NNAカンパサール

アジア経済を視る August, 2017, No.31

【特別連載】自動車だけじゃないメキシコ

第2回 常に前年上回る販売本数、
ヤクルト

メキシコ

日本以外で28の事業所を構え、37の国と地域で乳酸菌飲料「ヤクルト」を製造・販売するヤクルトグループ。文字通りグローバルに事業を展開する中で、メキシコでの販売量は日本を含む世界で5位。進出後、常に前年を上回る販売本数を維持している。同社はメキシコで成功している非自動車関連の日系企業の一つといえそうだ。
(文 大石秋太郎)

メキシコでも身近なヤクルトレディー(左、ヤクルト本社提供)

メキシコの店頭に並ぶヤクルトの商品(ヤクルト本社提供)

メキシコ現地法人、メキシコヤクルトが営業を開始したのは1981年。2016年12月末現在、社員3,267人を抱えている。ヤクルトやヨーグルトの「ソフール」を含む乳製品の16年の1日当たり平均販売本数は356万本で、日本(936万7,000本※)と中国本土(582万5,000本)、インドネシア(505万1,000本)、韓国(360万4,000本)に続いて国・地域別で5番目の規模を誇る。また、メキシコでの販売本数は営業開始以来、前年を下回った年がないという。※日本のみ16年4月〜17年3月実績

メキシコ事業をサポートしているヤクルト本社国際部の御田昇主事(NNA撮影)

かつて10年間、現地に赴任した経歴を持ち、現在は日本国内でメキシコ事業をサポートしているヤクルト本社国際部の御田昇主事は同国事業について「着実に右肩上がりに成長している」と評価する。堅調の要因として、訪問販売員「ヤクルトレディ」が増えていることを挙げる。また、「メキシコ人はよく辛い物を食べるので、おなかの調子を整えるヤクルトの魅力を実感してもらいやすかったのではないか」とも分析している。ヤクルトもヤクルトレディも現地ではとても身近な存在なため、ヤクルトがメキシコ企業の商品だと認識している人も多いそうだ。

メキシコヤクルトは、首都メキシコ市から近いメキシコ州イスタパルカ市で、1981年に工場を設けて現地生産を開始。堅調な需要の増加に対応するため、2004年には中部ハリスコ州の州都グアダラハラ市に新工場を開設した。メキシコの工場は、米国に現地工場を開設する14年までは米国への輸出も担っていた。メキシコでの生産品目は、主力の「ヤクルト」、カロリーを抑えた「ヤクルト40LT」、甘さ控えめでハードタイプのヨーグルト「ソフールLT」を展開。さらにメキシコ独自の商品として、ドリンクタイプのソフールLTを生産している。

より密な営業へ

営業拠点はメキシコ市をはじめ、31の全ての州に及び、また人口30万人以上のほとんどの都市に設立している。御田主事がメキシコに赴任していた2000年代前半〜10年代前半には人口が30万人規模でも拠点が未開設の都市があったが、現在は主要都市への進出は一段落した。ここ5年間では、よりきめ細やかなサービスを提供できるよう、これまで1拠点でカバーしていた都市を2拠点でカバーするといった形で20拠点ほど増設している。

営業拠点の開設がある程度進むと、今度はヤクルトレディの力量が重要になってくる。「ヤクルトの価値をお客様に直接丁寧に伝えて、飲んでいただく。こうした営業活動が業績の伸びにつながっている」(御田主事)。メキシコでのヤクルトレディの数はほぼ毎年増え続けており、16年12月末現在8,886人。拠点や人手を増やしたことで、ここ数年は企業のオフィスなどを訪問する職域販売や、警備員のいるマンションなどへの営業にも力を入れ始めている。御田主事は「今ある市場で需要を掘り下げることで、1〜2%の売り上げを積み上げている。メキシコでの営業をさらに密にするため、ヤクルトレディはもう少し増やす余地がある」と話した。

現在メキシコでは、ハリスコ州やグアナフアト州などにまたがる中央高原(バヒオ地域)でのヤクルトの販売が特に好調のようだ。ここには近年、日系の自動車関連企業の進出が相次ぎ、雇用が増えているためだ。

御田主事によると、メキシコでのプロバイオティクス(人体に良い働きをする生きた微生物)商品の販売はメキシコヤクルトが先駆けではあったが、健康志向が高まる中で市場への新規参入は相次いでおり、特に店頭での販売は競争が激化しているという。そのような中でもメキシコヤクルトは、宅配組織を強みとして今後もヤクルトの魅力を顧客一人一人に伝える基本的な普及活動を続けていく方針だ。

メキシコ人を積極的に登用

メキシコのイスタパルカ工場(ヤクルト本社提供)

御田主事はメキシコでのビジネスについて、「メキシコ人はフレンドリーで、宅配を受け入れやすい土壌がある」と話す。また、日本人に対する「まじめでよく働く」という良いイメージが、メキシコでも仕事をスムーズに進めるのに役立っていると実感しているようだ。

メキシコヤクルトでは積極的にメキシコ人を幹部に登用している。現地の工場長はメキシコ人を起用しており、配送社員として入社してからキャリアアップして部長になったローカル社員もいる。御田主事は「多くのメキシコの会社では米国企業のようにヘッドハンティングをするが、メキシコヤクルトは日本のたたき上げ式のやり方がうまくいっており、組織を強くしている」と評価している。

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