとしても「目立たずに、インドネシアで稼ぎ、海外に資産を蓄え、将来は脱出も考慮」という意識があった。

歴史的に、中国からの移民である華僑・華人の富は元々インドネシアに住んでいたマレー系の「プリブミ」の嫉妬の対象になることが多く、暴動などの際にはその潜在意識が群集心理の中で爆発しいろいろとひどい目に遭った。また政府関係者からは、その富のみをうまく利用されることもあった。

しかし近年は華僑・華人の政治参画が促されたこと、治安維持や腐敗撲滅などの国家統制力が増したこと、海外資産の国内再移転促進策(海外資産を戻し必要な税金を納めれば出処は問わない)が功を奏したことなどにより、彼らのインドネシアへの帰属意識が向上したようだ。

現在のインドネシアのプレミアムカーの市場はわずか7,000〜8,000台規模とされ、タイやマレーシア、シンガポールの半分にも満たない。しかし、インドネシアの富裕層、超富裕層の数はこれらの国よりも確実に多く、プレミアムカーの価格は周辺国と比較してもそれほど高くはない。このため保守的だった華僑・華人の価値観や意識が世代交代などによってさらに変化していけば、今後はプレミアムカーの伸びが期待できるだろう。

出版物

各種ログイン